届かぬ手2 |
カツン・・・と、靴の音が響く。 遺跡内は音がよく反響して不思議な気持ちになる。 何処か適当な物陰を見つけて、姿を隠した。 膝をついて、深く深く、息を吸う。 少し、震えていた。 ジェイは信用して任せていると言った。 それは、嬉しい事だ、本当に。 ・・・・でも、あくまでも自分は一般人だったのだ。 普通に学校に通って、友達と話して、戦争も無く平和な国に育って・・・ だから、今のこの状況に、冷たく静かな緊張が、 染み入るように体の中を侵していた。 「・・・よし。」 息を潜める。 手の震えは、押さえつけようとして余計に震えたが、 手にはめたジェミニシェルに触れると、やがてゆっくりと収まった。 その内、外からはガラガラと車を走らせる音が聞こえ始める。 ゲーム内では、この作戦は失敗に終る。 ・・・それでも、もし其れを変える事が出来るなら・・・ 「5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・」 ノーマたちのブレスは・・・・・ ―― ウオオオオオオオォォっ!!! 「え、な、何・・・・・ぁああああ!!!?」 しまった、ヤッベすっかり忘れてたよ!! 此処で作戦を乱すヤツ―・・・ モーゼス・シャンドル!!! 外からは襲撃の音が聞こえ初め、途端に騒がしくなる。 敵襲だと!?とか言うメラニィの声も、騒ぎと共に聞こえてきた。 ・・・結構近くに居るらしい。 「・・此処で私まで動いたら・・・」 流石に不味い。 作戦が崩れたからこそ、何処かで補正を入れる場が必要だ。 外に飛び出しそうになる衝動を、グッと堪えた。 外から、煙が入り込む。 ジェイが煙幕を投げたのだろう。 大分崩されたけれども・・・・ 作戦は、開始だ。 入り口付近に立って外の様子を伺いつつ、 外の様子を見やる。 火薬臭い煙が立ち込めて、僅かに混ざる血の匂い。 思わず、鼻を押さえる。 その時、金髪の少女が二人、煙の中から姿を現し その反対から、同じくクロエとセネルが現われた。 「お兄ちゃん!!」 「お兄ちゃん・・ですって?」 名を呼んだシャーリィと、思わず体を強張らせたフェニモール。 「シャーリィ、こっちへ!!」 セネルが手を差し出し叫んだ。 「シャーリィと一緒に居るのは誰だ!?」 「考えるのは後に!! 早くこっちに逃げて!!!」 クロエの疑問を掻き消して、が叫ぶ。 目の前を、赤い影が通り過ぎた。 クルザンドの兵だ――・・・ シャーリィとセネルとの間に割ってはいり 退け!! セネルが叫ぶ。 ああ、もう。 「っライトニング!!」 前方シャーリィ側の兵2人に、稲妻が突き刺さる。 「のブレスか!?」 「良いから余計なことに気を取られない!!」 「っシャーリィ、今の内に遺跡の中へ!! 、2人を頼む!!」 「・・・了解!着いて来て!!」 が踵を返す。 シャーリィは頷いて、もう一人の少女の手を引き 後を着いてかけてきた。 この際だ、仕方ない。 クロエとセネルなら、何とかこの入り組んだ遺跡内でも どうにかして、追いつく事ができるだろう。 ・・・・現在に大切なのは、この2人を救出する事。 それが、この作戦の最終目的だ。 大変なのは、正に此処から・・・・ 鉄扇を構え直して、前方を見据える。 遺跡内は薄暗くて、多少視界が悪い。 頭の中で、先ほど叩き込んだ地図を思い出した。 「・・・こっち!」 「あ、あの・・・」 「・・・シャーリィ・・だよね?セネルの妹。」 「は、はい・・・」 「私、。。よろしくね、シャーリィ。 ・・・・と、あと・・・」 走りながら自己紹介を済ませ、 もう一人、ツインテールの少女を見る。 少女はと目が合うと、不快そうに目を逸らした。 「うーん・・・名前教えてくれると助かるんだけどなぁ・・・」 「あ・・・彼女は、フェニモール・・・」 「フェニモール? ・・・よろしくね。」 言うけれども、答えは返してくれなかった。 入り口からは、大分離れただろう。 セネルたちの姿は、後を追ってこない。 「・・・何処かで、セネル達と合流しなくちゃ。」 「あの、お兄ちゃんは・・大丈夫でしょうか・・」 思わず呟いたに、シャーリィの不安そうな声。 元気付けるよう、微笑んで見せた。 「だーいじょうぶだって! セネルが強いのは、妹である君が一番よく知ってるでしょ? ・・・それに・・・・」 未だに不安そうなシャーリィの肩を、ポンポンと叩いて 「今は、セネルにも仲間が居るよ。 みんな、本当に強いから・・・大丈夫!!」 シャーリィが、驚いたように僅かに目を見開いた。 はニッコリと笑んで、フェニモールに視線を移す。 「何処かで隠れて皆を待とう! ・・・そうしたら傷の手当てをしよう?フェニモール。 それまでは、もう少し我慢できる?」 「あ・・・・」 問いかければ、戸惑うように視線を彷徨わせたが、 それでも、微かに頷いてくれた。 「其処の奴等、待て!!」 