白いエリカの彩る夜に
歩み寄る先8








「なぁ〜にさ!なによ!!
 毒にやられてた時のが、むしろよっぽど良かったっつの!」

まだ新しいはずなのに、もうすっかりとクタクタになってきた制服を着て。
攻略本やら道具やら鉄扇の入る重たいスクールバックを持ち上げた。


そろそろ一ヶ月になるこの宿屋にも、随分と慣れた。


『そろそろ貴女一人でも何とかなるでしょう。
 明日から、迎えには行きませんから。』


回復したと思ったら、彼は突然そう言った。
先ほどのか弱い様子はどうしたのかとド突いてやりたくなる程
小憎たらしい顔で言いやがった。

今日からは一人だ。

そう思うと、反面寂しくもあるのだが・・・

「おじさん、いってきます!」

「ああ、さん。いってらっしゃい」

宿屋のおじさんに笑顔で挨拶して、扉を開いた。


朝の日差しが眩しく照らす。
光に耐えられなくて、少しだけ目を閉じた。

その先には、やはりいつもの様にあの姿は無くて
キラキラした芝生が風に靡いてるだけだった。


「・・・・よし、行くか!」


少し寂しい気持ちを抑えて、
は一歩足を踏み出す。

フっと気付くと、
宿屋の影から、見慣れた姿。

「・・・・・・・・・」

暫くの間、その姿に固まってから
思わず吹き出した。


道行く人が怪訝そうに見ているのなんか気にしない。

(心配なら来ればいーのに)

其処此処に、モフモフのみんながコソコソ隠れながら居た。

どうせジェイに、自分を見張るように言われたのだ。
その様が目に浮かぶようで、は一頻り笑った後に
心強い気持ちで、また一歩を踏み出した。







「っもうちょいで・・・村!!」

始めのころから比べると、息も殆ど切れない。
重いバックが肩に食い込む感覚も慣れた。

薄く人工的な明かりが滲む空間が見えてくる。

「ぃよっし、ゴー・・・ル・・・?」


明るく勢い良く、その空間に足を踏み入れたのに・・・
思わず、我が目を疑う。

「ぇ・・何・・?コレ・・・」


自分を見張っていたモフモフ以外が残る村。
見るも無残に、荒れ果てたようになっている。

其処此処で、皆が惑う声。

遠くで、破壊音もした。


その先に見える、長い魔物の姿・・


「っ!ディノワーム!!」


この地下空間に住み着く、
モフモフの皆が”長長悪魔”と呼ぶソレが
村を荒らしているらしかった。


さん!!」

モフモフの一人が、慌てて近づいてくる。

「コレ一体どうしたの!?
 ジェイは・・いないの!!?」

「ジェイが仕事に行ってる間に
 長長悪魔が攻めてきたキュ・・・!
 今は、キュッポ達が食い止めてるけど―・・・・」


話が終わらぬうちに、は駆け出した。
バックから鉄扇を取り出す。

何でこうゆう時に限っていないんだよ!とか
少しの悪態と、焦る気持ちを抑えて

「ディノワーム!!」

その姿を近くで捉えて、は叫ぶと共に
鉄扇の片一方を、開いてそのうねる体へと投げつけた。

−−−―!!!

鉄扇は刃でその体を切りつけて
の手元に的確に戻ってくる。

ディノワームはなんとも言えない叫びを上げて
こちらを振り向いた。

その奥には、モフモフの3兄弟が居る

さん!!!」

「キュッポ君!怪我は!!?」

「建物の被害は多いけれど
 怪我人は居ないキュ!!」

「オケ、ありがと!!!」

答えて、対鉄扇を開く。
軸が擦れる音と共にバッと開いて鮮やかな漆黒が露になる

「キュッポ君たちは村のみんなを誘導して!
 此処は、私が受け持つから!!」

「でも・・・!!」


「誰かが指揮をしないと、みんなが危ない!
 私なら大丈夫だから!!」

食い下がる事をしないピッポ達に言うと、
渋々ながらに踵を返し、走り出した。

その姿が見えなくなるのを確認すると
は再び鉄扇を構える。

「チッ・・・
 今までは襲ってなんか来なかったクセに!」

襲っては着たけれども、此処まで大っぴらな事は、
自分が知る限りでは初めてだ。

内心毒づいて、噛み付くような動作をしてきたディノワームを避ける。

鉄扇を片方閉じて、その体を強く打撲する。
ディノワームは激しくうねるものの、ダメージはあるのか無いのか良く分からない。

何せ良くうねる軟体動物だから
何処が急所なのかも分からない。

ミミズみたいな体しやがってとか
どうにも出来ないから悪態ばかりが浮かび上がる。

(あ、ミミズ・・・ねぇ・・・!)


