白いエリカの彩る夜に
始まりの光6








船は風を切り飛沫を上げて海を進む。
は、僅かに顔を濡らすその飛沫を肌に感じて、目を細めた。


「しっかし、なんで対岸になんか用があるの?」


「えっ!?あ、い、いやぁ、」


ノーマからの突然の問いかけ。
微妙に答えにくいソレに、はハハハ・・・と困った笑いを浮かべる。


「あーっ!ほら、ノーマ、あれっあれっ!!」


それから、ハッとした様には前方を指差して見せた。
其処には、ジェイ達の乗る小船。


「お〜っと!
 前方にウィルっち達の船、発見!」


「よぉっし、セネル!追いつけ!!」


ノーマの意識を逸らせた事にホッとしつつも言えば、
セネルはオウッと答えながら、船のスピードを更に上げる。

それでもあまり揺れが気にならない辺りは、やはり操縦が上手いからで、
其処はやはり、”さすがマリントルーパー”なのだろう。


やがて、前方の船は近づいてきて、その船に横付けすると、
2つの船は、前進を止めた。


「あっれぇ〜?こんな所で会うなんて、偶然だね!!」


セネルとノーマが白々しく向こうの船に声を掛けると、
クロエとウィルが気付いたように、コチラに向かう。


「そんなはずは無いだろう。」

「一緒に行くのは断ると言ったはずだ。」

二人の冷たい言葉が返ってくる。
は苦笑して、二人に手を振ると、声を掛けた。


「まあ、そうギスギスしなさんなって。
 ハゲちゃいますよ?特にウィルさん」

!?何故こんな所に!!」

「まあ、こっちにはこっちでいろいろ事情があるんですよ」


強く問われて、は笑顔で、その言葉を流した。
ウィルが訝しげにを見やると、操縦席の方から見慣れた姿が
こちらへと向かってくる。


「また会いましたね。
 マリトルーパーのお兄さん」

「っお前、今度は何を企んでいる?」


企みを含んだジェイの言いように、セネルが睨み言う。

その言いように気付いたのか、に向けられていたウィルの疑いの目は
ジェイの方へと向き直った。


「2人は知り合いだったのか?」

「そいつのせいで、俺はボンバーズと戦う羽目になったんだ!」

「まー、正確には私もだけど?」


セネルの言葉を少し訂正。
少し、セネルに睨まれた。


は少し黙っててくれ。
 っとにかく、気をつけろよ、ウィル。
 きっと何か、よからぬ事を考えてる」


それはきっと、半分正解。
ウィルの疑いの眼差しが色濃くなる。


「君は一体・・・?」

そう呟いたウィルに、ジェイはあからさまに首を横に振って見せた。
まるで、ヤレヤレ、とでも言わんばかりに。

それから、気を取り直したように言う。


「ねえお兄さん。マリントルーパーって、
 船の操縦、お手の物なんですよね?」


「それがどうした。」


「僕も、船には自信あるんですよ」


確かに、ジェイの操縦は上手い。
何度か乗せて貰ったけれども、風をよく読んで、
気持ちいいほどに切って進んでいく。


「自分と他人の得意な事が重なるのって、
 気になりますよね」


ほら、来た来た。

はこっそり溜息をつく。

持ち前の、負けず嫌いだ。


ジェイは階段を駆け上がり、セネルの事を見下ろして言う。


「どちらの実力が上なのか、確かめずにいられない!
 ・・・貴方の腕、試させてもらいます。
 僕について来れますかねえ!!?」


そう言ったジェイは、素早く操縦席に戻り舵輪を握る。
そして、を横目で見やって言った。


さんっ!
 約束の場所で落ち合いますよ!」


「わ、わかってるって!!」


唐突にジェイが名前を呼ぶから、驚いた。
っていうか、此処で名前を出されたら、自分がやりにくくなるのだが。

ジェイは、ソレを分かっているような笑みで、船を前進させ、
それを見たセネルが、負けられるかと、自分も舵を取る。


「行かせるかよ!」


言って、ジェイに続いて船を進めた。
ガクンっと、少し振動して、ジェイの船のあとをすごいスピードで追う。


「ねー、って、あの生っ意気なヤツと知り合いなワケ?」

「あー、いや、だからさ、うん。は、ははは・・・
 ・・・・セネルー!がんばれーー!!」



あー、めちゃくちゃ不自然だ、自分。
分かっていても、ノーマの鋭いツッコミに、は笑って話を逸らした。

最期の言葉を発したジェイの意図が、さっぱり読めない。



風を切り、二つの船が走る。
勝負は、先に走り出したジェイが僅かに優勢。

自分の腕と張り合うセネルに、ジェイは嬉しそうな顔をしていて、
なにやら、ウィルに怒られている。


見たところ、クロエはキャビンの中のようで、
1度コチラに目配せすると、更にスピードをあげる。


「逃がすか!」


セネルもそれに食らい付き、やがて船は平行した。


「よ〜し、ならんだ!!」


ノーマが満足そうに答え、ジェイが厳しい顔で更に舵を切る。


その時、後ろのエンジンで嫌な音がした。
ゴウンっと、何か重い音。


なんか、怖くて振り返れない。



「な〜んか、変な音してない?」

「それと、僅かに焦げ臭いような・・・・」


ノーマとが顔を見合わせる。
セネルは、船の操縦で手が離せない。

「ああっ!」

ゴゴゴゴゴと背後で音がしている間に、ジェイの船がドンドンと離れていく。


「・・・エンジンの調子がおかしい。
 見てくれ!」

セネルの指示を受けて、が慌てて後ろのエンジンに向かう。
ノーマも、それについてきた。


「見てくれって言われてもなぁ・・・」

「エンジンに関しては、素人なんだ、け、ど・・・」


ぶちぶち文句言いながらエンジンを見れば、
の言葉は、中途半端なところで消えた。


なんていうか、ほら、ね?


「えーっと・・・素人のウチラにも、マズイ、ってわかるね。」

「だねぇ・・・・」


黒煙を上げてもうもうとしているエンジンに、二人の声が重なる。



「どうなってる!?」

「煙吹いてる〜!!」


ノーマの慌てた声。


背を向けたノーマにエンジンが更に危ない音を立てた。


「っノーマ、危ない!!」

「え・・・・ひゃあ!!?」



エンジンが大きく煙いて、爆発した。


― to be continue...