ミュゼットさんからは、確かに書状の返事を受取った。


「すぐに、この遺跡船内に潜伏させている
 わが国の兵を集結させましょう。」

そのお言葉と一緒に。


ミュゼットさん宅を出てすぐ。

とりあえず、この戦争の大元とも言うべき部分が決まり
腰が抜けて思わず座り込んだ。


「何やってるんです。
 さっさとその水の民の拠点に行きますよ。」

・・・なんで余裕綽々何だろう、この人。




白いエリカの彩る夜に
動乱の大地5









「本当に・・何をどうしたらこんな所に出てくるんです?」

「し、知らなーい・・・」


ジェイに呆れた様に言われて、は不自然に目を逸らした。

現在、どうにかこうにかマウリッツの庵に着いたところ。


・・・・どうにも不自然な場所から。


「これ、明らかに真横からですよね、来たの。」

「あ、あははは・・・そーですねぇ」

「・・・一応お尋ねしますけれども、方向感覚は?」

「今更ですけど、アリマセン」


だって今まではダクト使ったり皆に着いて行けば良かったりで
格別必要なかったんですもの。

いきなりそんな道案内してくださいとかいわれてもな・・・


だってややこしいんだもん。


ジェイからちょっと痛い視線を送られていると
フと遠くから足音が聞こえる。


見れば、人食い遺跡から帰って来たらしいセネル達の姿が見えた。


ジェイとの姿を捉えると、一同がはたと歩みを止める。


「こんにちは、皆さん」


ジェイが明らかに胡散臭いニコヤカさで手を上げて挨拶した。


「「「ジ・・・」」」

「ジェイ!!」


ノーマ、セネル、モーゼスが名前を呼び掛けたのをぶった切り
クロエが人一倍大きな声を出して、掴み掛からん勢いで近づいた。


おーい、また私の存在は無視かーい?


「どうしたんですか?クロエさん。そんなに慌てて。」

「ジェイ・・・!雪花の遺跡の件、よくもやってくれたな!!」

「何のことです?」

「とぼけるな!隠し扉の情報を教えず
 私たちに危険な手段をとらせたことだ!!」


クロエが力の限りに叫んでいるが、
ジェイはあくまでも涼しい顔だ。

そうそう、この顔が余計に腹立たしさ倍増なんだよね。
わかるわかるクロエ。


も!ジェイの性格を知っているなら
 それくらい想像付けてくれてもよかったのに!!」


「わ、私ですか!?
 っていうか其れ八つ当たりじゃないのねえちょっと!?」


さ、流石に言いがかりだ!!

ちょっとどうしてくれんのよ、可愛い弟子が在らぬ疑い掛けられてんですけど?

ジェイを横目で見やると、ジェイは飄々と


「流石はクロエさん、勇気がありますよねえ。
 ご自身の弱点も顧みず、果敢に水中の冒険に挑まれたんですから。」


クロエが、目を見開いた。

僅かに、顔が青い。


「ちょっと待て・・・私の弱点って・・・・?」

「クロエさんがカナ・・・」

「わああああ!!!!」

「ジェイ君ストーップ」


クロエが叫んで其れを遮り、
が苦笑いしながらジェイの口を塞ぐ。


ノーマとモーゼスが「カナ・・・・?」と
微妙に途切れた単語に首をかしげている。


ジェイが、迷惑そうにを見やって、口を塞ぐ手を退けた。


「・・何するんです?」

「いやー・・だってホラ、クロエにも一応建前ってモンがさ」


とジェイがそんなやり取りをしている間
クロエがセネルに小声で在らぬ疑いかけていて。

曰く


「クーリッジ・・!
 お前、誰にも言わないって・・・!!」

「俺じゃない!断じて違う!!」


そんな会話を耳に挟んだのか、
ジェイは得意気に笑って、言った。


「僕が独自に突き止めたんですよ。
 何せ、情報屋ですからね。」


「・・・地獄耳・・・・。」


「何か言いました?さん」


「イーエ、何も言ってないですよー」


ボソっと呟けばニッコリ笑って返してくるし。

やっぱり地獄耳じゃないか。


クロエが、ガクリと項垂れた。


「ジェイは何故、此処にいるのだ?」


其処での会話にひと段落が着くと、ウィルが言って、話題を切り替えた。


・・・・この人、クロエのカナヅチ薄々気付いてんじゃないの?


