覚醒1 |
モフモフ族の村の中は一種騒然としていた。 当たり前だろう。 何と言っても、このモフモフの村のすぐ裏に当たる部分に、 遺跡船の艦橋は出現したのだから。 しかし、どうにも様子が可笑しい。 なんだか、村の大移動をしたときと似た雰囲気だ。 皆が、荷物の整理をしながら、旅支度をしている。 ダクトから村に足を踏み入れたは、 いつも裏口に立っているヨッポと目があった。 ヨッポはの姿を捉えると、大きく目を見開く。 そして―・・・ 「さんが帰って来たキュ〜〜!!キュキュキュ〜〜!!」 村中に響き渡る大声で、皆に呼びかけた。 同時に、木製の板で出来た階段のすぐ下に 露店を張るモフモフ族の視線が集まる。 「あ、えーっと・・・久しぶり、みんな。」 片手挙げて挨拶したら、キュキュキュ〜〜!!とか言う モフモフ族の波に押し潰された。 「さんお久しぶりだキュ!!」 「どこか怪我はないキュ??」 「左手が重症キュ!!手当てするキュ!!」 「だ、大丈夫大丈夫!! そ、それよりもジェイは?家にいる??」 「僕なら此処にいますよ。」 久しぶりのモフモフワールドにあわあわしながら問いかける。 モフモフの皆に左手を取られながら何処かに連れて行かれそうになると モフモフの波の向こう側から、聞きなれた声がする。 みんなが、ジェイが通れるように道を開けてくれると ようやく、懐かしい姿が見えるようになった。 ちょっと呆れた感じの顔で、こっちに近づいてくる。 「まったく・・僕は貴女を連絡係として行かせたってのに その後一切連絡がないから、どうしたものかと思いましたよ。」 会って早速、お小言だ。 まあこれに関しては、自分に非があるから何も言えないんだけれども・・・ 「まあまあごめんってば。 こっちにも色々とあってね。」 言って右手を振る。 相変わらず左手が動かないままで、不便だ。 ジェイが何か違和感に気付いたのか その青紫色に血の気の引いた左手に目をやると、顔を顰める。 近くのモフモフ族に何事か頼むと、そのモフモフ族はタッタとジェイの家のほうに走って行き しばらくして戻ってきたモフモフの彼は、手に布を持っていた。 ・・・・いや、彼女かもしれないけれども。 「本当に貴女は・・・会うたび会うたび傷を増やしてきますね。」 「こればっかりはちょっとね・・・ 他の傷はブレスでどうにかなったんだけど。」 お小言を言いながらもジェイは近づいてきて、 せめてこれ以上傷が見えないようにと、その布を腕に巻いてくれた。 意外そうに「ありがと」とお礼を言えば 「モフモフの皆に無駄な心配掛けさせたくないだけです。」と ソッポ向かれて答えられた。 まったく、素直じゃない。 「・・・それで? あの艦橋が復活したって事は作戦は失敗したんでしょう」 「うん。・・・その後にちょっとあってね。」 「・・・家で、聞きましょう。」 これまでの事を聞くジェイの表情は、中々に険しかった。 雪花の遺跡での自分の関わった件は省こうかとも思ったが もう皆が知っている事実だ。 それはしないほうが良いだろうと、全てを話した。 マウリッツが、ジェイを軍の参謀と任命したいという事も、 包み隠す事無く、全て―・・・ 「・・・・まったく・・・・」 話を終えると、ジェイが溜息をつく。 呆れた様に、を見やった。 「本当に貴女は、何処までもわからない人ですね。 一体貴女、本当に何者なんですか?」 今更驚きもしませんから、白状したらどうなんです? ジェイに言われるけれども、は俯いた。 「・・・ごめん・・・私にもよく、わかんないや・・・」 もう、色々な事がよく分からなかった。 この世界に来て、唐突に爪術が使えるようになった。 その時には、こんなに不安定じゃなかった。 この世界に来た時のオブションポイントみたいな、 そんな気分で捉えていた。 