始まりの光10 |
先へ進んでハリエットと合流して。 ウィルとハリエットが親子であるというビックリ事実が判明して。 「バカ!」の一言を残して行ってしまったハリエットを追う様に、 一行もまた、ジェイの家へと向かう。 「元気ないね、ジェイ」 考え事でもするように俯きながら歩いていたジェイの肩をポンっと叩く。 ジェイがハッとした様に顔を上げて、自分を見上げた。 「・・・・・・・・気のせいじゃないですか?」 「あーそぉ?じゃあ、そういう事にしておくけど。」 言ったら、ジェイはすごく不機嫌そうな顔をした。 はそ知らぬ顔でその隣を歩く。 「何が言いたいんですか?」 「さあ?」 そう言って、ニッコリ。 ジェイの顔は益々不機嫌そうに変わる。 言いたいことなんて、本当に何も無くて。 ただ、自分はハリエットの気持ちも、ほんの少しだけ分かることが出来て。 ジェイの気持ちも、本当に、本当に少しだけなら、自分は分かることが出来たから。 少しわかるだけでしかない自分が、本当に、苦しくも感じたから。 ジェイは大丈夫かな、なんて、少し心配になっただけ。 「さって、今日の夕飯は何にしようかなー」 「キュッポ達が、さんのホタテ料理を食べたがってましたよ」 「ふーん?ジェイは?」 「は?」 「いや、ジェイは食べたかったわけじゃないのかなーっと。」 気になったから問いかけたら、ジェイは口篭って 「どうでもいいでしょう」とのお答え。 「じゅーぶんだよ」 笑って返した。 素直じゃないジェイからのその言葉だけで、答えは充分だった。 家へ着いて、セネル達が適当に床に腰掛ける。 ジェイが地図を引っ張り出して来て座り、は それぞれに適当にお茶を出す。 「あ、テーブルだした方が良かったかな?」 「別に良いでしょう。 地図なんかの確認が不便になりますから」 言われて、ふーん。とジェイの前にもお茶を置く。 「あっ、零さないでよね! 絨毯の洗濯って案外大変なんだから!」 「さんじゃあるまいし」 「な・あ・に?」 「いえ、何も?」 睨んでやったらニッコリ笑って返された。 何だ、さっきのお返しかオイとか思いながらも、 こんなやり取りがすごく久しぶりで、何処となく安心している自分さえ居ると言うのだから なんとも複雑な心境だ。 思わずついた溜息に、フと、ノーマがジッとコチラを見ていることに気が付く。 「どうかした?ノーマ」 「いや、さっきからずーっと思ってたんだけどさぁ」 それから、とジェイの顔を見比べて、 一呼吸の間をおいた後に、言った。 「とジェージェーって付き合ってんの?」 「「はあ!!?」」 ジェイとが、すっごい勢いで振り返った。 だと言うのに、ノーマはかんらと笑う。 「まあまあそう照れなさんなってぇ〜」 「照れてない!っていうか違う!!」 「違うのか?」 「クロエまでそういう事言う!!」 思い切り否定したらクロエまで驚いたように聞いてくるから困る。 っていうか何故そんな誤解を招いているのか、自分たちは 「随分仲が良い様だったから、てっきりそうなのかと思った」 「違うー! ジェイは単に私の師でー!」 「師?」 「うあーもー説明ややこしー!!」 いや実際はそんなにヤヤコシイと嘆くほどヤヤコシくも無いのだけれど だってなんかイロイロと誤解が生じちゃってるし まずその誤解がまたヤヤコシイのだからどうにもならない。 「っていうかジェイもなんとか言ってよ!!」 そうだよ何で自分だけがこんな必死になって弁明しなくちゃいけないんだよ。 思ってジェイを振り返ったら、思いっきりキッパリ言われた。 「家政婦と雇い主、師匠と弟子。それだけです。 それ以上の親密な関係なんてありませんよ。」 いや、確かにそうなんだけどさ・・・ なんか、身も蓋もない・・・・・ 「えー、でもさぁ、同居までしちゃってるのに なんにも無い方がおかしいっしょー?」 それって男としてどうなわけ〜?とノーマ。 っていうかまだ続くのかこの話。 「同居なんてしてない! だから私は、導きの森で野宿だって!!」 「えー、あれマジなワケ!? うっそ、信じらんない。ジェージェーの人でなしー!」 女の子を外で寝泊りさせるなんてー!とはノーマ。 ジェイは知りませんよそんなの。と顰め面。 が「わ、私がしたくてしてるんだし」と宥めて っていうか、なんで自分、ジェイの弁解してるんだ。 可笑しいだろ、この構図。 「そんな事より、シャーリィはどうなってるんだ!」 セネルがイライラしたように言って、その場がやっと収まる。 彼自身にはその気は無いと思うけれども、とりあえず渡された救いの手を 有り難く受け取らせてもらって、はそうそう、それよそれ、と ジェイに地図を渡す。 助手みたいなことしてるけれども、自分、ただの家政婦ですよ。 ジェイの先を読んで動いてる自分、偉い。 「何ニヤニヤしてるんですか、キモチワルイ」 「予想はしてたけどもうちょっと物言い考えろや、泣くぞ」 何キモチワルイって、それが女の子に対するもの言い? ・・・・・・いや、最近、自分自身ちょっと、女の子かどうかの認識が よくわかんなくなってるんだけどさ。 そんな感じでボーっとしていれば、をスルーして、 ジェイがいつの間にか話を進めている。 