風が一陣、ふわりと吹いた


そよりと鳴く夏の風に、深く色付いた木々が唄う。


ずっと高いところにある空


いつもより近くに感じる厚い雲


強い日差しが降り注ぐ大地で、
夏草はつややかに光を弾いていた。


揺れる鮮やかな花に思いを寄せる。


花はそっけなく、朝露の名残を、チラリと瞬かせるだけだった。


全てが輝く世界の中で、そっと瞳を伏せる。


両手を広げれば、世界の中に溶け込める気がした。


―― 溶け込めるのだろうか、自分でも


人間によって作られた、
世界の中であまりにも不自然な人工物


人に在るべき血管や内臓の代わりに、自分が持っているのは、
赤と青で出来たチューブとか、鈍く光る銀色の鉄の塊とかだ。


世界の自然にそぐわない自分が、自然に溶け込むことを望むのは
あまりにも愚かで、馬鹿らしく、そして至極真っ当な事でもあった。



「カーイトー?いるー?」

「あ、はいー」


当然のように、マスターの呼ぶ声に答える。


風がそよりと吹いて、木々は踊り歌を奏で、
自分の上にも太陽の光は降り注ぎ、大地は自分の為の影を伸ばして


風は、自分の髪を攫って行く


人工物である自分にも、世界はあくまでも平等で、
フと聞こえた足音に、振り向いた先にいたマスターも、世界は等しく歓迎し。


いっそ残酷なほどに平等な自然の中で、
自分達は機械と人間でありながら、同じ存在でいられるのだ。


「何してたの?」

「いえ、少しボーっとしてました」


怪訝そうに聞かれて苦笑を返せば、彼女は
ふーん?と、納得したのかしないのか。


ところでどうしたんです?と問いかけると、
彼女は「あっそうそう」と手を打って。


「Gが現れた。」

「え"・・・・・」

「退治してくれたら嬉しいなーとか。」

「・・・放置は駄目なんですか・・・・」

「嫌よそんなのおぞましい」


ああそうですか・・・・と肩を落として


はい、気張って行きましょうカイト君ーと、
マスターは自分の手を取って歩き始めた。


うぅ、嫌だなぁとか思いながら、フと視線を落とした先で、
当然のように落ちる2つの影が、手を取り合い、一つになって。


それだけの事実で何となく気付くのは、
こうしているだけで、自分も世界の一部であり、
自然の中の一つになっているのだと言うこと。


自分は人工物には違いなく、それでも自分は今、
こうして自然の中に、影と言う自然物を創り出している―――


それは紛れもなく、自分が此処にいるからであって、
彼女がこうして、側にいてくれるお陰であって。


それだけの事実でしかないけれど、
それだけの事実が、こんなにも嬉しくて


握り返した手の平に、振り向いた彼女に微笑みかけた。



「ありがとうございます、マスター」

「へ?」


そんなにG退治が嬉しかった?と
どうにも噛み合わない会話に、違います・・・と肩を落としたけれども


「違うんです・・・けど、受け取っておいて下さい」

「んー?どういたしまして?」


疑問系のその言葉に、それでも「はい」と笑みを返した。



風が吹いて、花が、木々が、楽しそうに揺れる


キラキラ輝く世界で、自分は何とも不自然であり



そして、彼女と2人、こんなにも自然の一つだった。






世界をする人工物
そして、貴女も同じく、世界の一つであって――・・・・

















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