白いエリカの彩る夜に
始まりの光2








時が、しばらく経っただろうか。
ウィルが街から離れて1時間から少し経った頃だろう。


「調子良いみたいですね、さん」

「っ!?ジェイ!!
 なんでこんな所にいるの!?」


突然声を掛けられて、は歌を中断し
思わず声を上げた。

今日は仕事だったのではなかったのか・・・?


「光の柱が立ち上ったのは、貴女も見たでしょう?
 これを調べなくては、不可視のジェイの名が泣きますからね。
 早く仕事を切り上げてきたんですよ。」

「へぁ〜・・・仕事熱心だねぇ・・・。
 で?目ぼしい情報はあったの?」

尋ねると、ジェイが首を横に振る。
つまらない、とでも言いたげだ。

「全くと言って良いほど無いですね。
 みんながみんな、同じ噂話で持ち切りです。
 その噂も、あまりに飛躍しすぎていて真実味がない・・・・」

「不可視のジェイさんもお手上げ?」

「まさか。これからですよ」


そう言って、挑戦的に笑んで見せたジェイに
も思わず口元を緩ませる。

ジェイのこの性格が、
いずれ、この世界の本当の歴史を知る切っ掛けになるんだ・・・。

知らない事があるのは許せないたち・・・か。




フと気付くと、噴水広場に、見慣れない少年の姿があった。

海の警備を行う、マリントルーパーの格好をした、
顔にペイントのある少年。

とジェイは、その少年の方に視線を向ける。

この辺りでは見慣れないけれども、
ゲームでは、イヤと言うほどに見慣れた顔・・・・

(・・・・・あれが・・・セネル・・・・)


セネルは、物珍しそうに噴水広場を見渡している。

ジェイは、どうやらセネルの事を怪しいと判断したらしい。
その判断は、事実当たったものであるのだが・・・・

「仕事に行ってきます」
と、ジェイはその言葉だけ残して、
セネルの方に向かって行った。

何処か、作ったような笑みを浮かべて・・・

まだ心許していない時に浮かべる、彼の笑顔だ。


ジェイとセネルが
何の話をしているのかは分からなかったが、
ゲームの話なら、何となく覚えている。

ジェイが何かを問いかけるのに対し、
セネルは、だんまりを決め込んでいるらしかった。

証拠に、先ほどから話すジェイから、体を背けている。

しばらくすると、少年は身軽に飛び跳ねて
広場に声を響かせた。


「誰か、俺に挑戦する奴ァいねえか!
 もしも勝てたら、5万ガルドやるぜ!!」

ジェイの唐突な叫び。
それもゲーム通りではあるのだが、
生で聞くとまた違う迫力を持つ内容と口調にも思わず目を見開いた。

辺りも、シンッ・・・と静まった。

「と、この人が言ってますよ!」

態度が一転。
思わずはズッコケる。

(お前じゃないんかいっ)

ゲームでもそうだったのだが
なんだか、ツッコミどころが豊富


セネルも、ジェイの唐突な言葉に驚いていた。

「お前、なんのつもりだっ!?」

セネルの少年の怒鳴り声は、の耳まで届いた。
ジェイは、含みある笑みを浮かべただけで・・・・

広場に居た街の人間の、顔つきが変わった。


「おもしろそうじゃねぇか・・・」


セネルを囲む街の人々。
顔つきは、明らかに貪欲だ。

「そのゲーム、乗ったぜ」

食いつく街の人、巻き込まれぬうちに早々と退散する者・・・

囲まれたセネルは驚きを隠せぬ様子で、
事態を作ったジェイは、人垣はずれて見物をしていた。

なんだかなぁ・・・っとは頭を掻く。

「邪魔だ退け!!」

街の者に、ガンを付けられて、
セネルがキレた。

爪を光らせ、顔の前に翳す。

「こ、こいつ、爪が光ってる!?」

その光に、街の人々は退いた。

「ふむふむ・・・。
 爪術が使える・・・っと。
 多分、アーツ系だな。
 考えるより先に、手が出そうな顔してるし」

(おいおいおいおい・・・・)

流石に可哀想すぎやしないか・・・・・

のんきにメモなんか取っているジェイに、思わず思う。
そんな家政婦の気持ちも知らずに、ジェイは尚、煽り立てた。

「さあ、どうしたんです?みなさん。
 5万ガルドですよ?5万ガルド!!」

しかし、街の人はタジリと答える。

「んな事言ってもよぉ・・・」

「俺たちゃ爪術なんざ使えねぇし・・」

その答えに、ジェイは不服そうな顔をする。
その様子を見て、はヤレヤレ・・・と腰を浮かせた。
仕事を邪魔する気も無いのだが、少しくらい助け舟を出してやらなくては
少々セネルが不憫に思える。

