白いエリカの彩る夜に
届かぬ手5








「ねね、、この辺りがどの辺か、わかる?」


「・・・一応ね。地図は一通り頭に叩き込んだし。
 ・・・次は左。」


「・・・ねえちょっとクー。
 ってばめっちゃ怒ってるよ〜」


ノーマがクロエとコソコソ話している。


聞こえてはいたけれども、申し訳ないながらスルー。


ああもう、イライラする。

何さ、何なのさ。


私がセネル達の仲間とわかったら
いきなり私も敵ですか?え?


・・・・って言うかさ。


「なんで私たちの後ついてくんのよアンタは!!」


そこのストーカーよろしく背後にベッタリの赤髪!!


ビシ!っと指差せば、モーゼスはビビッて肩を揺らす。


「ワレらこそ、ワイらの行く方に先回りすんな。
 通行の邪魔じゃ。」


「だーもー!ムカつく!
 バカ山賊のクセに!!」


「バカ言うな!!」


ノーマもキレて言えば、モーゼスが気にくわなそうに言い返す。


「うるさい!バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!!」


「ついでにバカガルフ!!」


とノーマでバカ二重奏。


、ノーマ、相手にするんじゃない。」


呆れた様にウィルがそうたしなめた。


「だぁってさぁ・・」


が口を尖らせて言う。


勝手にやらせてもらうとか言ったくせになんで背後ベッタリ?


納得いかない・・・・


その時、セネルの服の中から、何か小さな光が漏れた。


「クーリッジ、何か光っているぞ。」


クロエに言われて気付くセネルは、
服の中を漁り、小さな貝殻を取り出す。


結構大きな、手の平サイズの貝殻。


「・・・あれ?それって・・・ジェミニシェル?」


自分の手首についている貝殻と見比べる。

形も大きさも全然違う。

セネルが持っているのは、本当に『貝殻』だ。

一番最初にが想像していた通り。
浜辺に落ちているような単なる貝殻と、何ら遜色ない。

ともすれば、やはり最初のの想像は
間違っていなかったわけだが、それにしても、
の手首に下がる、似ても似つかない、磨かれた宝石の様なソレ。


やはり、それぞれによって形や種類が違うのか?とか思ってみていると、
セネルが口早に貰った経緯だけを説明をしてくれた。


「ピッポ達に貰ったんだ。
 ・・・シャーリィが、俺を呼んでいるのか!?」


わかったシャーリィ、すぐ行く!!


