果たして、アイツなのか自分なのか


折角の暇な休日を使って、
それじゃあたまには出掛けようなんて話をしていた、昨日の夜。


けれどもいざ夜が明けてみれば、外は見事な雨空で、
雨男なのか雨女なのか、なんて言い合いは朝から始まっている。


けれどもまあ、お天気模様にかかわらず、
出掛ける予定がキャンセルになる事も無いから構わないけれど。


憂鬱だなぁ、なんて
空を見上げて呟いた言葉も、本当だ。


連日して晴れ晴れとしていたお天気は、
いざとなったら一体何処へ遊びに行ってしまったのか。


何も自分たちの休日に合わせてくれる事ないじゃないのよ、


理不尽に口を尖らせて見ても、相手が天気じゃ分が悪い。



カイトは今、準備をするとかで部屋にいる。



女の準備より遅いってのも考え物だけれども、
よくよく考えれば、家事を済ませてから自分の準備に取り掛かるカイトの方が
自分よりも時間が掛かるのは当たり前で


ごめんね、なんて心の中で軽く謝った所で、当の本人は知らないだろう。



暇だな、と、窓の外を見つめる。



雨脚は弱まる気配を見せず、
どうやら今日一日は、お水と仲良くしていないといけないみたいだ。



こんな時は―――



手持ちの鞄から、常装備になっているミュージックプレイヤーを、ひとつ。


耳につけたイヤホンに、
適当に押した再生ボタンから流れてくるのは、カイトの歌。


目を伏せって、外の世界と一切切り離されて、彼の歌声の中に浸る。


それだけで、今日一日がご機嫌になるなんて、
自分はどれだけ現金なんだろう。


けれども、そんな時が一番幸せで―――


彼の透明な歌声に雨は似合わないけれど、
雨の日でも、変わらず彼の歌はご機嫌だった。


―― 嗚呼、雨女は自分だったかもしれない。


そんな事を、心の隅の隅でちょこっと思いながら。



「マスター?」



ひょっこりと、身を屈めて覗き込んできた彼と目が合う。


いつの間に準備を終わらせたのか、
お外行きの格好のカイトは、不思議そうな顔をしている。



「うん、ごめん。準備出来た?」

「あ、はい。お待たせしました。」

「いやいや、私もちょっとイイキモチになれたし」



言うと、怪訝そうな彼の顔。


嘘は言っていない、彼の歌は心地よかった。


深く腰掛けていたソファから立ち上がって、
鮮明になるカイトとの身長差に、彼の表情を見上げながら、


「行こうか、」


声を掛ける。


カイトはちょっとだけ笑って、首を傾げた。



「何だかご機嫌ですね、マスター」

「うん、ご機嫌。
 だから、ねえカイト。たまには歩いて出掛けようか」

「珍しいですね、いつもは雨の日に歩くの嫌がるのに」



だって雨の日なんて、前髪は持ち上がるし、髪は跳ねるし、
服は濡れるし、靴は汚れるし。


良い事なんて一つだってない、けど


「たまには、ね」


お気に入りの傘を差して、
憂鬱な雨の日を、とっておきの今日に変えてみようか


「そんで、帰ってきたら歌の練習しようよ」


唄う歌は、やっぱりご機嫌な歌が良い。


彼に似合う、青空みたいな歌にしよう。


カイトはクスクスと笑っている。



「良いですよ、マスターの好きな歌、いくつでも唄いますね」



そんなの、いつもの事なのに


こうして改めて言ってもらうと嬉しかったりする、
やっぱり自分は現金だ。


「それじゃあ、マスター、そろそろ出掛けましょう?」


映画とか見たいんじゃなかったんですか?と
カイトに言われて、そうだそうだ、早く行かないと!と慌てて鞄を取り上げる。


靴を履いたりする間、カイトは自分を待っていてくれて、
傘を一本だけ、取り上げた。


「ひとつでも、良いですか?」

「・・・・・・うん、良いよ」


そんなに大きくない傘に、2人身を寄せて入って


触れた指先に、何となく繋いだ手の平はどちらとも無く。


「楽しい日になればいいなぁ、」


呟いた言葉に、カイトは笑った。



「楽しい日にしましょうね」なんて、青空みたいな笑みで。



ポツリ、ポツリ



お気に入りの傘は、憂鬱な雨と一緒に、やっぱりご機嫌な音を奏でていた。





ごきげんなパラソル
始まったばかりの今日の僕たちに、たくさんの幸あれ

















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