音がひとつ、ぽつんと落ちた

ひとつの音がぽつんと落ちて

それが重なり、歌になった


歌がひとつ、静かに響いた

ひとつの歌が静かに響いて波になり

そしてそれは、確かに心を震わせた


小さい機械の箱から、歌が流れている。

USBメモリーに移して、辛うじて残った彼の歌。


永遠が無い事くらい、自分だって知っていた。


知っていたけれど、もしかしたらって思ってた。


少なくとも自分が取り残される側になる事なんて、
ないと思ってた。


彼は自分たちと違って、肉体に死が存在しないから。


ある意味気楽に構えてた、酷い奴だ。


彼の命は永遠でも、
この四角い機械がいつまでも持たないだろう事くらい
大馬鹿やろうだった自分にも、分かっていただろうに


「カイトの歌、今でも好きだよ」


ぽつりと、呟く。


やさしい彼の声が、好きだった。


今でも、彼の唄が好き


けれども、彼はもう、此処にいない。



「泣かないで、マスター」


仕方の無いことだから――


そう言って、彼は最後まで微笑んでいた。


大好きな笑顔で、笑っていた。


最後くらい、恨み言のひとつでも、吐いてくれて良かった。


きっと自分は、彼に満足な事をしてあげられていなかった。


不満だって、いっぱいあっただろうに


それなのに彼は、最後まで自分の好きな笑顔をくれていた。


『ありがとう』なんて、言ってもらえる資格もないのに

突き返す事も出来なくて、持て余してしまっている、最期の言葉

いつか、素直に受取れる日は来るのかな、

とてもじゃないけれど、先は見えない。



新しく買ったパソコンに、KAITOはインストールしていない。


怖くて、できない。


自分はまだ、昔のカイトに縋っていた


彼と共に過ごした時間を、白紙に戻す事が嫌だった


自分はとてつもなく弱い人間だ。


強いフリして粋がっていた。


自分だって人間でしかないくせに、両手広げて大きく見せて

いざフタを開かれれば、
ちっぽけな自分が怯えているのだから、なんて情けない


今の自分を見て、カイトは一体、何と言うのだろう。


全ては想像の域を超えない、空虚なものだった。


カイトの歌が、響いている。


大好きな、彼の声


彼が残した数少ない歌に、自分は縋って生きている。


なんて儚い蜘蛛の糸だ、きっとすぐに切れてしまう


それでも、寂しい時には、彼の歌を口ずさんで


自分は今でも、彼に生かされている。

彼はもう此処にいないのに、
それでも彼は、自分を支えてくれていた。


音がひとつ、ぽつんと落ちた

ひとつの音がぽつんと落ちて

それが重なり、歌になった


歌がひとつ、静かに響いた

ひとつの歌が静かに響いて波になり

そしてそれは、確かに心を震わせた


「ねえ、カイト―――・・・・」



あなたはまだ、この歌の中で生きている。








虚空に
貴方の歌に寄り添い生きる、それだけで――・・・・













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