運命の再会7 |
ムカつくにはムカつくが これで脱出経路が確保できたという事で 一同とりあえず納得する事にして。 納得行かないけれども、仕方ない。 一同は、雪花の遺跡内を進んでいる。 「だ〜も〜!なんでお宝が目の前にあんのに 真っ直ぐ行けないのよお!!」 とかいうノーマの言葉は最もで、 透明な膜にさえぎられた道が行く手を阻む、面倒な場所だった。 「けど、がスイッチの場所を知っててくれたお陰で 少しは楽に進めた。ジェイから聞いていたのか?」 「え?あ、う、うんまあ。」 すみませんゲームで知ってましたとは流石に言えない自分です。 クロエのまっすぐな眼差しが今は痛いよ・・・ けれども、道中ギガントに行く手を阻まれ やれ攻撃だ、回復だと多少忙しくはあったが 「何じゃこりゃあ?」 モーゼスが素っ頓狂な声を上げる。 だが、それはこの場にいた全員の心の代弁でもあった。 「まるで、白くてでっかいのを、 赤い蔦が縛り付けてるみたい。」 ノーマの表現は、ある意味的確だった。 目の前に聳える、赤い装置。 今まで見てきた遺跡船独特の赤と同じなのに 何故か、こんなにも毒々しく見える。 中央の透明な部分からは、絶えず黄金の光が漏れていた。 時折途切れる黄金の光の中、何か影が見えるが 其れが何であるかまでは特定できない。 けれども、は知っていた。 この中にいる人物の事を。 その、悲惨さを・・・ 「中心で光っているのは何だ? 水が入っているようだが・・・。」 その言葉に、セネルが装置に近づき光の中心を覗き込み 途端、彼の瞳が最大限まで開かれた。 サァっと、血の気が引く様を、は垣間見る。 「ウソだろ・・・」 その言葉に皆が顔を見合わせる中、 は一人、苦渋の表情で目を逸らした。 「ウソに・・・決まってるよな・・・」 ―― ガン!! 硬質な音が響き、肩を震わせた。 セネルの叫びが一つ、場違いなほど静かな空間に広がり反響する。 「ウソだろおい!! こんなこと・・・!こんなことあって、たまるかよ!!!」 ―― ガン!ガン!! 幾度と、幾度と、打ち付けられる手に、モーゼスとウィルが取り押さえて宥めるが セネルは「退け!!」と一つ怒鳴りつけると、2人の体を、思い切り突き飛ばす。 ノーマとクロエが驚きの声を上げるが、 セネルにはまったく聞こえていない。 「待ってろ、今ここから出してやるから」と、 しきりに語りかけては、装置を打ち付ける。 けれども、巨大な装置は一人の人間の力など物ともせずに ただ嘲るように、硬質な音だけを響かせていた。 「何をする!」 ウィルとモーゼスが立ち上がり、セネルを装置から引き剥がす。 「セの字!ワレ、ちと可笑しいぞ!!」 「離せよ!あの中には!あの中にはなあっ!!」 「一体、何だってのよ・・・」 取り乱し続けるセネルに呆れた様にノーマが覗き込み 「何これ!?」と驚きの声を上げ、続いて覗き込んだクロエが、息を呑んだ。 球体の中の光が、フっと途絶え、また燈る。 一瞬だが、姿を捉えた。 長い金の髪が、水の中でユラユラと 何か美しい黄金の布の様に濡れている。 ただ静かに閉じられた瞳。 けれどもその顔立ちに、よく似た姿を髣髴とさせる。 「シャーリィ!? いや、違う。これは・・・・」 「ステラ・テルメス・・・」 「っ!?・・・?何故、その名を・・・」 今まで黙っていたが、静かにその口を開いた。 セネルの顔色が変わる。 驚愕に満ちたその視線を受止めながら、は泣きそうに言った。 「セネル、落ち着いてよ・・・」 セネルの息を呑む音が聞こえた。 「ステラ?」 誰のものとも知れない、もしかしたら全員のものだったのかもしれない声が 部屋全体に静かに響き渡る。 セネルは、唇が切れるほどに噛みしめると、 再びウィル達の体を振り払い装置に駆け寄った。 けれども、先ほどの様に取り乱し、装置を打ち付けることは無い。 「ステラ・・・。 誰がこんな事を・・・?」 「私だ。」 思いがけず、返ってきた答え。 忌々しい低い声と共に。 セネルの体がピタリと固まる。 ゆっくりと振り返ったその顔には怒りに表情が消え、 いっそ仮面でも被っているかのような顔色だった。 「ヴァーツラフ・・!お前が・・・!!」 唐突に現れた敵の大将にピリっと空気が張り詰め、確認するが早いか、 は鉄扇を取り出すと、バサリと空を切ってその漆黒の刃を露にする。 「娘が目覚めていれば、 再会の感激もひとしおだったろうが・・・残念だったな。」 「ステラに何をした!!」 「何も?娘は3年の間、ずっとその状態だ。」 生きてはいるが目覚める事も無く、ただじっと、 この球体に囚われたままだと、男は何の事も無く告げた。 3年・・・ 自分が中学に入って、馬鹿な生活を送っていた間、 彼女はずっと、じっと、一人、こんな中で・・・ 「ウソだ・・・ ステラは3年前のあの時・・・」 「死んではいなかったのだ。 