白いエリカの彩る夜に
異世界の歌姫2








だってホラ、此れは夢なんだ。

もしくは幻

私の気狂い・・・?


何だって良い。
とにかく、此れが現実でなければ良い。


だって、さっきまでの友人の温もりが
此処に居ないだなんて


だって、見たことも無い文化が目の前に広がってるだなんて


そんな事、在り得ないでしょ?


しかもソレが、
ゲームの世界によく似て居ました、だなんて


現実に起こりえないでしょう・・・・?



「え・・・・っと・・・・」



先ほどの大きな地震も
今目の前で行き過ぐ人々は何事もなかったように平然としている。


あれ程に大きかったのだ。


こんな普通の生活をしていられるはずもない。


呆然と噴水の淵に腰掛ける自分を
おかしな格好の人たちは珍しそうに横目で見ている。


恐らくは、あちらから見れば、コッチの服装の方がおかしいのだ。


自分の居た所では普通だったその格好が
”おかしい”と感じられる世界―・・・





頬に冷たい何かが触れる。
人の熱に触れ溶けるソレは、元居た世界と変わらない雪だった。
けれども、きっとこの場所に積もる雪は排気ガスで黒く汚れることもないだろう。


吹きぬける風の鋭さと、冷たさがまるで
此れが夢でないと知らしめるように―・・・・


往来の人々は空を見上げる。
この潮風の吹く街に雪が降るのは、珍しい事らしい。


ふと、今自分の居る場所を今まで自分の居た場所と
”別の世界”と分けていることに気付いて、おかしくて思わず吹き出した。
少し、気が触れていたのかもしれない。



だって、こうしていないと気がおかしくなりそうで・・



よほどおかしく見られたのか、
この広場に居る人たちが怪訝そうに見やった。



「・・・・寒・・・。」



一頻り笑ってから、自らの肩を抱いた。
息が白くなびく。


此れが現実であるというのなら、
どうにかしてその寒さを凌がなくてはならないのに・・・


この文化の違い。


通貨もまた違うだろうと、容易に想像も付く。
ならば、どうしたらいいのだろう

こんな時どうしたら良いのかなど
親だって学校だって、近所のおばさんだって教えてくれなかった。



呆然と、噴水の水の音を聞く。
時折飛んでくる水のしぶきが、寒さを更に増幅させた。



「・・・とにかく、少し歩こう。」



此処でジッとしていては、更に寒さが増すだけだし、
この状況がどうなっているのか、少しでも確認したい。


は、咄嗟に部屋から掴んで持ってきたバッグを持ち直すと
噴水の淵から立ち上がった。


雪が降る中を歩く。


――ドンッ!


「わっ・・・!?」


広場をまさに出ようとしたとき、人とぶつかった。
あちらの体格と勢いが良くて、思わず尻餅をつく。


冷たさが素肌に直に伝わって、鳥肌が立った。


「す、すみません・・」


咄嗟にそのままで謝ってから思わず顔を引きつらせた。


「ぁあ?
 人にぶつかっておいてそれだけかよ?」


ガラ悪っ!!


今どきモヒカン頭は流行らないだろうに・・・
そのセンスの無さが逆に憐れに思えてしまう。


「あー肩が痛ぇなー。
 もしかしたら折れたんじゃねぇか?
 あーぁ、どうしてくれるんだよ?」


折れてたらそんな平然と居られるわけがない。


冷静にツッこんでやりたい。


ってゆーか、何時の時代のチンピラだよ・・・・

そんな絡み方をするのなんか
精々お父さん、お母さん世代の人間なのではないだろうか・・


更に、この男が憐れに見える。


「・・・腕よりも頭の方を心配した方が良いと思うけど・・・」


とか思ってたら、思わず口から零れ出た言葉。

・・・・あ、ヤベ。


「な、なんちゃって・・・」


エヘッとか、今更付足しても遅いだろう。
男の額には青筋が走っていた。


「いい度胸だ・・・テメェ・・・
 ちぃっと面貸せや。」


や、殺られるっ!


男に睨まれて咄嗟に思うのはそんな事。

いやだってマジちょっと命の危機なんですけど!?