攻撃を受止めて
悪態から、ふと思い出す。

ミミズ・・そう、ミミズに良く似ている。

だから、コイツもずっと地下空間に居るわけで・・・


(たしか・・・コイツも光に弱かった!!)

辺りを見渡し、何か光を出せるものはないかと見渡す。

「痛っ・・・・」

大きくしなった頭部が
肩を僅かに切り裂いた。


(っ昨日の・・・感覚を・・・・)


辺りに発火しそうなものは無い。
それなら、一か八かで、昨日の感覚・・
ブレス系の爪術に頼るしかない。

ディノワームも何かしようと近づいてくる。

は目を閉じて昨日の感覚を思い起こした。

― 体の中で渦を巻く・・・波の様なもの

満ち潮の様に、何か不思議な感覚が湧き上がり
嵐の様に、ソレが大きく吹き荒れる


それを・・その苦しいようなもどかしいような感覚を
放出するための、その言葉を―・・・・


「ヴォルトアロー!!!」

ディノワームの周り円形状に大きく光が落ちてくる。

バリリッ!と発光する音と共に、光の落ちる凄まじい音が
地下空間に響き渡った。

地下の暗闇に慣れた体を襲う
突然の強い光と音に、ディノワームは驚いたのか
焦ったように体をくねらせて村から逃げ出す。

途中、更に建物の間を通るから、
壊れた瓦礫が更に砕けていった。


その後姿を見送って、
息をつくと、思わずカクンっと膝が折れた。

「あ、アハハ・・・・っ情っけな・・・
 安心して腰が抜けてるよ・・・・」

さん、大丈夫キュ!?」

逃げ出すディノワームの姿を見たからか
ポッポ達が慌てて近づいてきた。


「・・・みんなに、怪我は?」

「皆、転んだりしたかすり傷ばかりキュ!
 大きな怪我は誰も居ないキュ!!」

「よかったぁ・・・」


ほぅっと息をつく。


「キュッポ!ピッポ!!ポッポ!!
 これ、一体どうしたの!?」


その時、タイミングよくジェイが帰ってくる。
タイミングよすぎないか?とか、聞きたいのはグッと堪えた。

「ジェイ!
 長長悪魔が、突然襲って来たんダキュ!!」

「長長・・・ディノワームが!?
 それで、怪我は!!?」


さんが追い払ってくれたから
 みんなかすり傷程度で済んだキュ!!」

・・・さんが?」

それで、やっと地面に座り込む
のほうを、ジェイが見やる。

は、アハハ・・と困ったように頬をかいた。

「早速約束破ることになるかと思って
 ちょっと、焦っちゃったや・・・」

「・・・・肩、怪我してるじゃないですか。」

「ヘッ!?あ、ああ・・ヘイキだよ、コレくらい」

何か文句とか、駄目だしとか・・・

言われるかと思ったら、そうじゃなくて。

少し拍子抜けする。

肩を見やって、あー制服に滲んじゃってるなーとか
思ったけれども、特に痛くもないし手を振ると、

「・・キュッポ、ポッポ、悪いんだけど
 さんの手当て、してくれるかい?」

「了解だキュ!」

「ポッポ達に任せるキュ!!」

「えっあ、え、ちょっと!!?」

2人に手をつかまれて、慌てる

そんな事をしている間に、
2人は家の中に手当てで連れて行ってしまった。

ピッポは声を上げて笑う。

さん、すごく強くなったキュ!」

「・・・・そう?」

「そうダキュ!
 それに・・・やっぱり、優しい人だったキュ!!」

「・・そう・・・かもね。」


呟いたジェイ。

答えは意外で、ピッポは少しジェイを見やる。
そこに、優しく笑うジェイが居て、
ピッポは思わずその手を握ると、ニコリと微笑んだ。


(ジェイの表情・・すごく優しくなったキュ)


それはきっと、あの少女が現れてからだ。
そっと感謝の気持ちも込めて、ピッポは静かに目を閉じた。







― to be continue...




ちょっとだけ信頼を置くようになったジェイ君。
本編まではあとちょっと!!