異世界の歌姫6 |
街の出口の橋の上。 ジェイとは、ようやく走っていた足を止めた。 肩で息をするとは逆に、ジェイは息一つ乱していない。 やっぱり、体に見合わずすごい体力だな・・・・ 思わず感服する。 「では、ぼくはこれで失礼しますよ。 先程の事は、他言無用でおねがいします。 ・・・・じゃあ。」 「あっ、ねぇ、ちょっと君!!」 用件だけ言って立ち去ろうとするジェイを引き止める。 思わず名を呼びそうになって、まだお互い名乗ってさえ居ない事に気付き 慌てて代名詞を使う。 ジェイは・・・足を止めた。 それを確認したは、その背に問う。 「どうして・・・助けたの?」 昨日、特殊な状況で出会ったとは言え、 人を助ける義理もない。 特に、人見知りの激しいジェイならば、絶対にありえない状況だろう 暫く押し黙っていたジェイは、ゆっくりと口を開いた。 「・・・・ぼくだって・・・ あんな誰かに見られるかもしれない状況の中 問題に首なんて、突っ込みたくありませんでしたよ・・・」 「じゃあ・・・なんで・・・・」 更に、問いかけ。 「声が・・・」 「え?」 「声が、聞こえた気がしたんですよ。 ”貴方を助けろ”と言う。 だから・・・・」 そう答えるジェイは、自分でも信じられないという感じで・・・ 自らの口にする事実を、自分ですら納得していないようだった。 「声・・・か・・・」 我が声を聞き、それに応えよ。 我は世界を統べる者。 思い出すのは昨日の夢。 彼の言う『声』とは、昨日のあの声の事だろうか・・・? 「うん、まぁ何にしても有難う。助かった。」 「まあ、あのまま無視する事も出来ましけど。 貴女があまりにも酷い戦い方をするものですから。 見てられなくなりましてね。」 「なっ・・・ しょうがないじゃん、私、戦った事一度だってないんだよ? それとも、君はこの武器で戦えるの?」 それは事実だ。 けれども、何故だろう? この武器は、やけに手に馴染む。 どうも、初めて手にした感じがしない。 ジェイは、肩を竦めて見せた。 「鉄扇は専門外ですけど。 まぁ、戦えというなら、なりに戦えるでしょうね。」 「えっマジ?」 少年の言葉に身を乗り出す。 そこで、ある一つの考えに行き着いた。 「ねぇ、じゃあさ。 私を君の弟子にしてよ!」 「お断りします。」 「うわ、即答。」 改まってお断りされてしまった。 「ねーそう言わないでさぁ。 んじゃアレだ。ぇっと・・家政婦として雇わない?」 「だから要りません。 家事も一通り自分達で出来ますから。」 そうだよねー・・ 君、モフモフ族と4人暮らしだもんねー でも・・・・ 「困ってるんだって。金銭面、戦闘面共に。 それに此処で見放されたら、私またあのチンピラに絡まれて 今度こそジ・エンド。 君が助けてくれた意味ないじゃん?」 だから、お願いっ! そう言って、頭を下げる。 此処で断られたら元も子もない。 挙句、この先が不便になる。 情報屋の元なら、これから先 必要な情報は真っ先に入ってくるはずだ ここで彼を逃がすわけには行かない。 何としても、自分を傍に置いてもらわなくては・・・ 「別に、貴女が今後どうなろうとぼくには一切関係ないですし。 今回も不本意ながらの手助けです。 別にそれに費やした時間も力も、惜しいとは思いませんから。」 「少しくらいは思ってよ・・・ っていうか何でダメ?」 流石に良弁。 他に何を言い返そうかと、言葉に詰まる。 詰まった挙句に、また問いかけ。 言葉の足りなさに、我ながら情けない。 「何でって・・・ ぼくは昨日、貴女が盗みを働く所を見ているんですよ? そんな人を信用しろと言うほうがまずおかしいでしょう 家政婦として雇って気付いたら家の物が失くなってた、 なんて、ごめんですしね。」 「ぁぅっ・・・・」 なんというか・・・ ご尤も過ぎて言い返す言葉も御座いません・・・ 「じゃあせめて弟子にして」 「弟子は取らない主義ですので。」 「じゃあ誰か紹介して。」 「それ位自力で探して下さい。」 「不可視のジェイならそんなくらい朝飯前でしょ?」 売り言葉に買い言葉。 そんな勢いに任せたような言葉だった。 けれども、そんな言葉に、相手は驚いたように目を見開いている。 最初は思い当たらなかっただが、 「あっ・・・」 気付いて、咄嗟に口元を押さえる。 『不可視』のジェイ・・・ この遺跡船に、彼の正体を知るのは、まだ モフモフ族の皆だけ・・・・ その名を口にしたのは、流石に不味かった 「ご、ごめん、やっぱいいわ。 自分で探します!助けてくれて有難う!!」 この場は一旦立ち去るべきだ、と ジェイに背を向け走り出す。 否、走り出そうとした。 「・・・っ」 しかし、ジェイはその手を掴み行くのを制し、 引き寄せて、手には小刀を構える。 明らかにヤバイ。 その目は、本気だ。 「・・・・何処で、ぼくが『不可視のジェイ』だと?」 「っ何処でって・・・」 「答えてください。」 こうゆう時に限って、人はこの辺りを通らない。 いや、むしろ2人のやり取りを見て避けて通っているのだろうか・・ 「・・・・調べたんだよ、自分で。 何にしても、雇ってくれる所と戦い方を教えてくれる人が必要だったし・・ いろいろと街を調べまわっていたら、街の人が教えてくれたの。」 咄嗟の言い訳。 自分でも息苦しいのは分かっている。 明らかに怪しいし・・・ 「・・・・・気が変わりました。」 「へ?」 小刀を再び服の中にしまう。 掴んでいた腕も、解放された。 ほぅっと息を吐くと、ジェイは未だ疑いの眼差しで 言った。 「基本的な戦い方なら教えますよ。 家政婦としても、一応雇っておきます。」 「・・・・・」 その目を真っ直ぐに見る。 要するに、怪しい奴だから、 自らを守る為に、傍に置いておいて監視をしよう、と・・・・ ・・・此処は、素直にのっておこうか―・・・・ 「良かったっ!助かるよー。 うん、よろしくね、お師匠様」 「・・・その呼び方は二度としないと誓ってください。」 「・・・・・・ハーイ」 殺気と一緒に小刀を構えられては、 大人しく返事をするしかない。 ・・・とにかく、此処は頭の悪い奴を演じておけばいい。 そうすれば、何れは彼も『選ばれし8人』になる。 彼らに近づくのを容易にする為 共に行くのを容易にする為 この世界で行き抜く為―・・・ とりあえずは、君の言葉に乗っておこう ― to be continue... ![]() な、なんとか雇ってもらえた!!(安堵 自分でもどうやって繋げようか頭を悩ませてたりしました(ハハ; 成り行きでどうにかなってくれて一安心です♪(ヲイ ![]() |