動乱の大地2 |
外に出て初めて、もう日が真上に昇る時刻なのだと気付く。 その陽の元に、一人の水の民が倒れている。 酷い傷だ。 特に、彼が抑えている肩口からは、大量の血があふれている。 囲うようにして、ワルターとフェニモール、 それに先ほどの水の民が座り込み、ブレスを掛ける。 「何があったのだ?」 「例の場所に巣食っていた魔物に、やられました。」 そう言うと、初めて、マウリッツの顔が苦々しいものに変わった。 「『ささやきの水晶』の入手に失敗したか。 これは・・・予定が狂ったな。」 「大事な物だったのか?」 その表情を見て取ってウィルが言うと、 今回の勝利の鍵を握っているといっても過言ではないと、 マウリッツは顔を顰めて言う。 すると、ノーマは何事かひらめいたように 唐突にすっと手を伸ばし挙手して、言った。 「は〜い、はいはい!! だったらあたし等が、その何とかの水晶、取ってきま〜す!」 諸君等が?と、マウリッツが驚き、ウィルもまた、目を見開く。 ノーマが懇願するように胸の前で手を組んだ。 「だから取ってきたら、同盟軍に加えてください!」 そういう事か・・・ウィルの顔が厳しいものへと変わった。 それとこれとは話が別だ。とノーマを窘めるが、しかしマウリッツは そうしてもらえると助かる、と、首を振り答えた。 信じられない、と言う風な様子で見やるウィルに マウリッツは静かに説明を加える。 「本当は我々が何とかすべきなのだが、 今は動ける者の数が不足しているのだ。」 「き〜まりっ!」 ノーマが嬉々として言った。 今回はノーマの勝ち、お手柄だ。 「それじゃみんな、早速出発よ!」 そう意気込んでノーマがグーを高々と振り上げると 「どこへ?」とクロエ。 ややあって 「どこへ?」 ノーマがマウリッツに尋ねた。 モーゼスに呆れた様に「慌てすぎじゃ」とか言われて 「なんだとう〜!?」と、ノーマ。 そんな様子に笑いながらもは、ワルターたちの囲む、水の民の男を見た。 先ほどからブレスを掛けて貰っているが、イマイチ効かないらしい は歩み寄り、フェニモールの後ろに腰を降ろした。 「代わりましょうか?」 「え?」 「私のブレスだったら、効くかもしれない。」 さっきは、出来なかった。 TP切れかと思ったけれども、あれから時間も少し経ってるし。 大丈夫。出来る。 左手は動かないけれども、右手を差し出し、 目の前の男に向けた。 ゆっくりと、目を閉じる。 ノーマが人食い遺跡がどうのこうのと言うのが聞こえた。 そんな喧騒を聞き流しながら、指先に、ポウッと暖かい光が灯るのを感じる。 「キュア」 指先の光が男に移る様にして灯り、男を包むと 傷は一瞬にして消えていった。 ほう、と言う声が聞こえて、驚いて頭上を見る。 マウリッツが此方を見ながら、感嘆の声を上げていた。 「ウィル君の言うとおりだな。 確かに、君のブレスは強力なようだ。」 「あ、やっぱそ〜なんだ」 ノーマが同意したように言い、マウリッツが頷く。 気付くと、なんかみんなの視線を一点に受けていて 急に気恥ずかしくなって思わず俯いた。 あー・・顔が熱い。 「そのブレスは、どちらかと言うと 我々に近いものがあるかもしれない。」 「え?」 どういうことですか? が尋ねる。 しかしマウリッツは首を横に振るのみだった。 「それよりも、彼らが人食い遺跡に向かう間 君には別の仕事を頼みたい。」 「別の仕事、ですか?」 「そうだ。君のその体では セネル君達に着いて行くのは無理があるだろう?」 「はあ・・・」 確かに。 ブレスももう掛けられそうだし、回復は出来るだろうが それにしても、この左腕の傷までは上手く消せそうにはない。 これでは、足手まといが関の山だ。 「・・・わかりました。」 「よし、それなら、俺たちは早速 その人食い遺跡に向かうとしよう!」 「ああ。」 の答えを聞くと、セネルが皆に促してクロエが頷く。 ノーマがあ、あたしはちょっと・・と引け腰なのを 「今更後に引けるか」とセネルが言いまるで猫でもそうするかのように 首根っこを捕まえた。 あはは・・・とが困ったように笑い。 「・・・何?」 「あー・・いや・・・」 フと、ノーマの視線に気付いて首を傾げた。 ノーマはうーん・・と首を捻るとやがて 「当たり前なんだけどさ・・・」と、口を開いた。 「にも、やっぱりちゃんと、友達がいんだなぁと思って。」 「は?」 どういう意味? 首を傾げたのだが、 「ほら、行くぞ。」とノーマはセネルに拉致されてしまった。 あああああせめて答えくらい聞かせていきなさい人でなしお兄ちゃん。 「な、なんなの?一体・・・」 呆然と立ち尽くしたが呟いて。 まあいいや、と頭を掻く。 それから気付いた様に、この場に残っているウィルを振り返った。 向こうの方からは 「勘弁してえ〜!!人食い遺跡だけはあ〜〜!!!」とノーマの叫び声。 だんだんフェードアウトする。 「ウィルさんは行かなくて良いんですか?」 「俺にはレクサリアに書状を届けると言う仕事がある。」 「とかなんとか言って、心配なくせに。」 「それとこれとはだな・・・」 ウィルが腕を組んで溜息をつく。 が笑うと、ウィルが面食らったような顔をした。 「行って来たらどうですか? ノーマのブレスは時折信用ならないんでしょ?」 「それは・・そうだが・・・・・」 「みんなもきっと、ウィルさんがいた方が安心だと思いますし。 書状が出来てるなら、私が届けてきますよ。 ・・・・ミュゼットさんで、良いんですよね・・・?」 「!何故それを・・・・っ」 ウィルが驚いたように目を剥く。 当たり前だろう。 今まで、彼女の正体については、誰にも知られていないのだから・・・ しばらく、ウィルは信じ難そうにを見つめていたが やがてハッとして、落ち着かせる為の息をつくと 位置がずれた眼鏡を持ち直した。 「本当に・・・お前には、驚かされる・・・・」 一体お前は、何処まで知っているのだろうな? ウィルが言ってを見やるが、は笑んでいるだけだった。 「・・・わかった。では書状は、、お前に任せよう。 大事な書類だ、乱暴にはするなよ」 「了解しました!」 ウィルが差し出した書状を受取ると、は敬礼して見せて、 ウィルは一つ頷くと、急いでその場を駆け出した。 ・・・やっぱり、着いて行きたかったんじゃないか、皆に 思わず一つ笑って。 「あっ、すみませんマウリッツさん!何かお仕事があったんですよね!? なんか勝手にウィルさんの仕事とか請けちゃったんですけど・・・」 ハッとした様に言う。 そうだそうだ、彼からも何か仕事があるような事を言われていたのだった。 しかしマウリッツは静かに首を横に振った。 「いや、構わないだろう。 君ならば、私からの仕事は早く終るはずだ。」 「私、なら?」 ・・・・・なんだろう、軽く嫌な予感がする。 何となく、今、この場で、軽く逃げ出したい衝動に駆られた。 |