セネルはそう言って、貝殻を強く握ると
途端、先に走り出した。


「あ、ちょ、ちょっと!!」


ノーマが言って、ウィルとクロエもその後を追い、
も、最後尾を走り出す。


「・・・モーゼスまで付いてくる必要ないと思います!」


「うるさいわ!ワイの前を走られんのが癪なダケじゃ!」


「だったら追い越して行けば良いじゃん!」


「お、思うよりもワレらの足が速いんじゃ!」


「鈍足!」


「絞めるぞワレ!!」


やれるもんならやってみろぃ。


鼻を鳴らして、少しスピードを上げる。

ヤッパリ付いてくる。


なんかやっぱりムカついたから、
とりあえず足を掛けて転ばせてやった。
















暫く先に行くと、セネルのジェミニシェルがより一層輝きを増す。


「シャーリィ、近くに居るのか?」


セネルが、貝殻を手に辺りを見渡す。

辺りは壁。

それ以外には何も無い。


けれども、確かに貝殻は強い光を放っている。


「あ、そう言えば・・・」


「どうした、。」


「えーっと・・・うん、多分此処らだ。
 確かこの辺りに、隠し小部屋があったと思った。
 ジェイ作成の地図だから、そう言うのもしっかり書いてあったんだよね。」


言って、セネルの手を掴み壁に近づく。

唐突なその行動に、セネルはギョッとした様に身じろいだ。


「な、何だ?」

「ジェミニシェル、壁に翳してちょっと歩いて。
 一番強く光る辺りが、多分そうだと思うから。」


が言うと、セネルは納得したのか、素直に従ってくれて。

壁伝いに、シェルを翳しながら歩く。


一点に付くと、シェルはまた一層強く光った。


「ここか・・・?」


「多分、」


が壁に近づき、少し叩いてみる。


トントン、トントン。


何度か繰り返し、場所を替えていく。


「何じゃ?壁に向かってブツブツと。」


「少し黙って。
 ・・・・ここで間違いないはずなんだけど・・・」


言って、壁に手を触れて溜息をついた。

どこか別の場所にスイッチでもあるのだろうか。

うーん・・・と首を傾け、壁から手を離そうとした時・・・


――― カチッ


何かが嵌る様な音がした。

おや?とか思ったら地響きと共に、壁の中からゆっくりと
扉が姿を現す。


「見つけた!!」


「おー!すっごいじゃん
 お手柄だよ!!」


「シャーリィ、今行くぞ!!」


手を叩くノーマと、セネルは叫んで中へと駆け込み、
その様子にノーマは固まったけれども、は肩を竦めて苦笑した。


「こら〜!セネセネ!礼くらい言えぇ!!」


「まあホラ、多分必死なんでしょ、うん」


とりあえず、後に続こうか。


あはは・・っと笑ってノーマの手を引いた。



「え・・・・・?」



小部屋の中に入る。


中に居たのは、うつ伏せに倒れるワルターとフェニモール。

シャーリィの姿は、ない。


「お前は・・・?」

「っワルター・・・!
 フェニモール・・・シャーリィは・・・?
 ワルターは、大丈夫なの?」


恐る恐ると、は尋ねる。

あの後、彼はどうなったんだろう。

を助け、岸に上げ、その後・・・


「いない、ね」


「床に倒れているのは、空を飛ぶ男か?
 どうしてここにいるのだ?」


人の手当なんて、している余裕も無かったくせに、
なんでこの状況で、陸の民である自分に、こんなに手を尽くすんだ。


セネルが貝殻を翳す。
フェニモールの手の内で、対となる貝殻は光っていた。


「何故お前が、その貝殻を!?」


セネルが、詰め寄る。


フェニモールは怯える様に一歩下がった。


「い、いや・・・」


「ストーップ!」


―― バシン!!