確かにその娘は、貴様と妹を逃がすべく、命懸けで軍の前に立ち塞がった。 だが、死にはしなかった!生きたまま、我が軍の手に落ちたのだ!!」 その言葉。 セネルが愕然と膝を付き、歯の根が合わないのかガチガチ歯を鳴らして、 極限まで見開いた目で、球体の中の少女を捕らえると、ただ、声の限りに叫んだ。 それから、呆然としたように 「生きていた、死んでいなかったと」繰り返し、繰り返し・・・ ヴァーツラフの笑い声。 セネルのその様子を楽しむかのように、ただ空間を響かせる。 「セネセネ、ちょっと・・・ 何がどうしたってのよ。あたし、全然わかんないよ!!」 困惑したような表情だったのは、ノーマだけではない。 見れば、全員が全員、困惑しきった表情で 2人のやり取りを見つめていた。 そんな全員に教えてやるよう、ヴァーツラフが笑いを止め口を開く。 「そこにいるのは、メルネスの娘の、姉だ。」 一同が、目を見開いた。 「シャーリィの姉・・・だって・・・?」 どういう事だ、と、クロエが、ウィルが、目で、 目の前に立つ男に問う。 けれども、ヴァーツラフの顔から、スっと表情が消え、 セネルにゆっくりと近づく。 「・・話は終わりだ。 此処まで辿り着いた貴様等の蛮勇、認めてやろう。」 私が手ずから、相手をしてやる。 そう言ってヴァーツラフが、冷酷な笑みで悠然と言い放った。 「ケッ上等じゃ! こがあ早う決着を付けられるたあ、願ってもないわ!」 モーゼスはいきり立ち言う。 セネルが、ゆっくりと立ち上がった。 「お前が・・・」 呟いたセネルの声に冷ややかな怒り感じて、 スっと、背筋に冷たい汗が落ちるのを感じる。 「お前の様な奴がいるから、ステラは・・・!」 その憎しみの目すらも物ともせずにヴァーツラフは笑い、 「ウオオオオォォォオオォオォ!!!」 そう、セネルが叫んでヴァーツラフに殴りかかる。 皆も、其れを追うように武器を構え、ブレスを唱え―・・・ ・・・一瞬、何が起きたのかわからなかった。 本当に、一瞬の出来事で、理解をする暇も何も無い。 ただ、目の前で何か、紅い火が爆ぜた。 そう思った時には、体は地面にピッタリとくっついて 体は痛みのせいで、指一本と動かなくなっていた。 意識だけが、ハッキリとしていたが、 耳は、一瞬の音無き音にやられたのか、耳元でゴウゴウと音がするだけで 余りよく聞き取れなくなっていた。 シャーリィの声が、聞こえた気がする。 「お兄ちゃん」と、その単語が、何となく予測が付いただけだ。 「メルネスの娘よ。 貴様が兄と慕うこの男、助けたくば封印を解け。」 耳ではなくてどこか意識の遠いところで 体が声を聞いていた。 ―― ダメだ・・・ 其れだけは、絶対に解いちゃダメだ。 自分たちの為に、一人の男の為に、 一体どれだけの命を枯らすつもりなんだ、貴女は。 「さもなくば、コイツの命は無い!!」 追い討ちを掛けるようにヴァーツラフは言い、 足元に這い蹲るセネルの頭を踏みつけた。 呻く声が聞こえる。 何か、何かしなくては・・ こんなに意識もハッキリしているのに 何で体がこんなにも動かないんだ。 どうして声の一つも出ないんだ。 「どうする娘よ。 全ては貴様の気持ち一つだ。」 「そんな・・・!」 そうしている間に、セネルの体が踏みつけられ、踏みつけられ、 血が、地面に広がる。 床に描かれる繊細な模様の間を、小さな紅い川が、幾重にも、幾重にも・・ 「フッ。兄だ妹だ言っても、所詮は血の繋がらぬ間柄。 助ける義理など無いか・・・?」 その言葉に、皆の息を呑む気配を感じた。 ああそうか、皆は知らないんだ。 セネルとシャーリィが本当の兄弟じゃない事を。 ・・・・知らないんだ・・・。 「今・・なんて・・・」 「血の、繋がらぬ・・・?」 「誰と誰の血が、繋がっちょらんじゃと?」 「セネル・・お前は・・・」 口々に言う驚愕と疑問の言葉に 寧ろヴァーツラフの方が驚いたように言う。 嘲るような口調も、そのままに 「貴様等、何も知らなかったのか? メルネスの娘に、兄などおらぬ。 肉親と呼べるのは目の前の、眠り続けている姉だけだ。」 「くっ・・・!」 言うヴァーツラフに、セネルがどうにか、 せめて一度だけでもコイツに一発くれられればともがくが 其れは叶わず、むしろヴァーツラフに蹴り飛ばされた。 「止めてください!!」 その様子に見かねたシャーリィは、意を決したように 真っ直ぐ、目の前の紅い鎧の男を見据えた。 「わかりました・・・やります。」 「・・・聞こえんぞ。」 「封印を解けるか、やってみます! だからどうか、お兄ちゃんの命は!!」 「ば・・・か・・・・」 何て事を・・・。 何て惨い決断を。 けれども、其れを責める事なんて出来ない。 今の自分は、余りに無様だ。 |