「待て待て待てえ〜〜〜い!!」 目の前に見えた金髪の少女を連れる赤い兵たち。 皆が武器を構え、ノーマが叫ぶと、メラニィは煩わしそうに振り返った。 「まだ生きてたのか? つくづくしぶとい奴等だね。」 「シャーリィ、今助けてやる!」 言うけれども、シャーリィはメラニィに引きずられて、一足先に 外へと連れて行かれる。 シャーリィがセネルを呼ぶ声が、遺跡内に反響した。 それに続いて、他の赤い兵たちが撤退し、 慌ててその後を追おうとする。 ・・・が、ドシン!と言う地響きと共に巨大な・・・ 「亀?ねえ、アレは亀?」 驚いてひっくり返ったノーマに聞く。 「あ、あたしに聞くなああぁぁ!!」 怒られた。 「コイツの頑丈さは半端じゃない! メラニィめ、厄介な置き土産を!」 博物学者のウィルが言うのだからよっぽどなんだろう。 は目の前の亀を見据える。 クロエは、太刀打ちできるのか?と問うが やらなければどうしようもない。 皆が緊張感を張り詰めた時、 「ヒョオオォォォ!!」 背後から、野生的な声が聞こえた。 同時に飛んできた槍が、亀に突き刺さる。 「ワレら、何ビビっとんじゃ!! 相手がどがあな奴じゃろうが、引くわけにゃいかんじゃろ!」 「その通りだ。」 「モーゼスに言われるってのが癪だけどね?」 が笑うと、何じゃと!?とモーゼスが怒鳴ったが 「後は、俺たちに任せろ!!」 セネルがそう一声かけて、 皆は、改めて目の前の亀を見据えた。 |
届かぬ手6 |
亀・・・ことジョウサイガメを打ち倒し、 一向はシャーリィを追いかける。 一人、はそっと、ジェミニシェルに触れた。 ジェイに伝わるように、そっと3回、光らせる。 作戦は・・・失敗。 セネルたちはきっとまだ助けるつもりでいるのだろうけれども 此処まできたら流石にどうにもしようが無くなって来る。 もちろん、助け出せるのなら助け出すが それでも、連絡係をジェイから言い渡された以上 そろそろと、今後を見てみなければならない。 現段階ではシャーリィを救えていない。 せめてそれだけでも知らせようと、シェルを光らせた。 外へと飛び出してみても、やはりシャーリィの姿はもう見えず、 とりあえず、作戦開始時に皆で集まった崖の上に立って辺りを見渡す。 「シャーリィは、どこへ連れて行かれたんだろう。」 クロエが呟いた。 「フェニモール、フェニモール、ちょいちょい」 「え?」 そんな様子を見ながら、はフェニモールを呼んで、 振り返った彼女にブレスを掛けた。 「あ・・・?」 「遅くなってゴメンね、痛かったでしょ」 遺跡内に入ってすぐに、何処か落ち着ける場所があったら 傷の手当を、と言っていたのに、すっかりと忘れていた。 今更だけれども約束には変わりなく、 はフェニモールの傷を癒す。 フェニモールは、自分の手の平を見つめて、何事か考えていた。 それから、本当に小さく「ありがとう」と呟くと、 意を決したようにセネルに近づく。 はソレを見送って、少し微笑むと 今度はノーマたちに近づいた。 「大丈夫?ノーマ」 「・・・もう全っ然。 傷が塞がらなくて・・・」 ワルターの傷を癒していたノーマは そう言って首を横に振り、溜息をつく。 先ほど掛けたファーストエイドでは、本当に応急処置もいい所だ。 少し痛みが引いたくらいの物だっただろう。 「少し、変わろうか。」 「へ?」 言うと、はノーマと位置を変わって、 ゆっくりと、ワルターに手を翳す。 「・・・・キュア」 呟くように言うと、一層強い光が、ワルターを包んだ。 「あー・・ねえねえ、前からずっと気になってたんだけどさ。」 「ん?」 ワルターの傷が塞がるのを確認すると、 ノーマがその様子を見ながら、何の気なしに言う。 「のブレスってあたし等のとはちょっと違うよね」 「へ?」 どういう事? 少し上ずった声で尋ねる。 ノーマはう〜・・ん・・と頬に人差し指を添えた。 「何つ〜かさ、ブレスには変わりないんだけど・・・ 少なくともあたし等のよりもっと強力で・・・ あー、何て言うんだろ、体に馴染みやすいって言うのかな」 「・・・何?ソレ」 「いや。あたしにもよくわかんないけど。」 そう思ったんだよね〜とノーマが軽く言った。 彼女自身はあくまでも軽いが、にとっては 結構重大発表だ。 何でだろう、今までずっと、皆と同じだと思っていたのに・・・ その時、下で呻く声が聞こえた。 