今でこそ慣れたものだと言うだけで、


最初の頃は、カイトのその言葉に、本当にシドロモドロだった。


暫くしてから、文頭に”マスターとして”を
補わなければならない事に気付いて


ああ、あの時の無駄な悔しさったらなかったなぁ・・・・


今まで一々赤面していた自分を返せ、なんて

今更ではあるのだけれど。


「マスター、好きです」


カイトは相変わらず、恥ずかしげもなく言ってくる。


一体、そのハニーフェイスは何処から出てくるんですか、とか
言いたい気持ちはとりあえず抑えといて。


その言葉に、「あー」とも「うー」とも付かない音で返事をして
目の前に広げられる雑誌を一枚捲った。


その返答が気に入らなかったのか、カイトはムスっと自分を見ている。


けれども、カイトのその愛情表現も、なんとも頻繁な物なわけで


その言葉に、懇切丁寧に一々返事をかましていたら、
正直な所、こっちの身が持たないわけで。


最近ではかなりスルーに近い方向で、
カイトにとっては、どうにもやっぱり不満みたいだ。


「マスター」

「んー?」

「マースーター」

「うんー。」

「ねえ、聞いてます?」

「聞いてるじゃないの、こんなに」

「好きですって言ったんですよ?」

「だから、うんって――・・・」

「ほら、やっぱり聞いてない・・・」


そう、いじけるような声。


どうしちゃったかね、この駄々っ子さんは、と
息を吐いて雑誌を閉じる。


シュンとしたようなその表情に、手を伸ばして髪を梳いてやるも
カイトにはやっぱり、お気に召さないみたいだ。


「・・・マスターは、俺の声は聞いてくれても
 言葉の意味までは、聞いてくれませんね・・・」

「ん?」

「”好き”って意味、分かってます?」

「そりゃあ、まあ。」


それなのに、いつだって答えはくれないんですね・・・


言ってカイトはしょぼくれる。


ああ、やっぱり


幾らなんでも「あー」だの「うー」だのの返事じゃ、不満だったか。


「マスター、告白とかされたことないでしょ」

「し・・・っつれいな・・!あるわよ、一応!」


これでも、こんなんでも、一応は!!

慰め程度には経験ありますよ!!


今がフリーだからって、一応は年の功、なのだ。


カイトはムスっと口を尖らせて見せた。


「だったら、返事の仕方くらい・・・」

「は?」

「・・・言うだけ言わせておいて生殺しなんて
 マスターって結構魔性の――・・・あだっ」


流石にちょっとばかりムカっと来たので、
言葉が最後まで続く前に、一発引っ叩く。


カイトは叩かれた箇所を押さえて
「酷いですよ〜」と、微妙に涙目だ。

今さっき、むしろコッチが涙目になりそうな事を
言いかけたのは、一体何処のどいつだ。


魔性のって、お前――・・・!!


「・・・ねえ、マスター」

「・・・何」

「ちゃんと、俺の気持ちまで聞いてください。」

「気持ちって・・・・」


それこそ、意味を飲み込めずに戸惑う自分に
カイトはそっと、ガラス色の瞳に真剣を映す。


思わず撥ねた心臓に、トドメを刺すような言葉を吐いた。


「・・・一人の男として、マスター、貴女が好きです。
 だからどうか、一人の女性として、答えを下さい。」


その言葉が、ゆっくりと染込んで、
意味を理解するまでの、時間をたっぷりと使った。


そして、パズルのピースが嵌ったみたいに
唐突に閃いた頭は、顔に体中の熱を集めた。


「ちょっ・・・と・・・!
 好きってあんた、そっちの好き・・・!?」

「?そっちってどっちですか?マスター」

「いや、ちょっ・・待って、
 いつからその意味に取って代わったの!?」

「マスター?」


小首を傾げるその姿が憎たらしい。


けれども、ちょっと待って。


確かに最初は、
”マスターとして”を補う必要のある『好き』だったはずなのだ。


一体いつから意味が取って代わったのか・・・


「もう随分前ですよ?」

「わ・・・っかんないわよバカイト!」

「だから、ちゃんと意味まで聞いてくださいよ、マスター」

「だって・・・・!
 だったら、もうちょっと分かりやすく・・・っ」


ああもう、あたしゃどっかの乙女か。

そんな単純な感情表現をいつまでも取り違えて――


妙な自己嫌悪が、グルグルと自分の中で渦を巻く。


あの、すみません


どこかに丁度良いサイズの穴はありませんか・・・


けれどもカイトはカイトで、
ずっと分からなかったピースを見つけたような顔で「ああっ」とか何とか。


それから、ちょっと照れたような顔で頬を掻いた。


「そっか、それがいけなかったんですね」

「な、にが・・・・」

「・・・・・さん」

「――――っ」


名前を呼ばれた途端、
今まで取り違えていたパズルのピースが、
ぴたりと自分に当てはまる。


ああ、そうだ


本当に、それがいけなかったのよ


まっすぐに見つめるガラス色の瞳。


自分は、どんな顔をして見つめ返して良いのか分からない。


見つけ出したパズルのピースに
その全ての答えはしっかりと、刻まれていたはずなのに――


さん、貴女が大好きです」


ねえ、マスター。答えは?


小首を傾げるカイトが、今は凄く憎らしかった。




取り違えたパズルのピース
先延ばししてた告白の答えを、私は何て返せばいいのだろう






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