白いエリカの彩る夜に
歩み寄る先7








駆ける、石造りの道。
固い床と、革靴の底がキツク当たる。

日ごろの成果か、疲れはしない。

なのに、息は酷く上がった。

それは、一種恐怖のため―・・・


「っジェイ・・・!!」


隣で、モフモフ3兄弟がジェイを担いで走っている。

自分が担ぐよりも、3人が担いでくれた方が
早いという、その場の咄嗟の判断。


(いつもなら、こんな攻撃、避けられたでしょう―・・・?)


魔物は、正直強い相手ではなかった。
後ろを取られたとは言え、いつものジェイらしくない。

こんな・・・

こんな・・・・・・


「っは・・・ぁ・・・」

辛そうな貴方、らしくないよ・・・


「傷は幸い深くないキュ!
 でも毒が―・・・・!!」

その場に、解毒効果のあるものは無くて、
今、こうして地下道を走り続けている。


賑やかな声が聞こえてきて、視界が開ける。

村だ、もう助かる。

これで、彼が辛そうな思いしなくてすむ。


「今、解毒効果のあるボトルは仕入れ準備中ダキュ・・・・」


臓腑が、一気に落ち込む感覚を覚えた。







どうして道具屋の道具が売り切れてるのか
今更ツッコむ気も起きない。

一先ず、ジェイはこれ以上毒が回らないように
家のベッドに寝かせた。

キュッポ君が、街までボトルを買いに行っている

そんな間にも、ジェイは苦しそうで
ソレを見ている自分まで、動悸が激しくなる。


何かすることが無いか

この場に居たたまれなくなって、立ち上がろうとする。

「ぇ・・・?」

けれども、すぐにガクンと膝をついた。

その苦しそうな状況で、何処から力が出るのだろう・・・?

ジェイは、強い力で服の裾を掴んでいて
その場から動く事を許さない。

ジェイの指先が白く滲んでいた。

「ジェイ・・・」

「っ・・・さん・・・?」

薄っすらと、何処か熱に浮くような定まらない視線を
彷徨わせる。

思わず、その手を取って、自分の手で包み込んだ。
ジェイの手は、冷たかった。

「大丈夫・・だよ。
 大丈夫、今、キュッポ君が解毒剤、買いに行ってるから・・」

「・・・・情けない・・・っですね・・。
 まさか・・・貴女・・・に心配、されるなん・・て・・」

「減らず口なんて、叩いてないでよ・・
 そんなん・・・今は、良くなることだけ考えなさいよ・・・・」

「貴女に・・・・諭され・・・る・・・・のも・・
 とても・・・癪です・・・」

「馬鹿言ってないでよ!!」

早く、早く・・・・

この世界には、コンテニューは無いんだよ

リセットボタンもセーブポイントからやり直しなんてのも
出来ないんだよ

「・・・少し・・・眠い・・・・」

その紫暗の瞳が閉じられる


「や・・・だ・・・」

寝ないで

その瞳閉じないで


さん!!」


ピッポ君の声が、遠くで聞こえる

体の奥から滲む感情は

不思議と静かで

強い光を感じて眩暈を覚えた。


忘れ去りし力を 望むか―・・・・


何時かの時に聞こえた声は

やはり何処か荒々しくも静かで

古き力 汝の記憶を汝は望むか・・・

ただ、声が聞こえると共に

体を駆け巡る何かに
体内の何処か穴の開いた部分が
ゆっくりと、満たされる感覚を覚えただけ



「・・・・― リカバー・・・・・」



溢れた何かの行き所を探すために発せられた言葉は
力を持って光になった


強い光が指先からジェイへと伝わる

苦しそうに荒かったジェイの呼吸は
ゆっくりと落ち着いた

満たされていた何かが少しだけまた
穴を開けたけれども、忘れていた何か大事なものを
思い出して、もう忘れないだろうと決意する
そんな時の感覚に似てる。


・・・さん?」

「キュッポ君・・・ぁ・・・薬・・・・」

「もう、必要ないみたいダキュ」

「ぇっ・・・・?」

走ったらしい息を少しだけ乱すキュッポはその体には
少し大きいボトルを抱えていて

その後ろには心配そうなポッポ。
ピッポは微笑んで言った。

さんが、助けてくれたキュ!」

「???」

意味がわからなくて、振り返る。


「―・・・っ?」

瞬きをして、何が起こったのかわかっていない
ジェイが、半身を起こして片手に顔を埋めていた。

「・・・・ジェイ・・・?」

「・・・聞いてないですよ?
 貴女がブレス系の爪術者だなんて」

「私・・だって・・・聞いてない・・よ・・・・」



ブレス系・・・

魔法系を使う人間・・・・

いや、そんな事は今は良くて・・・


「なっ何、泣いてるんです!?」


ジェイがギョッとした様にこちらを見てて・・

「煩い!知らないっつの!
 勝手に・・・出てくるんだからぁっ!!」

次から次へと溢れる涙を拭って
どうしようもなくて、不本意だけれどジェイに抱きついた。

ジェイは、行き場なく手を彷徨わせて
固まっている。

フとピッポ達と視線が合うと
『慰めてやれ!』とジェスチャーと目で訴える。
その後に、邪魔しないようにとでも言うのか
コソコソと部屋を出て行った。

仕方ないから、ジェイはおずおずとその髪をゆっくり梳いてやる。

「怖・・・かった・・・・」

「え・・・?」

「ジェイ、死んじゃうかと思っ・・・・」

嗚咽に紛れるその声。

「・・・そんな事で、泣かないでくれませんか?」

「そんな事で悪かったわね!!
 もー煩いから少し黙っててよ!!」

人に抱きついておいて何を言うのか・・

関係ないはずだ、この少女も、自分も

もしもの時は、彼女に刃を向ければ良い



もしもはあるかもしれない、来なければ良い。

自分も存外、彼女の事は嫌いじゃない


だから・・・・


ジェイは一つ、溜息を吐いた。


「もしもの時は、容赦しません。」

「な・・によ・・・いきなり・・・」

「何でもないですよ。
 さっさと泣き止んでください」

「〜〜一々煩い・・・っ!」


ただ少し

ほんの少しだけだけれども

少女を信じてみようかと思う


― to be continue...





ジェイ危機回避ッ!!
さんがブレス系なんて私も聞いてないよッ!(オマチ