白いエリカの彩る夜に
歩み寄る先2








「っはぁ・・・は・・ぁ・・っ・・・・」

息がいい加減切れる。
一体何時間。こうして走り続けているだろう
既に時間の感覚さえも無い。

肺が軋むように悲鳴を上げる。
心臓が脈を打ち出す動きに痛みを覚えた。

足が、動く事を拒否しようとする。


「水晶の森に入ります!
 気を抜かないで下さい!」

ジェイの張り上げる声。

今は、ずっと前を行くその背中を睨むしかできない。
ジェイの走るたびに、その首の飾りに付いた鈴がシャンシャン鳴るのが聞こえたが、
ソレすらも、何処か遠くの意識に飲まれていきそうだ。

疲れから込み上げる吐気を
どうにかして誤魔化して、は無言で走り続けた。

昨日”優しい”なんて言ったのは、既に前言撤回していた。
やっぱりコイツは、性格が悪い。

ってかなんで息一つ乱れてないんだよ、コイツ


そんな事を考えていたら、
ジェイの言葉通り、水晶の森へ。

カツンと、足の裏に固い感触。

冷やりとした空気が少しだけ
疲れた体を癒す。

酷い疲れには変わらないが
無いよりはマシ、気休め程度にはなった。

カツンカツンと、靴底がすれる音。

やっぱローファーは、運動には不向きだ。
革靴の中で、幾つ目かのマメが潰れた。


「・・・・・ヘイキですか?」


フと気付くと、先を走っていたはずのジェイが
隣を走り、伺うようにこちらを見ていた。


「〜〜大丈夫・・・って、事にしと・・・くっ!」


強がっては見せても、結局は見破られる限界。
ジェイはフゥッと溜息をつき、言った。

「・・・・少し行った所に開けた場所があります。
 そこで一先ず休憩を取りますから、
 それまでは気張ってくださいよ」

「――・・・りょーかい。」

休憩・・
その言葉だけが救いだった。

しかし、その救いさえも打ち消すのは
突如影から現れた、不穏な影。

神秘的なこの空間には似合わない
魔物たちフィンクスの群れだった。


さん!」

「わかってる!!」

今日のうち、魔物に会ったのは初めてではない。
此処まで走ってくるうちに、既に幾度か戦った。


―― 仕掛け対鉄扇―・・・・

この鉄扇を調べたジェイがそう呼んだ鉄扇を、
肩から提げていたスクールバックから取り出す。

ジェイの話によれば扇の紙一枚の間に、
刃が仕込まれているそうだ。

仕込み鉄扇自体はそこまで珍しい物でもないらしいが
ここまでしっかりした造りのものが対になって・・・と言うのは
滅多にある代物でもないらしい。

そんな説明を、最初にされた。

「っはぁっ!!」

疲れた体を鞭打つ気合入れの声を上げ、
鉄軸の部分で、一匹のフィンクスの後頭部を殴打する。

すかさず鉄扇を開き、後ろから迫っていたまた一体のフィンクスの
喉元を、仕込まれた刃で掻っ切った。

全く戦闘経験の無いに、ジェイが教えたのは
たった一つのことだけ。

『確実に急所を狙ってください』

急所とは主に
頭部、首、胸部の三箇所の事。

基本すら知らず、腕力も人並みの
手っ取り早く実践を覚えさせるには、それは効率的だった。

「ょっ・・・っと!」

少しよろけながらも、最後のフィンクスの額に
鉄扇を突き刺し引き抜く

「苦無!!」

まだ多少の息があったフィンクスに、一本の小刀が
突き刺さった。
同時に、小刀は爆発してフィンクスの命を奪う。

一先ずの戦闘を終えた
ふぅっと息を吐いた。

「初めに比べれば、
 結構よくなったんじゃないですか?動き。」

後ろからかけられたジェイの声。
は驚いて振り返った。

「ホント!?」

「"最初に比べれば"、ですけどね。あくまで。」

「・・・・意地悪ーい」

「性分ですので。」

肩を竦めて、ジェイが歩き出す。
『歩き』だした。

「あれ?走らないの?」

「そのフラフラの足で、よくそんな事が言えますね」

呆れた目で見られて、ぅっと言葉を詰まらせた。
言い返す言葉も無くて、仕方なく黙って隣を歩く。

「まぁ・・・良いんじゃないですか?」

「ん?」

「最初にしては、ここまで休憩ナシだっただけでも
 まあまあ上出来でしょう」

「・・・・・・ありがと」

言いにくそうに、不器用に紡がれた言葉。
からかってみようかとも思ったけれども、まあいいか。と
言われた事場を素直に受け取っておく。

素直に返されたのが意外だったのか
照れたようにソッポを向きながら、ポケットに手を突っ込んで
そのまま歩いていく。

少しずつ・・・

本っ当に、少しずつだけど、

距離が縮まっていく。

そんな感覚が、心地良い。


「ヘヘヘ・・・」

「その気持ち悪い笑い、
 止めてくれません?」

「なんか言った!?」

水晶に声が反響する地で、
2人はゆっくりと歩いた





             

― to be continue...









久々更新です!ジェイがツンデレ!!(ぇ
なんだかんだで仲がいいような悪いような・・
微妙な2人の関係です;
しばらくはモフモフ話が続きそうな予感・・・
本編に入れるのは何時になるやら・・・(滝汗