異世界の歌姫3 |
あの男から抜き取った財布が幸いした。 チンピラのクセに所持金は中々のもので、宿屋を借りられたし パン屋で食べ物も買えた。 ついでに、宿屋の下にあるバーで果実酒を分けてもらってきた。 体を温めるのには酒が良い・・・とは、一体誰の受け売りだったか・・・・ 食べるものを食べてから、 は机の上にある本を広げた。 友人・秋羅から借りた攻略本・・・・ この世界について記された本だ。 本日、借りてきたということもあって、 バックの中に入れたままだったのが幸いした。 「とにかく、状況を確認しよう。」 人は境遇の生き物であると、昔、父が遠い目をして言っていた。 幼いにその意味はわからなかったが 今こうして、その場に立ってみるとわかる。 確かに人は”境遇”の生き物であるのかもしれない・・・ その状況に立ってみれば、 イヤでも体は、周りに適応していってしまうのだ。 一口酒を飲む。 キツイ酒だった。 喉を焼いて胃に落ちると、体をじんわりと温めた。 「さっき走り回ってきた感じだと、やっぱり、 この本に載っている通り、私がゲームで最後まで道に迷い続けた街と 同じつくりみたいね・・・」 だって、なに?この複雑なつくりの街 何処の橋渡ったらセネルの家に着くとか 何処を真っ直ぐ行けばミュゼットさんの家だとか・・・・ 結局最後の最後まで把握しきれないまま、何となくでやってきた。 分厚い攻略本は見辛いものの情報はキチンと載っている。 逆に読みやすいがキャラクター情報やらが見やすいのが薄いほうの攻略本。 両方を交互に読み進めていく。 いちいち読み返さずとも、ファーストプレイとは言え 結構やりこんだから大体は知っている情報で、 とりあえず、おさらいみたいな物。 「そう・・・じゅつ・・・・し・・・・」 爪術士・・・・ 爪を輝かせながら特別な身体能力を発揮する者達。 空気中の微弱なエネルギーを力の源とする。 一般的に知られている能力は、身体能力を駆使するアーツ系と術を使うブレス系の2系統。 中には系統に納まらない力を持つ者もいると言われている。 「やっぱり、あの時爪が光ってたのって、そのせいかなー・・・」 体のつくりまで、何処か変化してしまったのだろうか・・・・? 思いながら、酒をもう一口。 「・・・・やっぱり、間違いないのかな・・ 私・・・・ホラ、族に言う・・何?異世界トリップ・・・?してきたってワケ?? あり得ない・・・本気であり得ない・・・」 状況を見てそうだけれども、あり得ないって本当に。 それでも、こうして現状理解を進める自分が いつもの自分に戻ってきていることに、少し安心した。 両方の攻略本が読み終えたのは夜も深けた頃だった。 とは言え、本当に流し読み程度。 キャラクターの詳細とか(これは分厚い攻略本読むまで分からなかった事だし) 今後の流れのおさらいとか。 自分はこれから此処で”生きて”いかなくてはならないのだろう。 疲れた目を癒そうとベッドにダイブする。 ふぅっと息を吐いた。 「・・・・・・・驚いたかなぁ・・・」 その場に居た友人が、突如として姿を消したのだ。 驚かないはずが無い。 「どうなったんだろ・・・、あの後・・・・。 母さんたちは・・・・心配してるかなぁ・・・・」 『娘が行方不明? どうせ友達の家にでも遊びに行ってるんでしょう。 くだらない事で電話を掛けて来ないで下さい!』 そう言って親が電話をきる様が目に浮かぶようだった。 そうゆう人たちだ。 「明日からどうしよう・・・・」 チンピラの財布は2・3日は持ちそうだが、それにしても 窃盗で食って行けるほど、自分の運動神経に自信はない。 何か・・・・この世界で生活していける事を・・・・・ 「ん・・・・。」 そんな事を考えながら、 結局の意識は、眠りの中へと飲込まれていった。 ―― ・・・。 声がした。 自分を呼ぶ声だ。 何処か懐かしい 何処か荒々しい そんな声だ。 空間全体に響くように 空間を包み込むように 眠ったはずの自分は、いつの間にか暗闇に放り出されていた。 やはり、夜の闇とは違う。 けれど、この世界に来たときの空の様な 禍々しい闇でもなかった。 言うのであれば、光る闇。 蒼く滲む様に光る闇だった。 ―― ・・・・・・・。 もう一度、呼びかけ。 「・・・私を呼ぶのは・・・ダレ?」 答えれば、声は空間を振るわせた。 ―― 我が声に応えし者よ。 偽りの影より生まれし者。名を何とす。 「 。」 名を上げて、ふと、おかしいと首を傾げる。 自分はこの声が”自分”を呼んでいると感じていた。 それなのに声は自分の名を問う。 ならば何故、自分は”呼ばれている”と感じたのだろう・・? ―― 偽りの影に生まれし者、。 我が声を聞き、それに応えよ。我は世界を統べる者。 「世界を・・・統べる・・・?」 それはまるで、神の様にー・・・・ の問いかけに答えようともせず、 声は告げた。 の、これからの行く先・・・ ―― 季節が廻り卯月の初めの夜 導きの光は灯火の北西の方向より立ち上がる 愚かなる子等の導きに古き大地は導かれん 子等と共に古きを導け。 選ばれし8人の者達に付き 我が声を聞き、光を導け。 汝 偽りの影に選ばれし者 汝の役目は此処に在り それはまるで、予言だった。 自らを導く予言。 自分の役目・・・ この世界に、呼ばれた理由・・・・? そういえば、自分は何故呼ばれたのだろう・・・? 今まで、状況確認を優先していて、深く考えなかった。 何故、自分だった? 友と別れ 育った大地を離れ 何の為、自分が―・・・・ 「・・・私の疑問の答えが その先にあるのなら。」 その為なら自分は この ― to be continue... |