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白いエリカの彩る夜に
届かぬ手4








―― 大丈夫・・・


声がする。


―― 大丈夫だよ。


いつもの声とは違う。


甘い声だ。


優しく語り掛けるような声。



―― 此処に居るから・・・大丈夫。



初めて聞いたはずなのに、どうしてこんなに懐かしいんだろう。


―― 君の傍に、いつでもいるよ。


初めて聞いたはずなのにどうしてこんなに、優しいんだろう・・・



「おいワレ!さっさと起きんかいコルァ!!」


「ん・・・・っ」


荒々しい声が聞こえて、意識が急速に浮上した。

ポタリと、頬の上に冷たい何かが落ちてくる。

手で触れると、水のようだった。

一つだけじゃなくて、いくつかの水滴が
一定のリズムで頬を打つ。


そっと目を開ければ、何か焦ったような赤い髪の男が
グッと覗き込んでいた。

先ほどから落ちてくる水滴は、
どうも男の濡れた髪から落ちてくるものだったらしい。


・・・・って・・・・


「うわあああぁぁ!!?だ、誰サマ!!?」



咄嗟に起き上がり叫ぶ。

が、脇腹の激痛に、うおぉ・・としゃがみ込んだ。

男は、ぉお!とか、感嘆なんだか驚いたんだか分からない声を上げる。


「その様子なら大丈夫そうじゃの。」

「だ、大丈夫じゃな・・・っ
 何これめちゃくちゃ痛・・・つかワルターは!?」


頭の中がこんがらがっている。


何だ何だ。

自分が意識を失っている間に、何があった・・・?


「何じゃようわからんが、ワイが来た時にゃ、
 ワレが此処に一人で倒れちょったんじゃ。」


目の前の男の言葉に、呆然として、痛みが引かない脇腹に手を当てる。

フと、布の感触を覚えて驚いて見やった。


脇腹に、少し不器用に縛り付けられている黒い布。


「これ、貴方が・・・?」

「あン?此処に来た時にはもうその状態じゃったわ。」


・・・ワルターだ。


これ、きっとワルターのマントか何かだ。


此処に置いてかれたけど、でも、手当てまでしてくれて・・・


・・・大丈夫カナ、あいつ。


疑問と同時に、思ってみたり。


「ったく、こんな魔物だらけンとこでよう寝られるもんじゃの。
 ワイが起こさんかったら、今頃は魔物の腹ン中じゃ。」

「え、あ・・・・ありがとう。」


そ、そうか一応この人にも助けられたのか。


この赤髪で隻眼の・・・の・・・・


「ワレ、名前は?」


「や、あの、その前にちょっと、其方の名前伺っても
 宜しいでしょうかね・・・?」


「お?そうじゃの。ワイから名乗るんが礼儀か。
 ワイはモーゼスじゃ!モーゼス・シャン・・・」


「モーゼス・シャンドルううぅぅ!!!!」



思わずぶった切って指差した。

モーゼスは、びびってぉお!?とか飛び上がる。

いや、だってまさかそんな、
こんな所で会うとは思わないじゃないですか!!