「痛!!?」


尚詰め寄ろうとするセネルの背中を、
が目一杯引っ叩いた。

思わず飛び上がるセネルに、は腰に手を当てる。

努めて、明るい声を出した。


「怯えてる子相手に憤って話したら逆効果でしょうが!
 落ち着いて話なさい!落ち着いて!!」


「な、何も叩く事はないだろ!!?」


軽く涙目のセネル。

あれ?そんなに痛かった?と

けれども、
セネルは気を取り直したようにフェニモールに向き直った。


「でも・・・そうだな・・・。」


セネルはゆっくりとフェニモールに近づき、
再び貝殻を翳す。


2人の貝殻が、強く引き合うように耀いた。


「それ、シャーリィが持っていた貝殻だよな?」


先ほどとは違う、語り掛けるような優しい声音だった。

未だ僅かに怯えているものの、フェニモールはゆっくりと頷く。


「シャーリィは、どこへ行った?」


「・・・・・。」


「頼む、教えてくれ。」


「・・・あの子・・・自分が囮になるって言って
 一人で飛び出して行ったわ。」


「!!」


くそ・・・


手を握り締める。


自分は、あの場にいたのに・・・


あの場で、メラニィとスティングルを足止めできていれば・・・

もっと自分に、力があれば・・・



「いつ?」


クロエが問う。


フェニモールは、ちょっと前・・・と、泣きそうに答えた。


「急げばまだ間に合うはずだ。
 クーリッジ、行こう!」


クロエが促せば、セネルは頷いて。


は、意を決したように口を開いた。


「ちょっと待って。」

「どうかしたか?。」

「・・・モーゼス、ちょっとお願い。」

「あァ?」


やっぱりまだいるし、ムカつくしムカつくしムカつくけど
でも、このままにはしておけない。


これ以上、何も出来ないなんて・・・


「ワルター・・・あそこに倒れてる男の人、
 ギートに乗せてあげてくれない?」

「ちょ、ちょっと、何考えてんの!?
 コイツ、前にリッちゃん攫ってんだよ!?」


「それでも、私の事助けてくれたよ!
 それにこの傷・・・放っておけないじゃん!」


「そりゃそうだけど・・・」


「・・・ワルターは私の事助けてくれたのに・・・
 逆の立場になったら見殺しなんて、出来ない。」


それでも納得していない様子のノーマ。

毅然と返すは、セネルに向き直り「お願い!」と頼み込む。

セネルは暫く考え込んだようだったが、
そっと微笑んで、の方を叩いて見せた。


「・・・助けよう。俺たちがこいつを助ける事を、
 シャーリィはきっと望んでいるはずだ。」


「だから少女に貝殻を託して、
 オレたちを此処へ導いたと?」


ウィルが尋ねると、セネルは頷いた。

その答えに「ありがとう」と微笑んで。

は、モーゼスに向き直ると、頭を下げた。


「・・・モーゼス、お願い。」


「ケッ。何でワイがそがあなことせにゃいけんのじゃ。」



けれども、モーゼスはつっけんどんに答えるだけで。


「ワレらは勝手に盛り上がっとりゃええ。
 ワイにゃ関係なあで。」


「ひとでなし!」


「さいってえ!」


「「この、バカ山賊!!」」


「ハモんな!!」


クロエとノーマの二重奏。


モーゼスが怒鳴る。


も、なんか言ってやんなよ!!
 人が頭まで下げて頼んでんのに・・・・」


ノーマが、を振り返る。

けれども、その場には居なくなってて、
アレ?とか思えば、


「いよ・・・っと」


は、どうにか男の大きな体を、担ごうとしている所だった。


「ちょ、ちょっと!?」


「何をやってるんだ、!」


「・・・担いでく。」


「本気か、!?」


「だって仕方ないじゃん。
 ホラ、ボーっと見てないで手伝ってよ男連中。」


流石に意識を失っている男の体はとてつもなく重い。

どうにか立ち上がったけれども一歩と動く事はできなさそうだ。

言うと、セネルがいち早く、
とは反対側の男の下に回りこんで、支えてくれた。


多少は、楽になる。


そうすれば、次に目に入る彼の傷の深さに顔を顰めて
せめて今は痛みだけでも、と、ファーストエイドをかけた。


「お前も、俺たちと一緒に来い。」


セネルが、フェニモールを振り返る。


「え・・・?」


唐突に話題を振られたフェニモールは驚いて、
一歩、後ずさった。


どうして・・・・フェニモールは呟くように尋ねる。


「待たんか。
 何でワレらはそこまでするんじゃ!」



モーゼスが、理解できないとでも言うように口を挟んだ。


「娘っ子の希望がワレらの想像通りだとして、
 ワレらがそこまでする理由があるんか?」


「そりゃ、最愛の妹の願いとあっちゃね〜」


「妹ォ!?」


「あ、私じゃないよ、こっちこっち。」


ノーマの答えに驚いたようにモーゼスがとセネルを見るから、
は慌てて違う違うと手を振った。



「シャーリィはセネルの妹だぞ。
 まさか、今まで知らなかったのか?」



ウィルが言うと、モーゼスは不自然に視線を逸らす。


「あー・・・なんつーか・・・」


「知らなかったぽいよ。」


「デスネ」


今まで知らないで色々引っ掻き回してたんですか。マジですか。


呆れた様にモーゼスを見ると、ウっと言葉に詰まって、
その後、考え込むように俯いた。


「妹の頼みか・・・。
 そりゃ、無下にはできんの。」



そんな呟きが、彼から聞こえる。

・・・と、モーゼスはのほうを見やった。


「ワレはどうなんじゃ。」


「んあ?私?」


「あの娘っ子は、ワレとは何ら関係ないんじゃろ。」


「あー・・・んー・・・
 一回話はしてるから、何ら関係ないって訳じゃないけど・・・」


困ったように頭を掻く。


このまま放っておいても、ワルターはセネルが助けてくれるんだけど
其れは其れとして知っている話と言うだけで、

多分、そういうのとは関係が無くて―・・・


「シャーリィの希望とか、そんなんじゃなくてさ。
 単に私が、この人たち助けたいって思うだけで。」


これは、単に自分の意思だ。

理由は分からないけれど、ワルターは自分を助けた。

だから、その恩を返したいと・・・


それに。


「あー、だってホラ、モーゼスだって言ってたじゃんよ」


「は?」


「『あの状況で放っておいて死なれたら、寝覚めが悪い』って。
 人助けんのなんかさ、そんな位の理由で事足りるんじゃないの?」


あの時のモーゼスと同じだよ。


言って困った様に笑ったら、モーゼスは一瞬目を見開いて、
すぐに、その瞳を閉じた。


「ギート、背中、貸しちゃれ。」


ギートが一つ、吠えた。


「!モーゼス、良いのか?」


「フン。今回だけ、特別じゃ。」


そう、モーゼス。


「モーゼス!!!」


「な、なんじゃい嬢」


大声で呼んだら、またビビるモーゼス。

は、男をセネルに預けて、モーゼスの手を取った。


「・・・・ありがと」


「お、おう。」



ホッと息をついたら、そのまま膝が崩れて座り込んでしまって、
本当にありがとう、と、その気持ちだけ伝わったら良い。


その後、男はギートの背中に乗せられて、
一向は再び出口に向かって歩みを進めた