動乱の大地6 |
マウリッツの所までささやきの水晶を届けると マウリッツは、皆に労いの言葉を掛けて。 ああ、そういえばあまりに溶け込んでるんで気付かなかったけれども いつの間にやらグリューネさんとカカシも一緒だった。 水晶に続いてが、ミュゼットから与っていた書状を届ければ マウリッツの表情には、僅かだが光が灯った。 「この水晶を使って、何をするつもりだ?」 当然の如くにウィルが質問を投げれば、 マウリッツはスッと真っ直ぐに一同を見やる。 「諸君等がカカシと呼ぶ、元創王国時代の人形兵士を操るのに使う。」 「・・・薄々そんな気はしていたが。 やはり水晶とカカシは、関係あったのか」 「人形兵士がどれほどの戦闘力を持つか、 もはや諸君等には説明する必要はあるまい。」 「ねねね、どんな感じだったの?ノーマ。」 説明する必要はあるまいとか言われても、 自分はその現場を見たわけじゃないからわかったもんじゃない。 いや、強いのは知ってるんだけどさ、実際どんなモンなのかってお話で。 「んも〜、マジすっごいよ、このちっこいの! クルザンドの兵を一気に3人もやっつけちゃってさ!!」 「へあぁ・・・このちびっ子があ。」 思わずマヌケな声が出て、ジェイに腕で突っつかれた。 ハイハイ、大人しくしてますよ。 「何故このカカシは俺に付いて来るんだ?」 「餌付けでもしたの?セネル」 「俺は何もしてない! だいたい、どうやって餌付けするんだよ、こんなの!!」 思わず疑問に思って尋ねれば、セネルに盛大に突っ込まれた。 ジェイに更に強く突っつかれる。 ・・・わかったよう。 「セネル君が水晶を手にした際、 偶然起動してしまったのだろうな。」 「もしかしてセネセネの事、親だと思っちゃったりだとか?」 「ピヨピヨの雛じゃないんですから。」 「えー、ピヨピヨの雛は可愛いよー?」 「そういう問題と違うじゃろ。」 「「セネセネ、モテて良かったね」」 ノーマとで両脇からからかう様に肩を叩いたら あのな・・と呆れた様に言われてしまった。 うーん、結構このカカシも愛嬌あって可愛いと思うんだけど。 「墳墓の中に、大量の人形兵士があったのを見ただろう? 才能のあるものがささやきの水晶を用いると、 あれら全てを纏めて動かせるのだ。」 マウリッツが一同を見渡す。 思わず、背筋を正してしまうような威厳のある眼差し。 「我々水の民と、諸君等陸の民、 そして元創王国の遺産たる人形兵士。 ヴァーツラフと戦う準備は、これで整うな。」 「同盟の話はどうなったのだ?」 「ちゃんと返書を預かってきたよ。」 「先ほど、君が届けてくれた。 同盟は無事、締結されたよ。」 その答えを聞くと、ウィルが深く安堵の息をついた。 セネルたちも心配だっただろうが、彼にしてみれば 書状だって同じくらいに心配だったはずだ。 気苦労の絶えない役所だな、と、思わず苦笑を漏らす。 「ウィル君が添えてくれた書状のお陰だ。感謝する。」 「と言うわけで、具体的な話を始めましょうか。」 マウリッツが礼を言うと、ジェイが新たに話題を切り出した。 「君だね、今回の同盟軍の作戦参謀は。」 みんなの視線が一点ジェイに集まる。 ジェイが不服そうにを見やり 「成り行きで、そうなりました。」と、そう返した。 が違う世界からやって来たと知ってから、 ジェイは何だか、ヤケに気遣わしい。 この負傷で、が軍に加わると聞き、 ジェイは唐突に、先ほどまで渋っていた参謀役を引き受けてくれたのだ。 マウリッツからその任を任されたからしてみれば それはもちろん願ったり叶ったりなのだが、薄気味悪い気がするというのも 実の所、素直な感想だったりする。 