白いエリカの彩る夜に
動乱の大地11










「我々同盟軍は、輝かしい勝利を得た!
 この勢いをもって、敵軍を一気に駆逐しよう!!」


言ったマウリッツは、突破した前線の最奥に位置していた施設の上に登ると
両手を空に仰ぎ、朗々と叫んだ。


「我等の手にメルネスを取り戻すのだ!
 海の導きのあらん事を!!」


本日で、もう幾度も聞く雄叫びが上がる。


けれども、この雄叫びは今日聞いたどの雄叫びよりも
勢いづいていて力強い。


腹の底を震わせる音に、も手を強く握った。

皆が解散を始めると同時に、真っ先にセネルたちの元へと駆け寄る。


「みんな、お疲れ様!・・と、あとおめでとう!!
 ケガは?してたら言ってね、すぐに回復するよ。」


「だいじょーぶだって!あたし等だって回復出来んだし・・・
 、ずっとブレス使ってたんでしょ?足元フラフラじゃん〜」


「うっ・・わ、私は・・・」


だって、これしか出来る事が無いから・・・

困ったように言ったら、上機嫌なノーマたちには笑われた。


「それにしても、俺たちがヴァーツラフ軍に勝ったのって
 今回が初めてじゃないか?」

「その通りだ。
 ようやく一矢報いたというわけだな。」


そのウィルの言葉にセネルが嬉しそうに微笑む。


フと、背後から足音が聞こえて振り返った。


ジェイが、ニッコリと笑って近づいてくる。


「皆さん、最終防衛線一番乗り、おめでとうございます。」


「どうよ、ジェージェー?あたしらの活躍ぶり!」


「ええ、まあ。
 皆さんそれなりに、働いていましたね」


「それなりとか言うなあ!!」



ノーマが言うのに、ジェイが声を上げて笑った。


あ、珍しい。


「・・・何です?」

「何も言ってないじゃないですか・・・」


そんな風に思ってたら唐突に睨まれて。

何だよう。反応が全然違うでやんの。


あ、溜息つきやがったなコラ。


「・・・各部隊が、艦橋前平原に集結を始めています。
 ウィルさん達も、お願いします。」


「わかった。」


「また、明日からは部隊にさんが加わります。
 ・・・さん、足を引っ張らないようにお願いしますよ。」


「あーはいはいはいはい。もーわかってますよ」


あーもう。

だから貴方は私のお母さんかって話ですよ。


その時、再び足音。

今度は二つだ。


見れば、フェニモールとグリューネ。

あと、例のフェニモールに懐いている人形兵が此方に来ていた。


グリューネはニーッコリと笑ってセネルに近づくと・・・


「セネルちゃん」


そのままニーッコリと抱きついた。


「!!グ、グリューネさん!何を・・・」


「あはははは・・セネル、顔真っ赤。」


あまりにギューッと抱きついているので
まあ多分、感触は良いんだろうケドも。


セネルが顔を真っ赤にして固まってるので
何となく年下ながらも可愛いとか思ったりとか。


けれども、グリューネさんは穏やかな声で
「お疲れ様、よく頑張ったわね」と微笑んだだけだった。


まったく気にしてない。

クロエが複雑そうな顔をするのに、
モーゼスは「ええのう、セの字」とか、かなり羨ましそうにしている。


欲望に忠実だな・・・モーゼス・・・



「んじゃモーすけー、にしてもらったらあ?」

「おお!そりゃええのう!!」

「はあいぃ!!?ちょ、待て、何で私だ!!?」

「だって、グー姉さんに負けじと劣らず
 胸大きいじゃーん。クソォ羨ましいなあ」

「さ、流石にグリューネさんには!!」



敵いません!!もはや自分戦力外です!!

自分あそこまでナイスバディじゃないし!!

っていうかクロエのがバランスとしては明らかに良い!!

いや確かにこっちの世界着てから相当痩せたから
自信ないかって言われればちょっと自信出た気もするんだけど!!

なんせジェイ君、結構スパルタだったからさ!!!


「あー、でもそっかー。
 の胸はジェージェーの物だもんねー?」


「「なんの話ですか!!!」」



ああもうこう言う時に限ってジェイと被るし!!

って言うかジェイ軽く赤くなってるし!!!


「ええい、こうなったらモーゼス、特別サービスだ!
 やってやるぞチクショー!!」

「ほんまか!!」

「なっ!?」

「ホラホラ、ジェージェーが妬いてるよー?」

「妬いてません!大体、なんで僕が妬かなくちゃならないんですか!」

「あー、でもそう言えば
 巨大風穴でモーすけに抱きついてなかったっけ?」

「あ、あれは・・・!」


不可抗力だ!しょうがないじゃないか!!

だってあんな!あんな高い所からひゅーって・・・ひゅーって!!