男の手が伸ばされる。


こうゆう時、何故か反応はよくなるもので・・


は意識もせずにその手を振り払った。

事態は、悪くなる一方らしい。


「あ、あはは・・・・・・・失敬!」


「ぁ、コラテメェ!!」


男の脇をスルリと抜けて、はその場から逃げ出す。
男が慌てた様子で後ろを追ってきた。


見知らぬ世界。


いきなりサバイバルが始まった。











が男から逃げ出して、約20分―・・・


「ヤッバいな・・・
 ど・・しよ。コレ・・・・」


いい加減息が上がる。

男はまだ後ろから付いてきていて、
元々体育会系ではないには、走りっぱなしはキツイ。

行き過ぎる人々は何事かと見やるものの
誰一人として助けようとはしない。


巻き込まれたくないと思うのは、人の心理だろう・・・


兎にも角にも、
この状況は何とかしなくてはならない。



――鞄の中・・・・



ふと、そんな声が頭を過ぎる。


殆どすがるに近く、『声』に言われたとおりに
鞄の中をあさって見た。

中に入っているのは


教科書 制服 体操着 筆記用具 プリント類 お菓子 お弁当 etc....


それと・・・


「何・・・此れ・・・・扇・・・?」


見たことも無い1対の扇が、その他諸々の本などの中から出てきた。


普通の扇にしては少々大きい。
50センチの少し上はあるのではないか。

持ってみると、やけに手に馴染む。


ズシリと重い。


「・・・鉄扇・・・って、ヤツ・・・?
 なんで・・・こんな・・・・」


思うものの他に武器になるようなものは無い。

気付けば、街を一周してきたらしく噴水広場に戻ってきていた。

仕方ない、とは足に力を入れてブレーキを掛けた。


今まで誤魔化していた疲れが、どっと押し寄せてくる。
男もまた、息を荒げていた。

髪の毛が少し、乱れている。


「か、観念したかよ。」


「うっさぃ、時代遅れのチンピラ野郎」


疲れていて喋る事すら億劫で、
無意識の内に口を付く言葉は荒々しい。


男の額に、再び青筋。


「ンのやろ・・・
 テメェ・・・ただで済むと思うなよ!!」


「こっちだって、ただで済まされたら困るんだっつの・・・」


殴りかかってきた男にはポソリと呟いて
ヒラリと身軽に男の拳を避ける。


確実に当たるとでも思っていたのか、
男は避けられたことにより体勢を大きく崩した。



「えりゃ!」



妙な声を上げて、男の後頭部を鉄線で殴る。
――ガンッ!と鉄と骨の当たる音が小気味良いほどに響いて、
男は伸び上がった。


「・・・・・?
 何、コレ・・・」


自分の手を見て首を傾げる。
指先が光り輝いている。


正確には、”爪”が・・・・


首を傾げている内に、その光は収まって
害が無いならまあ良いや、とは


広場は、先ほどはあんなにも賑わっていたのに
今では人が見る影も無い。


「あー・・・ごめんね。こっちも困ってんの。
 不可抗力ってことで、許してね」


そう言って、もうどうにでもなれ、と
は男の懐を探り財布を抜き取った。


ゴメンッと両の手を合わせて見せてから
立ち上がる。


ふと、広場に一人だけ少年がいたのに気付いた。


驚いた様子で、こちらを見ていた。


あれ・・・?あの子・・・・

此処が、自分の思うように『テイルズ オブ レジェンディア』の世界であるなら、
そこに居る少年は、深く関わるハズの人物だ。

確証の持てない今、
は人差し指を立てて口元に寄せて「しーっ」と。


それだけ言うと、広場から逃げるように立ち去った。


「なん・・・だったんだ・・?
 今の・・・・」


残された少年が一人、
呆然とその言葉を呟いていた。






― to be continue...













メインキャラが出てこない〜♪
正確には出てきてないわけではないものの・・・
出てこないに等しい・・そんな状況・・・orz
少年は・・・さぁ誰でせうか
さて、窃盗を働いたさん。
この後は如何なさるのでしょうか!?


って言うか、1m弱の扇子が入るスクールバックって・・・・?(汗