セネルの妹であるシャーリィの居場所、 その護送ルート、それから、最終目的地。 そして、何よりも たった一人の少女を、一国の軍隊が攫ったという、 その、理由。 「シャーリィさんの力を使って、遺跡の秘密を手に入れる。 おそらくそれが、ヴァ―ツラフの狙いでしょう」 地図を沿って動かされるジェイの指を見つめながら、 は、立ったまま、一歩引いた位置で壁にもたれる。 普段、ジェイは一つの情報しか提供はしていない。 今回は『特別』 自分自身もまた、『メルネス』についての情報が欲しいから。 だから、此処まで積極的に、セネル達に協力している。 それだけ。 は、身を壁から離す。 キッチンに向かって、少し甘めのミルクティを2つ。 それと、チョコレートジャムにバナナを挟んだサンドウィッチをお皿に2列。 あと、ボールに氷水を入れて。小さなタオルを其処に浸した。 お盆に載せて、話し込むセネルやジェイたちを後に それを持って、2階へと上って行く。 彼等の話は、ゲームの本編で大抵知ってる。 むしろ気になるのは、2階でピッポと居るであろうハリエットだった。 そろそろ、彼女も落ち着いた頃だろう。 イライラしたり泣いた後はお腹がすくから、 コレはその為の軽食だ。 ・・・・ハリエット、甘いの嫌いじゃなかったよね・・・? 「や、ハティ。 気分は落ち着いた?」 「・・・・」 ハリエットの目は、案の定真っ赤になっていて、 あの後、相当泣いたことが知れる。 ピッポは立ち上がって、「さん、少し任せても良いキュ?」と 気を使って席を外してくれた。 そんなピッポの心遣いに、感謝する。 はハリエットの隣に腰を降ろすと、 先ほど氷水につけたタオルを、キュッと絞って、畳み直し 彼女に手渡す。 不思議そうなハリエットに、ニッコリ笑って チョィチョィ、と瞳を指してやった。 すぐに意を解したハリエットは、そのタオルを瞳の上に乗せる。 ソレを確認したは、彼女の前にミルクティを一つ置いて サンドウィッチのお皿を差し出しながら、静かに言った。 「目が腫れたりなんかしてたら、 折角の可愛い顔が台無しだよ、ハティ?」 「いいわよ、別に。 可愛くないもん・・・・」 「可愛いと思うけどな?」 「可愛くないのっ」 言って、少し呼吸を置いて、ハリエットは言う。 「ママはハティはママ似だって言ってたけど・・・・ ママの方が、ずっと美人だったわ。」 言って、ハリエットは一つ、鼻を啜った。 「・・・・ハティは、そんなにウィルさんの事・・・ 嫌い・・・かなぁ?」 尋ねたを、ハリエットの瞳が強く睨んだ。 「嫌いよ!大ッ嫌い!! さっきの話、だって聞いてたでしょ!!?」 「うん、聞いてたよ。 その後の、ウィルさんの話も。」 「・・・アイツは、どんな言い訳してたの?」 は、何となく天井を仰ぐ。 「ウィルさん、見に行ったんだって、 ハティのお母さんのお葬式。」 「え・・・・・」 「堂々と出て行くことは出来なくても ウィルさん、陰から見てたんだって。 ハティが泣きながら、恨み言を吐くところも、全部」 「・・・・・・。」 ハリエットの、苦しそうな顔。 先ほど、この話をしていたウィルと、そっくりの表情。 「・・・・『ヤマアラシのジレンマ』って、知ってる?」 「ヤマ・・・なに?ソレ・・・」 唐突に言ったの言葉に、ハリエットの怪訝そうな表情。 がクスクスと笑う。 「寒い場所にヤマアラシを2匹置くでしょ? 2匹のヤマアラシは、寒いから身を寄せたいんだけど 身を寄せ合ったら、お互いを傷つけてしまう。」 「・・・・・・。」 「ヤマアラシは、そうやってくっついたり 離れたりしながら、お互い、丁度良い距離を 見つけていくんだって。」 学校で習ったことが役に立つとも思ってなかった。 現代社会か何かで、習ったことだ。 あの時、妙にその話に納得した自分が居たのを、覚えている。 人は、そうやってお互いの丁度良い距離を見出していく。 賢い、というよりは、一種の狡賢さの様な気もする。 「ウィルさんもハティも、お互いの距離が まだよくわかってないんだよ、きっと。 ・・・・ううん、多分相手の事もまだ良くわかってないから、 きっと近づくことすら出来てないんだと思う。」 「・・・よく、わかんないわ。 もっとハッキリと言ってちょうだい」 「んー、私はウィルさんを良い人だと思うけど ハティは、それじゃ納得できないでしょ? だから、時間を掛けてでもゆっくりとウィルさんの本質を見てさ、 ウィルさんを嫌いな人間だって思うのは、それからでも遅くないよって事。」 言ったら、ハリエットは迷うように視線を彷徨わせて、 何か言おうとするけれども、結局、言葉にもならなくて。 最終的に、唇を尖らせることで終った。 「紅茶、飲んだら?」 「ミルクティ? ハティ、そのままの紅茶が好き」 うーん、やっぱりマセガキだわ、この子。 「まあまあ、そう言わずにさ。 ミルクティって、人の心を安心させてくれる効果が在るんだよ」 で、甘い物でも食べて気晴らしでもして? 笑って言ったら、ハリエットは、ゆっくりと 少し冷めかけてるミルクティを両手で持って口へと運ぶ。 「・・・・おいしい!!」 一呼吸の間の後、彼女はそう言って、 満面の笑顔をに向けた。 |