ああちょっと、思い出しただけで眩暈が・・・


ギャースカギャースカ。


4人で低レベルな言い合いが続いて、
セネルとクロエが顔を見合わせて溜息をつく。


その時、パアアァっと背後から光が差した。

言い合いをやめて、全員が、ハッとしたように振り返る。


「何の光だ!?」

「猛りの内海から、光の柱が立ち上ったようだ!」


眩しいほどの光に、皆が空を仰いでいた。

物珍しい物を見るような皆と変わって、
一人が、複雑そうな目の色で、その光の柱を見上げる。


「セネセネとリッちゃんが、遺跡船に来た時みたいだね。」

「きっと遺跡船が、ワイ等の勝利を祝っちょるんじゃろ。」


言ったモーゼスは満足そうに頷いて。


黄金の光りは渦巻くように真っ直ぐ空へと伸びている。

地上から照らされた雲の断面が鮮やかにその光を反射していた。


あれ、ステラさんだ・・・


すごく優しい光をしている。

きっと、あの光みたいに強くて優しい凛とした人だったんだろうな。



今頃、彼女たちはどうなってるんだろう・・・。



「同じ色だったんだな」



セネルの呟く声に、クロエが「え?」と返す。


「ステラの、テルクェスと。」


言ったセネルは、懐かしそうな表情で眩しそうに光の柱を仰いだ。






















翌日、日が上ると同時についた艦橋前平原では
前線基地攻略時よりも慌しく、空気が急いていた。


当たり前だ。


前線基地の攻略は、言わばヴァーツラフへの宣戦布告。

本来の目的はコチラなのだから。


辺りを見回していると、先に艦橋前平原まで来ていたジェイが
近づいてきた。


「作戦開始まで、少し時間があります。
 準備は念入りにしておいてくださいね。」


失敗した時に言い訳されても困りますから。

ジェイはそう付け足して。


「ワレは一言多いんじゃ。」

「モーゼスに同感!」

「これでも我慢してるんですけどね。
 特に何処かのバカ山賊には。」


ああ、あとその隣の誰かさんにも。


ってそれは私の事ですかねジェイさん。


モーゼスがムッとしたようにジェイを睨め付ける。


「上等じゃ。
 ワレとは今すぐケリつけちゃる。」


「誰もモーゼスさんの事だなんて言ってませんけど?」


「あーあーあー・・・まあほら、二人とも落ち着いて・・・」


なんか雲行きの怪しくなってきた2人の間に割って入る。


が、一歩遅かった。


ガキン!ゴキン!!と、重たい音が響く。


ウィルの鉄拳が、モーゼスとジェイの脳天にクリティカルヒットした。


あー・・アレ、見てるこっちまで痛くなるわ。



「いい加減にせんか、バカ者共が。」

「何でぼくまで・・・」


そう言うのを、自業自得って言うんですよージェイさん。


はっはっはと、心の中で少し笑ってみたり。


・・・・今、ちょっとジェイに睨まれた気がした。



「各自、足りないものがないか、確認しておくように。」


いいな、ノーマ。

頷いた一同を見てから付け足されるノーマの名前に
どうしてあたしばっか構うの!?と地団駄を踏み。


鮮やかにスルーを受けたりして。



さん、ちょっと良いですか?」


「んぁ?いーよ。」


「おーっと、危険な地に赴く彼女に激励ですかー?」


「違います。」


ぉおう、キッパリ斬って捨てられたよ。


何だかんだで仲の良いジェイとノーマが少し言い合って、
そうこうしている間にノーマはウィルに引きずられて。

一同の背中が、遠退く。


「んで、何?
 メルネス情報なら、私も殆どセネル達と行動してないから
 そんなに分かってないよ?」


「いえ、その事ではなくて。
 ・・・貴女に此れを渡しておこうと思いまして」


そう言って差し出されたのは、一つのリボンだった。

黒地のシンプルなシルクに似た生地で作られて、
中央に、鮮やかなグリーンの宝石を湛えている。


「・・どうしたの?コレ・・・」

「雪花の遺跡でヴァーツラフに髪飾りを壊されたと聞いて
 キュッポ達が新しい物を用意してくれたんですよ。」

「うわあ!?またキュッポ君たちだ!!?
 あーもー・・・私貰ってばっかりなんだけど・・」


申し訳なさ過ぎて実の所、貰い受けにくい。

心中察したのか、ジェイがほんの少し笑った。


「普段お世話になってるさんに、お礼をしたいんだそうですよ。」

「お世話なんて、私ほとんどしてないじゃないスか・・・」

「キュッポ達に申し訳ないと思うなら、素直に受取って身に付けている方が
 みんなは喜ぶと思いますけど?」

「う・・・そりゃ確かに・・・」


本当に、モフモフ絡みのジェイには特に敵わない。

彼も彼なりにみんなにお礼をしたい気持ちなんだろうけど・・・

は苦笑して頷くと、ジェイの手からそのリボンを受け取った。


「あれ?これって・・・」

「モフモフに伝わるまじないですよ。
 お守りみたいなものだと思って下さい。」

「あ、うん・・・・」


受取ったリボンに付いた宝石。
よく見ると、繊細に何か模様替えがかれていた。

おまじないと言うのは分かったけれども・・・


「これ、ジェイが彫ったの?」

「・・・・・何か問題でも?」

「ああいや。
 本当に手先器用だなーと思ってさ。」


この綺麗に整った感じの模様が、ジェイの性格を物語っている。

何となくだけれども、最近では一目見ればジェイの文字を見分けられるようになった。


・・・・文字は読めないけども。


ジェイは僅かに顔を赤くして息を詰まらせて
「コレくらい、出来て当然の事でしょう」と。


その様子に、が微笑って。


そっと胸にリボンを抱くと、ゆっくり、その髪を結い上げた。


不思議と、胸の奥が暖かくなる。


みんながすぐそばで応援してくれているみたいだ。



「・・・・ありがとう、ジェイ」


「・・・お礼なら、モフモフのみんなに言ってください。」


「みんなにも言うけど、ジェイにも、ありがとうなの」


素直に受取っておいて下さいな。

そう言って、はもう一度、微笑って見せた。