「な、なんじゃ、ワレ、ワイの事知っちょるんか」


「い、いやだって、あー・・ホラ有名じゃん、うん。
 山賊、モーゼス・シャンドルって。」


咄嗟に誤魔化した。

ヤバイヤバイ、名乗りぶった切って叫んじまったよ。

でもまあ事実、この人結構街では噂になっていた・・気がした。

その話にモーゼスは納得したのか
クカカっと笑って頷いた。

「ほーかほーか!
 なんじゃ、ワイも有名になったもんじゃのう!!」

・・・これ、絶対にジェイ相手だったらバレてたウソです。


「んで?ワレの名は?」


「あ、私は、火乃崎華楠。」


「・・・なんじゃ、長ったらしい名前じゃの。」


「名前は華楠。だから、そう呼んで?」


「ほー、変わった名前じゃの。」


そうかもね。


言って、少し笑った。


多分、ごくごく一般的な名前だと思うんだけど。



しかし、その仕草の最中に再び腹が痛んで顔を顰める。


「・・・ファーストエイド」


このままじゃ不便だ、とブレスを掛ければ、すぐに痛みは楽になり、
今度こそモーゼスは、感嘆の声を上げた。


「何じゃワレ、爪術が使えるんか。」


モーゼスは立ち上がり手を差し出す。


遠慮なくモーゼスの手を借りて、立ち上がらせてもらった。


「う、うん。一応は。」


それからフとして腰に手を添える。

しっかりと鉄扇の感触が手に伝わって、ホッとした。


此れをなくしたら、一大事だ。


「ほーか。そんなら、ワレも戦力じゃ。
 一緒に戦ってもらうからの。」


「ん?」


「上まで戻るんじゃろうが。
 どうせ向かう場所は同じじゃ。
 一緒に行くんで構わんじゃろ。」


「あ、う、うん」


それは確かに、スッゴイ助かるけれども・・・

あれ?モーゼスってこんな強引キャラだったけかな?

