白いエリカの彩る夜に
運命の再会1








岩壁からそっと様子を覗きこむ。

赤い兵が、数人。


雪花の遺跡の前に、張っていた。


「うわ〜、いるいる。」


ノーマがうわぁと呟くのが聞こえた。
ウィルが、やはり警備が厳重だな、と苦渋の表情をする。


「強引に突っ込むわけには行かないか・・」

「流石に敵の本拠地だし、マズイでしょ。」


流石にヤバイと思うよ、とが言うと、
ノーマが、なんの!!と声を張る。


「これ位でくじけちゃダメよ!」

「その通りじゃ!」

「どんな困難があろうと、前進あるのみ!」

「まったくじゃ!」

「行きなさい、モーすけ!」

「ワイだけかい!?」

「おーいコラーもう少しトーン落とさないと
 見つかるわよー」


ノーマとモーゼスのやり取りに笑いながらも
とりあえず注意だけはしておく。


「どうしてバカ山賊が、皆さんと一緒にいるんです?」


その時、なんだか懐かしい声がした。

振り返る。

別れてからの時間はさして経っていないはずだが、
それでも、不健康そうな白い肌とか、艶やかな黒髪とか、
イロイロな物が懐かしい。


「ジェイ!!」

さん。ご無事みたいですね」

「あはは、一応ね。
 ・・・・作戦は、失敗しちゃったけど。」

「の、ようですね。
 まあ今は、連絡を忘れなかった事だけ
 褒めておきますよ。」

「ムカッどっかの山賊じゃあるまいし!」

「ワイの事か!!」


流石に素直に『懐かしい』とは受取りかねて言えば、
モーゼスから盛大なツッコミを頂いた。

周りから、『しーっ』と窘められる。


「それよりジェイ、何とかして
 中に潜入する手は無いか?」


「ない事もありませんけど。」


「マジ!?」


ウィルの問いかけに、大した事でも無さそうに
ジェイが答えた。

「皆さんが毛細水道で失敗したら
 次はその話になると予測してましたし。」


ジェイは、腕を組んで皆を見据える。

普段よりもワントーン落とした声。


「皆さんは、僕の情報にどれだけ払う覚悟がおありですか?」


「・・・所持金全部で、どうだ?」


セネルの答えに、ジェイはカラカラと笑って肩を竦める。


「全部と言ったって、どうせ大した額じゃないでしょう?」


確かに、前ジェイが言っていた。
情報料は、内容に比例して適当だと。


外部、内部共に結界の張られた遺跡の情報。


・・・内容に比例するなら、どれだけの金額になるのだろう。


ノーマが横で「その言い方すっげ〜ムカつく!」と
手をバタバタさせるのを、が苦笑して止めた。


「今回の場合、料金は固定額です。
 だから、はっきり言ってしまいましょう。」



そして、一度、深く息を吸って
再び、真っ直ぐに皆を見据えた。


「皆さんの命を掛けてください。
 それが、情報の対価です。」


その言葉に、5人は顔を見合わせた。


拍子抜け、とでも言うように。

一体、どれだけの金額を吹っかけられると思っていたのだろう。

最初に口を開いたのは、ウィルだった。


「それだけでいいのか?」

「それだけって、命ですよ。
 命より高いものなんて、無いと思いますけど。」


そう言ったジェイは、信じられない、と言った風だった。

当たり前だ。

ジェイはきっと、人の命の重さを誰よりも分かっている。

その手を染めてきた分、誰よりも・・・


「もとより私たちは、
 何をするにも命懸けなのだから。」


「では、契約成立と言うことで?」


ジェイの言葉に、皆が一様に力強く頷いた。


「いいでしょう。
 それじゃ、地図を見ながらご説明します。」



そう言って地図を取り出し、地面に広げ、
皆が地図を覗き込みながら、ジェイの言葉に耳を傾ける。


まずは現在地、雪花の遺跡をジェイは指し示し、
この遺跡に、地上以外に潜入経路がある事、そして、
その経路は、少し此処から離れている事を告げた。


「ここです。」


次に示したポイントは、現在地よりも大きく西へと進んだ位置だった。


「ここにある巨大風穴と呼ばれる遺跡の一番奥に
 潜入経路があります。」


それから、地図を畳みニッコリと微笑んで続ける。


「実は、皆さんの事だから、きっと情報を買ってくださると思いまして
 ポッポを現地に行かせてあるんですよ。」


「感謝する。
 みんな、巨大風穴へ向かうとしよう。」


ウィルの言葉に、皆が頷いた。

ジェイはニコニコと、巨大風穴は此処から9時の方向だと教えてくれる。


・・・笑顔が、あからさまに胡散臭い。


「ちょっとジェイ、何か企んでる?」


腕で突っついてジェイに問う。


「嫌ですね、僕がそんな事するワケないじゃないですか」


絶っ対、何か企んでる、この人。



「ああそれと、皆さんには引き続き、さんをお願いします」


「・・・・えええ!?な、なんで!!」


言われて、暫く意味を理解するのに時間が掛かった。

お願いしますって、
やっぱりこれからもセネルについて行くのか?


「引き続き、連絡係をお願いしますよ。
 ・・・それと、」


声のトーンを落として、にだけ聞こえるように囁く。


「メルネスに関しての情報を得られるようでしたら
 随時メモを取るなりして、漏らさず覚えておいて下さいね」


「・・・・完璧、私助手扱いなわけね・・・」



諦めたように「了解」と手を上げて答えた。


「ちょお待てえ。
 なーんでワレが嬢をよろしくしちょるんじゃ。」


「・・・あ、そっか。
 モーすけ、知らないんだっけ。」


「あン?何がじゃ。」


「ジェイは私の師匠兼雇い主なんだよ。
 私、ジェイの弟子でジェイの家政婦なの。」



モーゼスは、極限まで目を見開く。

どしたんだ、そんなに驚いて?と首を傾げて見せたら


「嬢ちゃん、料理出来たんか!!」

「とりあえずお前一度逝ってしまえ!!」


そしてもう戻ってくるな!!



モーゼスの腹に思いっきり蹴りをくれてやった。


「・・・・あー・・・もう。
 うん、とりあえず、アレだ。
 改めて、よろしくね、みんな。」


頭を掻いて、少し困ったように言ったら
「今更だな」と、少し笑われてしまった。


そんな様子に、あはは・・と笑みを漏らして。


ようやく此処から、大きな歯車が回りだす。