「げっ追ってきてる・・」 その時、背後から響く荒々しい声。 振り返れば、仲間とは程遠い赤い鎧。 クルザンドの兵士だ。 「っ2人とも、あの壁の上に登れる!?」 「え・・・」 「私、そんなに強くないからさ、 多分2人を守りながらは戦えないから! とりあえず安全なトコに避難しといて!」 前方の壁を指差し、が叫んだ。 スピードを落としシャーリィ達よりも後ろに着いて 兵士たちを振り返る。 数は10より少し上。 一人で相手をするのは流石に不安だ。 視界の端で、シャーリィが壁をよじ登り、 その後に、傷付いているフェニモールを引っ張り上げる所を見ながら は鉄扇を構えて目を閉じた。 湧き上がる満ち潮の海。 荒れる嵐の波。 純白に光る爪、添えた鉄扇は、すっと、目の前の兵士へと向いた。 「スプレッド!!」 敵兵の上空が僅かに光る。 瞬間、頭上から大量の水の塊が落下し、兵士たちの半数を上から押し潰した。 体勢を崩し床に伏すその隙に、再びの爪が強く輝く。 「ファイアストーム・・!」 ブレスを休む暇なく立て続けに二回。 多少疲れたが、それでも、残りの兵はあと2人にまで減っていた。 「・・・すごい。」 背後で聞こえた少女の声。 どちらの物とは知れなかったけれども、 僅かに振り向いて笑みを掛ける。 ・・・そんな余裕、本当は無いのだけれど・・・ 「魔神剣!!」 その時、張りのある少女の声が響き、 鋭い衝撃波が、地面を伝い来た。 残りの2人の兵へと、それは寸分違い無くぶち当たり、 残りの兵は、叫びを上げて地面に伏した。 「み、皆・・・・」 安堵感に、思わず間の抜けた声が出る。 いや、だって恐かったんですよ、本気で。 「!無事か!?」 「大丈夫!セネル、シャーリィも無事だよ!!」 走り寄ってくるセネル以下皆の姿に手を振り 壁の上を指さす。 セネルが、ホゥッと安堵の息をついた。 「間に合ってよかった・・・シャーリィ、降りられるか?」 「うん!」 シャーリィは明るく頷いて、それからハッとした様に フェニモールのほうを振り返った。 彼女の傷を見やり、言う。 「フェニモール、先に下りて。」 けれども、フェニモールは首を横に振った。 「・・だって、下に居るの陸の民じゃない・・・。 どうして敵のところへ行くのよ。」 「敵じゃないわ。見てたでしょ? 私たちを助けに来てくれたんだよ。 さんだって、私たちを守ってくれたでしょ?」 優しく語り掛けるようにシャーリィが言う。 早くしないと追っ手が来ると、ウィルが焦るように背後を気にする。 「フェニモール、お願いだから。」 「嫌よ・・・アンタだけ行けば良いでしょ?」 「そんな事出来ないよ。」 あの少女は何を躊躇っているんだ?とクロエ。 あんなに怯えるのも、仕方の無い事なのだと思う。 だって、彼女は陸の民に家族を、友人を、仲間を殺されて、 あんなに酷い傷を、彼女自身つけられて・・・ 「フェニモール・・・さあ」 「いやだって言ってるのに!! 陸の民なんか、信用できるもんか!!」 「フェニモール!!」 頑なに嫌がる彼女に、シャーリィは咎めるように声を張った。 「其処までだよ、貴様たち!!」 その時、高慢と言って良いほどの声が割ってはいる。 ハッとして、その方向を見た。 此処よりも一つ高い位置にある通路に、紅い鎧の兵と 角飾りを頭に付けた女が立ち見下ろしている。 「っメラニィ・・!!」 追いつかれた・・・! が顔を顰める。 「そこのマリントルーパー! 崖から叩き落したってのに、よく生きてたもんだね。 ・・・だが、今度こそ終わりだよ。」 その言葉に、思わずハッとする。 ああそうだ・・・なんで自分はさっきからこんな・・・ 「シャーリィ、そこから飛び降りろ!受止める!!」 「待って!!飛び降りるよりも寧ろ 私たちもあそこに!!出来る限り高い所に・・・」 「そうはいかない!!」 っ遅かった・・・・ 唐突に、地面が唸りをあげて揺れ始める。 「何の振動だ!?」 「此処がどんな場所か知らないのかい? だったら教えてやろう。」 まだ、まだ間に合う。 が手を伸ばし壁に触れる。 「答えは・・・これだ!!」 声と同時に、通路に水が押し寄せた。 水が勢いに任せてセネルたちを押し流す。 「うあ・・・!?」 どこかに掴まろうと手を伸ばした。 指の先が遺跡の壁に掘り込まれた繊細な模様の溝に引っかかり、 どうにかだけは流されずに持ちこたえる。 (・・・っ苦し・・・) 水に体を煽られ、煽られ・・・ 体を支える指先に負担が掛かり、手の感覚が無くなる。 水が体にぶち当たり、呼吸を塞ぐ。 意識が朦朧としてきた頃、フと、気付いた。 「・・・あ・・れ・・・?」 苦しく、ない。 自分はしっかりと水の中に居て、体に触れるのは 間違いもなく水以外の何者でもない。 それなのに、呼吸が・・・ 「お兄ちゃん!!」 頭上で高く叫ぶ声。 止める間も無く、シャーリィが水に飛び込み、流される兄の後を追ったが、 重々しい鉄格子が、その行く手を阻んだ。 |