ちょっと驚いてみたり。


「ギート。」


モーゼスが言うと、華楠の背後で何かが動く。

ハッとすると、大きなガルフがモーゼスの元まで歩み寄った。


「それ・・・」

「おう、ワイの相棒のギートじゃ。
 安心せい、噛みゃせんわ。」


「あ、う、うん・・・」


あれが、グランドガルフ・・


たしかに、普通のガルフに比べれば、ずっと大きいし威圧感がある。

それが、当たり前の様にモーゼスの隣に居る光景が
なんだかとてつもなく不思議に思えた。


モーゼスは、ギートの頭を撫でる。


「ギート、案内頼むわ。
 ほれ、華楠嬢、行くぞ」


「あ、了解。」



モーゼスに促されて、ハッとしたように後を追った。















「ところで華楠嬢。」


道中、しばらく戦ったりしながら歩いて、
フと、話しかけてくるモーゼスに首を傾げる。



「さっきから戦ってるの見ちょるが強いのぉ。本当に女か?」

「あっはっは。しっつれいだねーアンタ」


女か?って。

女ですよ。多分。一応。


「ののの、ちょおワイにもブレス掛けてくれぃ」

「・・・自分から申し出るなんてよっぽどのマゾかモーゼス!!」

「ちゃうわ!!誰が攻撃せい言うた!!
 癒しのブレスじゃ!癒しの!!」


いやだってそんな怒鳴られてもさ。

今の会話の流れじゃ、明らかに攻撃ブレス掛けてくれと言ってるようにしか・・・

嗚呼、びっくりした。


「良いけど・・・どっか怪我した?」


「たいした傷じゃないんじゃが、流石に量が増えてきての。」


「あー・・さっきから戦いっぱなしだもんねぇ」



流石に2人だけで相手ってのは中々大変で、
ずっと戦闘を続けていれば嫌でも傷は増える。


・・多分、ジェイに言ったら「まだまだ修行が足りなくて・・」とか言われるんだ、きっと。



その後、ブレスをかけてやれば、ニカっとか笑って礼を言われて。
うーん・・こうやってればまともに見えるのになあとか思ったりもして。


その時フと、自分たち以外の足音を耳が捉える。


見やれば、向こう側からセネルたちの姿が見えた。


「セネル!!」


「ん?おう、ワレらか。
 こんなところで会うとは、奇遇じゃの」


思わず声を上げた華楠に、モーゼスは驚いた様子も無く
カラカラ笑って手を上げた。


「お前は!!」


けれども、セネル達はそれぞれが武器を構えてモーゼスを迎える。


っていうか私も一緒なんですが・・・


「フッ」


「モーゼス!!」「バカ山賊!!」


・・・・あれ?今ちょっと違う呼び方が混ざってた気が・・・


モーゼスはクカカ・・と軽快に笑い・・


「って待てや!!
 一人変な呼びかたしたじゃろ!!」


あ、気付いてたんだ。


思わず皆でノーマを見やる。

ノーマは、ジェージェーの真似しただけだもーん。と
気にもして無さそうに言った。


「モーゼス、こんな所で何をしている。」

「それに、なんで華楠がモーゼスと一緒に居るんだ。」


ウィルの問いに続いて、クロエがたずねる。


「ああ、一応一緒に居るの気付いてくれてはいたのね。」


なんか余りにも存在スルーだったから
気づかれてないのかと思っちゃったよ。


「水路の真ん中歩いちょったら、いきなし水がドバーきおっての。
 あれよあれよと下まで来てしもォた。参ったわ!」


そして、またあの独特の笑い方で笑ってから、
華楠を親指で示す。


「ようやく岸に上がったと思ったら、華楠嬢がグッタリして倒れちょっての。
 ワイが助けてやったんじゃ。」


「上に戻るのは同じだし、一緒に行こうって事になってね。」


「ま、この嬢ちゃんがワレらの仲間だったとは知らんかったがの」



そう言って僅かにこちらを振り向くモーゼスは、
先ほどと同じく軽快な笑みなのに、先ほどとは打って違い
警戒するような瞳をしている。

それを確認した華楠が顔を顰めると、
モーゼスはついと顔を逸らしてセネルに近づいた。

挑発するように上から見下ろして、笑う。


「此処で会えたのも何かの縁じゃ。
 こないだの続きとシャレ込むかの?」


先ほどの態度が気に食わなかったのと、
アホかコイツはという気持ちが入り混じって、
ツカツカとモーゼスの背後へと歩み寄った。


バシン!!ゴキン!!と、遺跡内になんか乾いた音と硬質な音が響く。


モーゼスが「のごぉ!!?」と声を上げ、
見れば、同じくセネルが、ウィルの鉄拳を頭でまともに受止めていた。


セネルは無言で頭を抱える。


「状況をわきまえろ、バカ共が。」


「今はそんな事してる場合じゃないでしょーが!!」


腰に手を当てて言うと、セネルはいやに不服そうだった。


「何さらすんじゃ華楠嬢!!」


「背中引っ叩いてやったの!
 モーゼス上半身裸だからねーいーい紅葉が出来上がってるわよー」


言って、はっはっはと笑う。

モーゼスは背中を押さえて「何ィ!?」とかギャースカ言っていた。


「敵だの味方だの、粋がっていられる状況でもあるまい。」


「馴れ合いはごめんじゃ。
 ワイらは勝手にやらせてもらう。」


「・・・私とは一緒に来たくせに。」


「アレは仕方なしじゃ。
 それにあの状況で放っておいて死なれでもしたら
 寝覚めが悪いじゃろが。」


モーゼスの口調が唐突に突き放した物になって
なんだかムっとする。


「だったら勝手にすれば良いじゃん。
 私はセネルたちとも合流できたし、皆と行くから。
 助けてくれて有難うね。」


フンっとソッポを向いて、華南は言った。


「そう言う事だ。
 言っておくが、俺たちの邪魔はするなよ。」


「するなよ!」


後をウィルが引き継いで、ノーマが手をバタバタさせながら
そんなウィルの真似をする。

ケッと、モーゼスがソッポを向いてさっさと歩き出した。


「・・・・あの・・皆、ごめん」

「?どうしたんだ?急に」


そんなモーゼスの背を見送り、
唐突に、華楠が一同に向かって頭を下げる。

ギョっとしたようにセネルが問うと、シュンとして華楠が答えた。


「・・・私、一人あの場に残ったのに・・・
 シャーリィが無事か、わからないんだ・・・」


どういうことだ?とクロエ。


華楠が、この道中の経緯を話すと、
セネルは暫く考えた後に、首を横に振った。


ニコリと、笑んで。


「・・・大丈夫だ。
 今からでも、シャーリィ達に追いつけば良いだけの話だ」


「そう言う事だな。とにかく、急ごう。
 そうとなれば、のんびりしている暇はない。」


「んで、かーな、その斬られた傷はだいじょ~ぶ?
 もし痛むようだったら、ブレスかけたげるよ」


「ノーマのブレスが不安なら、俺が掛けよう。」


「ちょぉっとウィルっち!それど~いう意味よ!」


「どうもこうも、そのままの意味だ。
 お前のブレスは時折どうにも信用ならん。」


「なんだとお~!!」


その、何の気ないやりとり。

この状況下でのそのやり取りが、すごく暖かかった。


「・・・大丈夫。もう、自分で回復しちゃったし」


言えば、ノーマは「それなら安心~」と笑って


「・・・ありがと、」


華楠は微笑んだ。



「それより、華楠。
 なんだか、少し顔色が悪くないか?」

「へ?」


唐突にクロエ。

え?そう?と、自らの顔に手を当てる。


「・・・・あれ?熱い・・・」


可笑しいな・・・?


思ったら、なんか急に体がダルくなった気がして・・・


「よし!ウィルさん、おんぶして!!」

「・・・それだけ元気なら平気だろう。行くぞ」

「ぉおうっ華麗にスルー!!」


・・・ああちょっと、熱のせいかテンション可笑しいわ・・・