ハッとして見れば、ワルターが薄っすらと目を開く。 「女・・・・」 「だってば・・・傷、大丈夫?」 戸惑うように、問いかける。 しかし、どうもまだ意識が霞んでいるらしい。 ぼんやりした瞳で、自分を見ていた。 そんな少し無防備な様子に不思議な気持ちになるが、 ワルターの次の言葉に、そんな余裕も無く目を見開いた。 「・・・?」 「・・・・え?」 ・・・・? 今、そう言ったか・・・・? 何で、どうして彼が、その名を・・・・ 『お前によく似た奴を、知っている。』 意識が飛ぶ直前、ワルターが言っていた言葉が頭を過ぎった。 しかし、そこでワルターがハッとしたように目を見開き、 唐突に立ち上がる。 「うわあ!!?」 余りに急激だったから、ノーマがひっくり返る。 その叫びにセネル達が振り返るが、 ワルターはいち早くテルクェスで飛び上がり、 驚くフェニモールにも、自らのテルクェスで自分の隣へと付けた。 「だ〜も〜! 回復してやったんだから、お礼くらい言いなさいよ!!」 「ま、待って!! なんで、の事・・・!!?」 さっさとフェニモールを連れて飛び去ろうとするワルターに が叫ぶ。 ワルターは、に一瞥をくれたが、 結局は何も言わずにそのまま飛び去ってしまった。 思わず座り込み、そっと、ポケットの中を探る。 硬い、壊れた眼鏡の感触が、手に伝わった。 「、どうしたんだ?顔色が悪いぞ。」 ウィルがそう言って、覗きこんで来る。 は懸命に、首を横に振った。 「なん・・・でもない・・・ 何でもない・・・大丈夫・・・・。」 、本当に、此処にいるんだろうか。 この、世界に・・・? 「セネルさん!!」 一同5人が集まって集まっていると 聞きなれた声が走ってくる。 「キュッポ君!」 「さん、お怪我はないキュ!?」 「大丈夫、掠り傷だよ。 ・・・それより・・・」 「キュっちん! リッちゃんどこ行ったか知んない?」 後を引き継いで、ノーマ。 キュッポは、そのモフモフの手で指差して、言った。 「あっちの方ダキュ! ジェイの話だと、雪華の遺跡に向かったらしいキュ!」 キュッポの言葉に、僅かにホッとする。 良かった、何とか、連絡も間に合った。 「ヴァーツラフの本隊のいる所だな。 ここからだと、4時の方向になる。」 「ワイも一緒に行く。」 ウィルが、顎に手をあて考え込んだ様子を見せると 先ほどからは姿の見えなかったはずの人の声。 モーゼスは、今まで何処にいたのやら 此方に歩み寄ってきた。 「一緒に行くとは、どういう風の吹き回しだ?」 「ヴァーツラフのやり方が気に入らんのじゃ。 じゃからぶっ潰す。そんだけじゃ。」 「あはは・・・随分とシンプルな理由だなぁ」 が笑う。 モーゼスは、一度こちらに向けてニっと微笑むと セネルへと歩み寄った。 ・・・さっきまでの警戒の瞳が、再び解かれている・・。 「ワレとも色々あったが、一時休戦にしといちゃる。 同じ目的を持つ物同士、手を組むとしようかの!」 そう言うと、モーゼスはセネルに手を差し出して・・ 「おお、男同士の熱くて濃ゆい友情が、今・・・?」 ―― ドゴス!! 鉄拳。 「「・・・成立しなかったと。」」 ははっと笑って、思わず声を合わせてみたり。 「何すんじゃワレ!!」 「やかましい!何綺麗にまとめてんだ!! 元はと言えば、お前がシャーリィを攫うのが悪いんだ!」 「そん位水に流さんかい! ここは黙って握手の場面じゃろ!!」 「流せるか!!」 「ウヒーーーー!!」 すっかりやられ役に徹しているモーゼスに が思わず声を上げて笑うと、「助けんかぃ!」とモーゼス。 ノーマと声を合わせて 「嫌なこった!」と返してやった。 「クーリッジ!」 一通りモーゼスをボコった頃に、 クロエがセネルに呼びかける。 何だ?と振り返るセネルに 「毛細水道の中では・・・世話に・・・」 そう、言いかけて 「おんやぁ?雪解けですか〜?」 「そういう訳じゃ・・・」 「いーじゃんいーじゃん。仲良く行こうよ」 言いつくろうクロエの背をポンと叩いた。 顔が僅かに赤くて、ああもう可愛いなぁクロエはとか。 「ヨオォシ!行っちゃるかあ!!」 「復活早!?」 ビックリだよちょっと。 やる気満々に起き上がったモーゼスに、軽くビビってみたり。 「モーすけ、あくまでついて来る気なんだね・・・」 「ジェイが嫌がるだろうなぁ」 言って、ははっと乾いた笑いを浮かべた。 |