「ちょっとちょっと?
 さっきから見てれば、なぁに暴力沙汰になりそうな
 お話してるんですか?」

ちゃん!?
 い、いや・・・だってこれは・・・」

責める様にして街の人間を見れば、
街の男たちは、一歩後ろに下がった。

「君もダメだと思うよ?
 人を陥れるなんてことしたらさ。」

「失礼な事言わないで下さいよ。
 ぼくは、そこのマリントルーパーのお兄さんの言葉を
 そのまま伝えただけなんですから」

他人の振りして、ジェイを諭す。
ジェイもあくまで、白を切ろうとすっ呆けて見せた。

こうゆうスリルは嫌いじゃないわー。
でも後々面倒な事になるから嫌いなんだよねーとか
ちょっと危ない方向に思考をとられるも、
なんとか引き戻してジェイを見やる。

そして、街の男たちに、はビシリッと指を向けた。
ブレスレットのチャームについたジェミニシェルが柔らかに揺れた。

「この街では暴力厳禁!」

「ぅ"っ・・・・」

「じゃないと、どっかの歌好きが・・・・」


来る・・・

そう続けようとした言葉は、途中で遮られた。

・・・何処からともなく聞こえてきた、
妙なノリの音楽によって・・・・



「コイツは一体、何の騒ぎだ?」

「・・・あ〜ぁ・・・来ちゃったじゃん・・・」


は溜息をつく。
だから、こうゆう騒ぎは嫌いなのだ・・・と・・・

声の出所は、噴水の上。
派手な衣装の男女2名が、其処から広場を見下ろしている。


セネルが見上げると、
男女2名・・・・略称フェロボンは、広場へと足を付けた。

そして、場の空気を読むこともせずに、妙なノリの音楽に合わせて
唄いだす。

広場で騒ぎを見ていた女たちは、
しっかりと持ち場と言わんばかりの位置に立っていた。

・・要は、バックダンサーだ・・・





ヨウ!ヨウ!
そこ行くあんちゃん!
街の掟を知ってるかい?

『喧嘩厳禁!』

『暴力反対!』






そんな、街の人間を巻き込む、迷惑な歌が始まって、
今更ながら、は嫌そうに端のほうに避けた。

・・・巻き込まれたくないし・・・


茂みの少し手前辺りの所で、
事態の根源のジェイの隣に立った。

「迷惑なモン呼び寄せてくれたね・・」

思わず、ジェイに話しかける。
ゲームの内容で忘れて、首を突っ込んだ自分もアホだったが・・・・

「・・それとも、初めからこれが狙い?」

「何のことですかね?」

あくまですっ呆けるジェイ。
は溜息をつく。

「騒ぎを起こせば、『此れ』が来る事なんて
 考えるまでもないし・・・」

「『此れ』呼ばわりですか?」

「いーよもう。『此れ』で」

めんどくさそうに言う
ジェイは、の反応を面白そうに見ている。。

しばらくすれば、フェロボンの歌は終わったらしい。

派手な男・・・カーチスはセネルの肩に手を乗せる。
途端に、広場の中に乾いた音が響く。

「気安く触るな!」

セネルの少年の怒号と共に、
カーチスの手は振り払われた。

「ぁ・・・」

が思わず声を漏らす。
街の人間も、ソレを見て顔を引きつらせた。
ゲームでの進行状況も、此処からなら覚えていなくも無いのだが・・・

この状況にまでなれば、もう手の出しようが無い。
仕方ないから、ジェイの隣で一緒に見ていることにした。

セネル強いし、死なないでしょ。


「お、お前、何て事を!!?」

「自分が何をやったか、わかってんのか!?
 この人はなぁ・・この人はなぁ・・・!!」

冷や汗を流し街の者の説得。
は、『さらに面倒な事になるな・・』と溜息。

「先に手をだして来たのはコイツだ!!」

セネルはそう言って、カーチスを指差すが
返ってきた答えは、あまりに拍子抜けだった。

「歌を邪魔されるのが何よりキライなんだぞ!!」

「・・・・・・は?」

セネルのマヌケな声の後。
カーチスが突然、不気味な笑いを響かせる。

「ふふ・・・
 ふふふふふふ・・・・」

「ひいぃっ
 怒ってる・・・カーチスさんが怒ってる!!!」

「ヤバイぜ、お前!!」

うろたえる声が出始めた頃。
カーチスは屈めた体を思い切りよく持ち上げた。

「イザベラ君!
 私は今、猛烈な悲しみに襲われている!!」

「はい。」

イザベラ・・そう呼ばれた派手な女性は
淡々として答えた。

「この若者を正す為とは言え、
 心を鬼にしなければならんのだからなっ!」

「はい。」

「しかし!
 やらねばならん!愛の為に!!」

(いや、愛関係ないじゃん・・・)