「もちろん、煌髪人の方々とお会いするためです。」

「嗅ぎ付けるのが早いな。」


言ったジェイに返した言葉は、僅かに嫌味だった。
けれども、ジェイも気にした風がない。


それが身上ですから、と、やっぱり飄々としていた。


不服そうなウィルを見て、が苦笑して、説明を加える。


「それもあるんですけど、マウリッツさんから頼まれた
 例の私のお仕事です。」


「ああ、そういえば、結局マウリッツさんからは、何を頼まれたんだ?」


「うん、それが―・・・・」



セネルからの疑問にが答えようとしたとき、
風が一際強く吹いて、長い髪を攫った。


驚いて思わず辺りを見回す。


風は、その一時だけでなく
延々つづいて強く吹き続ける。


「・・・急に、風が強くなりましたね。」


ジェイが、眉根を寄せて僅かに視線をめぐらせた。

ああ、もう情報屋の目だ。

事態を把握するために、誰よりも早く視線をめぐらせ
思考を働かせている。


そして、ハッとしたように頭上を見上げた。


遺跡船にいれば、大抵の場所で頭上に見える、石帆。


違和感に、気付いた。


「雲が・・・」


「ええ、可笑しいですね。
 いつもなら、真上に伸びているはずですが・・・・」


遺跡船は、大抵進む速度は然程速くないから、
石帆から上る雲は真上に真っ直ぐ上がる。


けれども今は・・・・


「真横になってるな。」


セネルが、後を継いだ。


ジェイが思案深げに顎に手を当て考え込む。


「遺跡船が高速に動いている・・・と言うことですか。
 とすると、動かしているのは、艦橋を手中に収めている
 ヴァーツラフ、という事になりますね。」


「!ヴァーツラフが!!?」


「・・・・ともかく、マウリッツさんからの話を聞こうよ。
 レクサリアからの書状の返事も受取ってきたし。」


「一先ずはそうしましょうか。」


が言うと、ジェイが頷いた。

返事の書状を確かめるように、がバックへと右手を偲ばせると
その手が左腕へと当たって「あだっ」とか、潰れたような声を出す。


「・・・大丈夫ですか?」

「うー・・これでも一応は動くようになったんだよぅ。」

「もう一度、ブレスを掛けてみたらどうです?」

「んー・・マウリッツさんにコレ届けてからね。
 落ち着いてからでも問題は無いでしょ。」


そんなやり取りをジェイと交わす。

と、唐突にノーマが「あれえ?」と声を上げて、
クロエが「どうかしたのか?」とか何とか尋ねる。

ノーマは暫くとジェイを見ていたが、やがて口を開いた。


とジェージェー、何かあった?」


「何かって、何だ?」


「いや、よくわかんないけどさ。
 なーんか、前二人が話してたときと雰囲気が違うんだよね〜」


うっ、ノーマ鋭い。


ジェイに、どうしようか?と目配せすれば、僅かに首を横に振ってみせて。


今はまだ、言わない方がいいでしょう。との事らしい。


「まあ、これでも一応、弟子が怪我をしているわけですしね。」

「ああ、流石のジェージェーも
 怪我人にまでは鬼になれなかったって事か!」

「・・・どういう意味です?」


ポンと手を打ったノーマに引き攣った顔で返したジェイは
けれども華麗にスルーされた。


「あたしはてっきり、あの子絡みかなーとか思ったんだけど」

「は?『あの子?』」

「いや、しかしこれから町へ買い出しに行くといっていたし
 まだは会っていないんじゃないか?」

「ああ、そっか!」

「しかしあの嬢ちゃん、あんなフラフラな足取りで
 ちゃんと街まで行けるんかの。」

「流石に、誰か一緒について言ってくれてるんじゃないか?」



ノーマの一言をきっかけに、あーでもない、こーでもない。

ちょいちょい、チミ達、私に関わりあるっぽい話を
私抜きで進めないで下さいませんかね。

「お前たち、そんな事よりも、早くマウリッツさんの所へ行くぞ。」


「そうだな。早く、このささやきの水晶を届けよう。」


・・・・・。


だから答えくらい聞かせていきなさいこの堅物オヤジ!!