歩み寄る先10 |
・・で、次の日。 結局、徹夜で荷造りした後に、少しみんなで仮眠を取って 早速移動になった。 で、結局ラッコが進化した亜種であるモフモフのみんなは 水の中を泳いでいくことになって(何せ数が半端でない)船での移動は たくさんの荷物と、ジェイとだけになってしまった。 良く考えたら、ジェイとこうゆう風に 何もすることがない状況での二人きりと言うのは初めてで・・ ジェイはまあ、船の操縦をしているんだけれど 船が切り裂く波の音と、過ぎ去る風を感じて 髪を耳に掛けながら、ガラにもなく緊張とかしてみる。 いつになく、沈黙が痛い。 何か会話は無いかな・・・とか探して視線を彷徨わせるも 見つからないか、くだらないものしかないかで 視線を彷徨わせただけに終わる。 「・・・さん。」 そんな事をしていたら、思いがけずジェイの方から 話題を降ってきた。 そんな珍しい行動に、多少の不吉を覚えつつも は「何?」と問い返す。 ジェイは、操縦席からのほうを見やった。 それは、初めて会ったときの様な 何処か鋭く貫く視線―・・・ 「歌姫、続けてるそうですね」 「・・・・・っう、うん・・・」 そのことか・・・ 痛いところを持ち上げてきた、と、内心顔を顰める。 夜の街で、は歌を唄い続けている。 副業としてやっていたのだが、 最近ではそれだけでまぁ生活は賄える程だ。 「収入も、中々だと聞いてますよ」 「あ、ああそう? 私も有名になったもんだねー」 おどけて見せるが効果も無いことは了承済みだ。 下手なごまかしは利かない。 今は、どれだけジェイの質問に上手く答えるかだけだ。 「確か、あなたが僕の元に家政婦に来た理由はこうでしたね」 「ぇ?」 「『あのチンピラ達に絡まれては、僕が貴女を助けた意味が無くなる。 自分を助けるつもりで頼む』と―・・・・」 「う・・・ん・・」 確かに、そう理由で雇ってもらった。 その次に彼の紡ぐ言葉の、予想が出来て怖かった。 「けれども、貴女はまだ、そのチンピラに狙われる事をして 収入を得ている。 ・・・・矛盾していると思いませんか?」 「・・・・・うん。・・・最も・・・だと思う。」 ジェイの言うことは確かだ。 自分の行動は、彼に言った言葉と矛盾している。 ジェイが怒るのも、無理はない・・・ 「必要無いんじゃないですか?」 「え・・・?」 「家政婦の仕事なんて、必要ないんじゃないんですか? 歌で稼いでいけるんでしょう?チンピラにも狙われないんでしょう? それなら、これでさんの今後は安心じゃないですか。 いっそやめたらどうなんです?こんな仕「っや・・・」 ジェイの言葉を遮る声。 慌てすぎて、マヌケな声になってしまった。 けれども、その先を言われるのがいやだった。 続けられるのが、怖かった。 「いや・・・だ・・」 体が震える。 怖い 『・・・・・――っ!!!』 存在の否定は、もうたくさんだー・・・・ 「・・・・何故ですか? 貴女が不安とする理由は、もう此処にはないじゃないですか」 ジェイの言葉に、は頷く。 そして、おずおずと口を開いた。 「ジェイの・・・言うことは、正しいよ。 だから・・歌の仕事・・止めろって言うなら、止めるから。 歌うなって言うなら、私もう、歌わないから・・・ だから、お願い・・・お願いだから・・・・」 いらないなんて・・・言わないで・・・・ 「モフモフの皆には、家族みたいな温かさがある。 それは・・・私にとっては・・初めての温かさで・・・ だから・・みんな・・・大好きだから・・・」 言っているうちに、涙が出そうになる。 潮風は湿気を含んで重く髪をなびかせ二人の間を過ぎる は、その頭を深く下げた 「ちょ、さっ・・・・!?」 「私を、此処に居させてください・・・ お願いします・・・・」 慌てるジェイに、は呟き程度の声で言った。 ジェイは、ソレをどこか遠い目で見つめる。 彼女の姿に、何処か、影を見た気がした。 いつも騒がしくて、笑っている彼女に 初めて、影が見えた気がして 彼女の必死さが、何故かとても痛くて・・ 「・・・・勝手に・・・・してくださいよ・・・」 溜息をついて、そう言った。 途端に、パッと輝く彼女の表情に 思いもかけず赤面してしまったりして ジェイは船の操縦に集中する振りしながら に言った。 「それと、」 「ん?」 「さんの歌は、嫌いじゃない・・ですから・・・・・」 語尾消失。 それでも、その声はハッきりと聞こえた。 自分を肯定する、その声が・・・・ 「・・・ありがとう、ジェイ」 は、今までで一番の笑みを浮かべた。 この世界に来て、一番輝いた、綺麗な笑みを―・・・・ |