それは、確に。



カイトは、一緒に歩いていると、目立つ。


まず真っ先に目が行くのは、青い髪。

それと同じ色の、透き通る硝子色の瞳。

そして何気に目立つ、青い爪。


幾ら普通の格好をさせたって、カイトは目立つ。

寧ろ普通の格好をさせると、色々な意味で目立つ。


口を開けば多少その・・・難な訳だけれど、


ただの行き違いの人達がそんな事を知るはずもなく

ともすれば、カイトはそりゃあもう、格好良いったらないのだ。


普段の彼を知っているだけに、
彼にそんな形容を使うのは、少々癪なのだけれど。


そんな色々な要素が集体して出来ている
カイトの隣を歩くと集まる視線は、どうしようもない。


その辺り、自分はもう諦めているのだけれど・・・



「あの・・・マスター」



ホラ、来た。


「・・・何?カイト」

「俺、やっぱり髪染めますよ」

「・・・何で」


謀らずとも、口調が少し荒っぽくなる。


カイトは自らの髪に触れながら、困った様な顔をする。


「やっぱり目立ちますし、
 後はカラコンとか入れたら、普通になりませんかね?」

「だから何回も言ってるじゃん、そのままで良いと思うって。」



ムスっとしてが言うと、カイトは益々の困り顔だ。


・・・なんか、これじゃあ自分が我が儘言ってるみたいだ。



「爪もマニキュア使えば誤魔化せるだろうし、
 そうすれば、マスターの横を歩いても、不自然じゃなくなりませんか?」

「青い爪隠すなんて、黒とか濃い色のマニキュア塗らなきゃ隠れないし
 だったらどっちにしても同じようなもんよ。」


それに、今だって普通に歩いてるじゃない、と言うと
カイトは苦笑いを返してくる。


・・・なんでそんな顔をされにゃならん。


「・・・まあ、カイトが目立つのヤダって言うなら、
 考慮位は・・・するけど・・・」



出来れば嫌だな、とか。

思った事は言わないけれど。


「俺よりも、マスターが嫌なんじゃないかなって・・・」

「私はもう慣れた。
 人の視線なんて慣れたもん勝ちよ」


出来ればカイトにはそのままでいて欲しかったから。


カイトの見た目をいじるより、
自分の心に片を付ける方が、手っ取り早かった。



・・・金も掛らんし。



「私の為に見た目変えるってんなら大きなお世話。」



キッパリと言った言葉は、内容こそそっけないが
その言い回しは何か、懇願にも似ていて


カイトは少し困惑する。


それに気付いたのか
はわざと砕けたような口調で「って言うかさぁ」とか続ける。



「なんでそんだけ格好良いのに容姿がコンプレックスみたいになってんのよ、嫌味?」


「え?あの・・・」


「そのままで充分良いじゃない、なんで自分を変える方を前面に持ってきちゃうかな・・・」



だって、それは・・・


口ごもるカイトに、ピシッと突き付けた指先。


カイトが寄り目がちにその指の先を見つめる。



「生まれながら金髪の人達が、その髪を恥ずかしいと隠して歩いてるか?」


「い、いえ・・・」


「生まれながらに目の色の違う人が、目立つからってカラコン入れる?」


「・・・いいえ、」


「世の中いろんな人がいるのよ。
 黒髪がいれば金髪だっているし、年とれば頭真っ白にもなるんだし、
 だったら青い髪の人がいたっておかしかないわよ。」



目が青い人だって珍しくもないじゃない。


爪なんて、寧ろお洒落だなんだって
奇抜な色のマニキュア塗ってる人だっているわけだし。


何よ、何が悪いのよ。


は真っ直ぐにカイトを見て言う。



「カイトが人目を気にして歩かなくちゃいけない理由が、どこにあるの?」


「・・・いえ・・・」



カイトはうっすら微笑んで、答えた。


その答えに、もでしょ?と満足そうに言って。


それから、少し考えて・・・


それに、と続けた。


「私が、そのまんまのカイトを好きなの。」


その、あまりに唐突で、そして真っ直ぐな言葉に
カイトは目を丸くする。


「カイトは私の物なんでしょ?
 私がそのままが良いって言ってるのに、
 他の誰かを気にして見た目変えるなんて許さないわよ。」



プイッと


最後の言葉は、そっぽを向いて言われた。


チラリと見えたその顔が僅かに赤かった事を、刹那の時で確認して。


その、あまりに横暴な、

けれどもそれは、あまりに、なんて──・・・



「殺し文句ですね、」


「あら、私なんかが言っても殺されてくれるの?」


「貴女が言うから、ですよ。」



貴女以外の人が言っても、その言葉は意味がない。


貴女だけが、その言葉で自分を貫く事が出来る。


あなただから


あなたにだけしか――・・・



「・・・マスターが、そう言うのなら・・・」



嗚呼、その言葉は何て横暴で強引で


けれどもなんて


擽ったくて、心地の良い言葉なんだろう


「俺は・・・」


随分、愛されてますね。


言ったカイトに、はカイトを見つめた後に


ほんの少しだけ、微笑った。


「そうよ?」


自分の体は大事にしてよねっと、少し悔しくてカイトの背中を叩いたら
思ったよりも良い音がして、カイトは暫く涙目だった。


「ご、ごめん・・・」

「いえ・・・」



そう、涙目で言われて


いやもう本当にごめん・・・


そんな事を思っていれば、カイトはふっと微笑んだ。



・・・別に、格好良いだなんて思ってないから



「マスター、」


「・・・何?」


「俺は幸せ者ですね、」


「は・・・」



あなたがマスターで良かったです、と微笑んだカイト

どんな答えを返して良いのかも分からなくて。



「・・・当然よ」



カイトのマスターは私だけなんだから、と


その時に困り果てて返した言葉


それは、確に


貴方の為に言った言葉であり


どうしようもない位に自分の我が儘だった








貴方中間点
我が儘であり、願いであり、結果的には救いであって






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