「が任されたというのは、それだったのか。」 「あ、はい。まあ・・・」 あとで、変な申し出をされなきゃ良いんだけど。 「まず、現在の状況をご説明しますね。」 そう言って、ジェイからの説明は始まった。 やっぱり、当たり前の如くにいるグリューネさんは 皆さん軽くスルーなんだけど・・・良いんだろうか。 ジェイが取り出しテーブルの上に広げた地図は、 今までの見たことの無いものだった。 恐らく、大陸の地図なんだろう。 こうしてみると、やはり、自分がいた世界の地形とは、似ても似つかない。 これがこの世界の大陸です、といわれても 本当にこんな形をしているのか、正直疑問に思うところだ。 「遺跡船の現在地はこのあたりです。」 ジェイが大陸から僅か離れた北西の辺りを指差すと、 皆が一様に覗き込む。 自分、この地図見ても文字すら知らないから さーっぱり、わかんないんだよなぁ・・・ 「ヴァーツラフが目指しているのは、 間違いなく、聖ガドリア王国でしょう。 大抵の人は位置を知ってると思いますが、此処ですね。」 言って、先ほどから僅か南東に降りた辺りを指差す。 ・・・因みに、この説明は多分、自分に向けてだろう。 『大抵』からは漏れた人間だ。 ノーマが、「クーの祖国・・」と呟くのを聞くか聞かないか。 ジェイが、ヴァーツラフのクルザンドと交戦中の国でもあると加えた。 その説明を聞いて、隣のクロエが俯くのを見て、 が励ますようにポンポンと、その背を叩いた。 驚いたようにクロエは顔を上げたが、 はただ、笑って返して。 ジェイの説明は、尚続く。 「今の航行速度を維持した場合、遺跡船がガドリア沿岸部に到達するまで 余り時間がありません。 蒼我砲の射程距離を考えたら、制約は更に厳しくなるでしょう。」 そう言って、地図は畳まれる。 フと、視線に気付くと、セネルがクロエの方をしきりに気にしている。 「クーの事、心配?」 それに気付いたノーマがセネルに尋ねると 「別にそんなんじゃ・・」と、ソッポを向いてしまう。 こっちも、あんまり素直じゃないみたいだ。 「セネセネにしか出来ない事も、あるはずだよ。」 ノーマが、持ち前の明るい笑顔を送りながらセネルの背中を 元気付けるように叩いてやる。 セネルが、驚いたように「俺に?」と呟くのが聞こえた。 「同盟が成立したとは言え、俺たちの置かれている状況は 相変わらず厳しいのだな。」 ウィルが難しい顔で呟く。 「何だかんだで、ずーっと後手後手に回っちゃってるしね。」 同調するように呟いたの声は、 自分が思うよりもずっと深刻そうな音を孕んでいて、 自分で自分に驚いたりして。 けれども、ジェイは悪い話ばかりではないと、キッパリ言った。 「遺跡船が高速で突っ走ってる間は 外部から船が乗り入れる事はできない。 ヴァーツラフ側の戦力が、此れ以上増強される事もない訳です。」 「でも、それってつまり、 こっち側の戦力にも同じことが言えるわけでしょ?」 大丈夫なの?と、。 「今の同盟軍の力で、何とかなると?」 「なるかもしれない・・・と、言ったほうが良いんでしょうけどね。」 ジェイにしては、珍しく中々弱気な発言だった。 「その具体策を、此れから考えるのだな。」 「さっそく、作戦会議を始めましょう。 ウィルさんも、ご参加をお願いします。」 ウィルが頷き、お前等はこの機会に体を休めておけ、と そんな流れで、皆がそれぞれ立ち上がる。 「ああ、さんはもう一度、 キチンと腕にブレスを掛けておいて下さいね。」 「りょうかーい。」 と、そう返事をしたとき。 「ただいま戻りました〜!」 一人の少女の、高い声が部屋に響いた。 |