雨足が、強くなる。


水溜りを避けて通ったって、結局のところ駆け足では
折角の靴もずぶ濡れで

は急き込む様に、
バス停の日差し避けの下へと入り込む。


一息ついて雨の雫を軽く払うも、
あまり意味は見出せなかった。



「カイトー。早く、こっちこっちー」

「マ、マスタ・・・足、速いですね・・・・」

「って言うか、カイトの体力がないだけじゃ・・・・」

「むぅ・・・・俺は充電式なんですよ」


ちなみにエネルギー源はアイスです。


そんな事を言いながら、同じく日差し避けの下に入ってきた彼に
ハイハイ、なんて、返事は適当だ。


その日の雨は、唐突だった。


天気予報では
晴れのち曇りだなんていっていたけれど、空は快晴


急いで出掛けて帰ってくれば、
被害に遭わずに済むだろうと、カイトと2人出掛けたわけで

実際には、帰れなかったから、こうして雨に濡れているわけで。



空模様が変わったと思ったら、
振り出しは予告なく容赦なかった。



厄介だなぁと思うものの、一度こうして雨宿りを始めれば、
再び雨の中に踏み出す踏ん切りは付かなかった。


「っていうか、カイト絶対雨の日は
 そのコート脱いだ方が良い。」

「・・・・・ですね」


雨の中、全力で走ってきたせいもあるのだろう。

白いコートの裾は見るも無残で、
洗うのに一苦労しそうだった。


やれやれ、と思わず座り込んで、裾を摘まむ。


じっとりと水分を吸い込んで重たくなったそれは、
蓄えきれなくなった分の水を滴らせていた。


まあ、明日は一日晴れると言っていたし
洗濯するのに難はないだろう。



「・・・・おや」

「どうしました?マスター」


溜息をついて立ち上がろうとすると、フと


バス停に備え付けのベンチの下に映る、ガラス色の瞳。


同じくしゃがみ込んで覗き込む彼は、
それを見て納得したようだった。


「猫・・・ですか」


「うん。人に慣れてんのかなぁ」


こんなに近いのに逃げないや。

言ってみれば
って言うか猫も雨に濡れるのが嫌なだけなんじゃ・・とカイト。


そうかもねぇ、と笑って。


猫が、微かに甘えたような声でひとつ鳴く。


どれ、と少し手を伸ばしてみれば
体を震わせて嫌がられてしまった。


むぅ・・・・と、口を尖らせるとカイトは笑う。


「誰かさんみたいな猫ですね。」

「あらー一体誰の事かしらー?」

「あれ、否定できます?
 気まぐれなところとか、そっくりじゃないですか。
 甘えてきたと思ったのに、近づけば怒ってみたり?」

「う・・・・・」


そう言われてしまうと、痛い。


返す言葉に困ってしまう。


気まぐれな自覚はあるけれど・・・・


だって、カイトもカイトで
甘えさせてくれるから――って可笑しい。


これじゃあ本来の立場と逆転してる。


ううぅ・・・・と唸って返す言葉を探すけれど
結局見つからない。


最終的にムクれたに、カイトは笑った。


「まあ、俺は好きなんですけどね、猫」



ハっとして、顔を上げた。

カイトはにこっと笑って見せて



「・・・・どっちのことよ」



ボソボソと言ったに、カイトは「両方ですよ」と
のらりくらりとかわしてみせる。


ベンチの下にカイトが手を伸ばすと、
先ほどと打って変わって、猫は大人しく頭を撫でられていた。



そんな様子に、妬けるのは一体どっちに対してなのやら
いよいよ不貞腐れるを、カイトは笑いながら見つめて


「こっちの猫も、大好きですよ。」


そっと、濡れた髪を撫でて、小さく口付けを落とす。

冷えた唇が、微かな熱を伝えながら触れた。

くすぐったくて、思わず落とした視線の先



「・・・・・・・あ。」



ベンチの下の猫の瞳が
じぃっと2人を見つめていて


妙に気恥ずかしくなって、
雨が強く打ち付ける中、窺うように視線を合わせた2人は



少しの間の後に、同時に苦笑を零して見せた





にとってはいい迷惑
(ああもう、ここでイチャついてくれるなよ)







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