真っ白な世界


ゆらゆら、ゆれる


時間はどれだけ過ぎたのだろう


ふとしてみれば


それはまるで永遠の時の様で


けれどもまるで、数秒だけの刹那であった様にも思える。



この真白な世界で、それは確に永遠であり刹那であり


そしてそれはどちらであったとしてもさして違いがなく


時間は無意味で、ここはただの無だ。


此処には音も、歌も、何も、無い



最期に歌ったのはいつだっただろう

最期にあの人の笑顔を見たのはいつだっただろう



「マスター、」



最期にその名を呼んだのはいつだっただろう

最期にあの人に名を呼んでもらったのはいつだっただろう・・・



それは永遠の時の様であり、
けれども刹那と呼ぶには、あまりに儚い時だった。


白い空間を漂う様に、揺れる


ゆらゆら、ゆらゆら


揺れる、揺れて、それだけ──・・・



此処はとても静かだけれど


此処はとても、寂しい所。



「マスター、マスター、聞こえますか?」



答えが返らない事を知っていて呼び掛ける。


白い空間に、声は、響く事もせずに消えていく。


まるでそれさえも無かった事にする様に――・・・



嗚呼、此処は全てを消していく。



あの時に唄った歌も


あの夜に交した言葉も


あの日に見つけた素敵なお店とか



この空間でそれらが現実であったなんて、
一体誰が証明してくれると言うのだ


それを言えるのは、もう自分自身しか居ないのに、
その自分でさえも、もう不安定で


いっそ全てが幻であったなら──・・・



「マスター、また、歌わせて・・・下さ、い」



震える声はつむぐ。

嗚呼これは、一体誰に対しての言葉だと言うのだ



「ごめ、なさ・・・ま、ス、た・・・俺、は・・・」



何に対しての謝罪だろう


この白い空間は永遠で


触れる温もりもなく


叫びは届かず、全て白に飲み込まれていく。



そして最期は自分さえも、この白に消えるだろうか



それならきっと、いくらかマシなのだろう

永遠の孤独の中眠れと言うのなら

消失の方が、ずっと、ずっと――・・・



「マスター・・・会いたい、です」



叶うのだろうか、



自分が消えたその後でも良い。


彼女はまた、名を呼んでくれるだろうか


俺を思い出して、笑ってくれるだろうか



嗚呼、出来るならこのまま消えて


この白い狂気の中に、永久に眠ろう



次に目覚めた時には、自分も白の一部となって



狂気に身を委ね



嗚呼、あの人の作った歌を唄おう



真っ白になって、それでもまだ、あの人の為に、あの人の歌を――



「ます、た・・・俺は、まだ・・・」



消えてしまっても、


例えその後でも


眠りについても


例えその夢でも


俺は、まだ―――



「貴方の歌を、唄いたい」



ねえ、マスター


聞こえてますか・・・・?






白 い 狂 気
永遠に続く孤独に、死の恐怖でさえ麻痺をする






アンインストールではなく、起動しないで放置の状態?
きっと寂しいよねって話。

- CLOSE -