思わず思うものの、口には出さない。
この2人には、あまり良い思い出もないし・・
出来れば、絡まれたくない。


「そう・・そして!!
 今日こそ、君とも決着をつけて見せよう!!」

とか思っていたら、いきなりカーチスに名指しされる。

「は!?何で私!!?」

突然舞台に引っ張り出されて、は目を見開く。
確かに、彼等と因縁が無いわけでもないが・・
なぜ今自分が引っ張り出されなければならないのかがわからない。

ジェイも、其処までは予想外だったのかなんなのか
特に表情を変えるでもなく、に目をやった。

君・・・・
 君にこの広場を追われて・・・早1ヶ月と13日・・・」

「いや、別に追い出したわけじゃ・・・っていうか細かいな。」

「私たちは!
 陰に隠れながら歌を唄う生活を強いられた!!」

「街の人の投票で決めようって言ったの・・
 貴方たちだった気が・・・」

「そして遂に!
 この噴水広場で歌を唄う権利を手に入れるチャンスが
 此処に来た!!」

「いや、関係ないし。
 ってか話聞いてる?」

聞いてないな・・・
自分で言ってから、確信する。

証拠に、カーチスとイザベラは戦闘態勢満々だ。

「美しさは力!
 グレーーーーイト!フェロモン!!」


「美しさは罪!
 ワンダーーーー!フェロモン!!」

「行くぞ!俺たち!!
 フェロモン・ボンバーズ!!」

「・・・本当に、面倒なモノ呼んでくれたね、ジェイ。」

「・・・予想外の出来事ではありましたが・・・・
 まあ、力試しと思って頑張って下さいよ」

が言うと、ジェイは含みのあるような笑みを浮かべて
一歩、後ろに退いた。
いっそ、此処まで狙っての事だったのでは?とすら思う。

「・・・・私、戦わないからね?」

それだけジェイに告げるウチに
バックダンサーの女性がの腕を引き
セネルの隣に立たされて・・・

フェロモンボンバースが、襲い掛かってきた。

「少年よ、ごめんね!」

「ぇっ!?」

は咄嗟に、セネルの陰に隠れる。
同時に、少年の背中を通じてポカスカガスガスと振動が伝わってくる。
痛くは無さそうなのだが・・・ウザそうだ。

少年もやはりそう思ったのだろう。

「いい加減にしろ!!」

しばらくの後、少年の爪術が炸裂した。

「ヌガーーーーーー・・・・っ!!!」


「不覚・・・・・・」


イザベラとカーチス、バックダンサーは倒れ、
ジェイは無言でソレを見つめていて、
セネルの背中から出てきたはホゥッと息を吐いた。

「やー・・ごめんね。
 助かったわ」

盾にしてしまったお詫びと礼を言うと、
セネルに睨まれてしまった。

どうやら、相当機嫌が悪いらしい。
気持ちもわかるが・・・・

「ふむふむ・・・
 ボンバーズより実力は上・・・っと。」

そこにまた、ジェイの声が聞こえる。
とセネルは、同時にジェイを見た。

しかし、何かに気付いたようにジェイは
スタスタと広場の出口へと歩みを進める。

「あっ、コラ・・・・っ」

ジェイめ、何処に行く!?と引きとめようとすると、
ジェイはニコリと笑んで手を振って
『明日、来れる様だったら来てくださいね』
と、意味深な言葉を置いて行った。

追いかけようとするは、誰かにぶつかる。

「セネル、どうした。
 何があったのだ」

ぶつかったのは、海岸を見に行ったウィルで
がその陰から、続く街道を見たときには、ジェイはもう消えていた。

アンニャロウと舌打ちするに、
打つかった勢いで転びそうになったの肩を支えるウィルは
セネルに言う。

そして、その後ろの光景を無言で見つめた。

セネルとが、顔を見合わせる。

「・・・・・お前もか?」

「ぇ、や・・うぅ・・・」

見下ろされて言われ、は口ごもる。
セネルが咄嗟に弁解をした。

「こいつ等が勝手に仕掛けてきたんだ!」

「詳しい話を聞かせてもらおうか。
 セネル。

「わ、私も・・・?」

「当然だ」

どうして・・肩を落とす

「そんな時間はない!
 早く山賊のアジトに行かないと!!」

セネルはその言葉に、焦ったように言った。
ウィルに対して、それは無意味だと思うが・・・

ダメだ。とでも言うようにウィルが首を横に振れば、
セネルは身構えた。

どうやら、ウィルと合間見えてでも
『山賊のアジト』へ行く気らしい。

「なりふり構わず襲い掛かるつもりか?
 まるで狂犬だな・・・」

呆れたような呟き。

あ、ヤバイんじゃん?もしかして・・・

「退け。
 さもないと・・」

確かにセネルも爪術士だが・・・

途端、ウィルの爪が輝く。

「スカルプチャが光ってる!?
 お前・・・ブレス系か!!」

ウィルもまた爪術士。
しかもその腕前はなかなかだ。

「お仕置きだ坊や。
 ライトニング!!」

同時に、天から閃光が走りセネルの体へと直撃した。

「ぐあぁっ!!」

まともに受けたセネルはそのまま吹っ飛ばされ、
気を失った。

ウィルの目が、を捕らえる。

あーぁ、これでセネルは牢屋行き決定・・か・・・。

・・・お前もか?」

聞かれて、は諦めたような溜息をついた。

「ぜぇったい・・今日は厄日だ・・・・」


どうしてこうなるかなぁ・・・と
途方に暮れたようなその呟きは、ウィルにとって
『降参』の意と取れた。


― to be continue...








セネルも登場!!
ジェイ君にしてやられたさん。
ウィルは、街の保安官(違)てコトでとは
軽く挨拶交わす程度の仲ではある・・・・と言うことでっ;;