けれども、今は―・・・ 「この世界に来た時には、私は―・・・」 「この『世界』?」 思わず呟いた小声の声。 けれども、ジェイは随分と耳聡く聞いていたようだ。 ハッとして顔を上げれば、ジェイが怪訝そうに此方を見ていた。 「え、え、あーっと・・・ホラ、遺跡船に来た時って事!!」 「だったら最初からそう言えば良いはずですよ。 ・・・・何か隠してますね?」 「イヤー気ノセイデスヨ」 ええ、とっても気のせいです。気の迷いですとも。 ヤバイヤバイ、ちょっと気を落ち着けよう。 そうだそうだ紅茶でも入れましょうかね、はいはい。 イソイソと立ち上がり、ジェイが見守る中で 水に火を掛けて紅茶の葉を用意する。 ・・・キッチンとホールが分かれてれば良いんだけれどもね・・・ 生憎、キッチンは扉のすぐ隣だ。 逃げる事も出来そうにないからジェイの詰問は誤魔化すしかない。 「だいたいして、貴女には怪しいところが多すぎるんですよ。」 「そ、そんな事ないですけども・・・」 「大有りです。 それじゃあ聞きますが、さん、貴女の出身国は?」 答えられない質問じゃないですよね? ジェイが腕を組みを睨みすえている。 今回ばかりは絶対に逃がさねえぞコルァって顔してる・・・!! 「・・それじゃあ、質問を変えましょうか? 出身国が言えないというならせめて何大陸か位言えますよね? 『 』貴方の名前はどのような文字で表記するんです? 貴女が元々着ていた服の素材は?とても珍しいものでしたが。 今まで魔物と戦った事もなく、一体どうやってこの遺跡船へ? そもそも、一体何が目的で? 何故貴女は初めから、僕が不可視のジェイであると知っていたんですか?」 ・・・・・。 ジェイの詰問は誤魔化すしかないって? この人の事を私なんかが誤魔化しきれる訳が無いじゃないですか!! い、いや、駄目だ!負けるな自分!! 自らを叱咤して、早くお湯沸けろよぅ、とか 自分で自分を騙しながら、ティーポットとティーカップを用意する。 ああもう。片手じゃ作業しにくいなチクショウ。とか。 ジェイの溜息。 「・・・そんなに、僕が信用なりませんか・・・」 ・・・・・・。 あああああ駄目だ駄目だ騙されるな自分!! そんなちょっと切なそうな息と声と表情に騙されるな自分!! 「ちっ」 ・・・・・今『ちっ』って・・・ どうあってもが正体を明かさないと分かってか、 ジェイは、もう幾度目かの溜息をつき、を見やる。 「本当に、いつまで経っても出自もなにも語らないし 分からない事は何一つ分からないままだし・・・」 ああもう分かったよ。分かりましたから そんなにチクチク人の事突っつかないで下さいよ。 「・・・いっそ、違う世界から来ましたーとか言われる方が合点が・・・」 ――― ガッシャーーーーン!!! 唐突に響いた音に、ジェイが驚いて振り返る。 見れば、が割れたティーセットを前に、真っ青な顔をしていた。 ティーセットを割ったから、青い顔をしているわけではない事は すぐに分かった。 けれども、その理由に気付くまでは、流石に時間が掛かった。 そして、理由に気付いてからもまた、 それがどういう事であるのかを理解するのに大変だった。 「・・・・当たり・・・・ですか。」 「いえ、あの、その・・・・・ あっ、ご、ごめんね、ジェイ。ティーセット割っちゃった。 すぐに掃除するから、ちょっと待って―・・・」 「さん。」 何時の間にこんなに近くに来ていたんだろう。 ジェイが目の前に座り込んで、の両手を包み込む。 驚く位に優しい動作だったが、同じくらいに 「今日こそ、話してもらうぞ」と言う意思が伝わった。 「本当・・なんですか?」 ピューッと、やかんから場にそぐわない間の抜けた音。 呆然と其れを聞きながら、はただ一つ、静かに頷いた。 ああ、遂に知られてしまったか、と。 |