動乱の大地12 |
「間も無く、作戦開始です。」 準備を終えて各々集まった一同に ジェイがそう言って、皆に話し伝えた。 「皆さんは敵の側面、及び後方を撹乱しつつ 艦橋内への潜入を目指してください。」 「敵を叩く事よりも、防衛線の突破を優先するのだな。」 「だったら、前線を突き抜けるよりも 敵兵のあんまり居ない前線から離れた所を通って行った方が良いかもね。」 急がば回れって言うじゃん?と。 ジェイが大きく頷いて見せた。 「何があっても、ヴァーツラフに蒼我砲を撃たせてはなりません。 撃たれてしまったら、その時点でこの戦いは、僕達の負けです」 「みんなが頑張る理由、なくなっちゃうもんね。」 「撃たれたら、それだけ多くの人が犠牲になる・・・」 それだけは、絶対に避けたい。 「皆さんは、シャーリィさん達の奪還を第一に考えてください。」 「言われるまでもない。」 「マウリッツさんの話では、シャーリィさんとステラさんが居るのは 艦橋の最上階のようです。」 「・・・覚悟は出来ているものの、到達するには、遥かな道程だな。」 クロエの呟きが重たく漏れる。 ウィルが「よし、みんな作戦内容は理解したな?」と場を取りまとめ 皆が一様に頷いた。 その時、更にその場から奥のほうでざわめきが漏れ出す。 「号令が、かかるみたいですね」 その言葉で、皆がざわめく空気の元へと向かった。 空気がピンと張る。 こんなに大勢の人間が居るのに、人の声はひとつだって漏れない。 クルザンドの軍隊と対面した同盟軍は、数では負けていなかった。 アチラみたいに皆が揃った装備をしているわけではない。 けれども、だからと言って負けているわけじゃない。 五分五分の状況の中、皆が緊張の間で戦いの時を見据えた。 カーチスが指示を出すと共に、先発隊が雄叫びを上げて攻め出す。 それとほぼ同時に、ヴァーツラフ軍からもまた、雄叫びがあがった。 ・・・大丈夫。 胸の前で手を組んで、ゆっくりと息を吸う。 大丈夫、絶対に、勝てるから。勝たなくちゃならないから。 風が吹いて、頭部に真新しいリボンの感触を感じた。 大丈夫、みんなが付いてるんだから。 「先発隊が敵軍と接触したようだ。時間的には、ほぼ予想通りだな。」 ハッとして顔を上げる。 気付けばマウリッツの他に、フェロボンにジェイも、 自分たちと向き合っていた。 いかんいかん。お祈りの時間は此処までだ。 いつまでも、ボーっとしてちゃ居られない。 「では、独立遊撃隊の皆さんも、行動を開始してください。」 一同が強く頷き、ジェイの先導の下、戦場へと向かった。 「戦況報告によれば、現在、この先辺りが主戦場になっています。」 ある程度の所まで行った時にジェイが足を止めて振り返り、そう告げた。 首の金飾りの鈴がしゃんらと鳴る。 「此処を真っ直ぐ行けば、艦橋だな。」 「ええ、しかしそう簡単ではありません。 まっすぐ行けば最短距離ですが、主戦場付近を突っ切ることになります。 さんも言っていましたが、遠回りして右へ回れば、敵の布陣も手薄なはずです。」 どちらを選ぶかはお任せします。 ジェイは言って、何かあればすぐに本部へ行って補給を受けるようにとも付け足した。 「了解した。」 「では、僕は本部に戻ります。頑張ってくださいね。」 頷いたウィルを確認すると、ジェイは言って一同の横を通り過ぎる。 「ご武運を。」 の横を通り過ぎるときに、微かにそう囁いて微笑んだのを は確かに見た。 ジェイはもう行ってしまった後だったけれども はその背中に力強く頷いて見せて。 「・・・行こう!」 セネルの号令に弾かれるように、走り出した。 ジェイの説明の元、使ったルートは遠回りで向かう方だった。 無駄な戦いは、出来れば避けたい。 右へ大きくそれれば、戦闘音もほんの少しは遠く聞こえて、 それでも、此処は戦場だ。 敵が居ないわけじゃない。 「っライトニング!!」 目の前に現れた敵兵に喰らわせたブレス。 動きを一瞬止めた隙を突き、クロエの剣が、その背に突き刺さった。 もう何度も繰り返している殺し合いが、 血に酔うように頭を少し朦朧とさせた。 コラーしっかりしろー、と頭を振って、走り出した一同の背を追う。 自分はまだ、相手に決定的な攻撃をしたわけじゃない。 覚悟を決めても付きまとう気の迷いは、中々消せるもんじゃない。 「ファーストエイド」 フと、前方を走っていたセネルの腕に傷が付いているのを見て がそっとブレスを掛けた。 気付いたセネルは最初少し驚いて、 けれどもすぐに「すまない」と返してくる。 はゆるゆると、首を横に振った。 岩場を抜けて、T字の通路に出る。 見回っていた兵がハッと気付き、剣を構えた。 「っ来るぞ、みんな、油断するな!!」 「合点承知!!」 セネルの促した注意を返して、はすぐさま鉄扇を構えて 一歩後方へと退き顔の前で鉄扇を横に構えて意識を集中させる。 前方では、クロエとセネルの決める連続技の音。 背後でウィルとノーマのブレスの気配。 更にその後ろで後方の敵を相手にするモーゼスの雄叫び。 前後囲む敵兵の呻き声が漏れる度に、削られる命を感じて 意識は乱れる。 ―― こんなトコまで来て足手まといとか、ふざけんな。 そんなの、自分が許さない。 自分で立つと決めた戦場だろう。 どうしても嫌だったら、何が何でも昨日の内に ジェイに泣き付いておけばよかったんだから。 我が身可愛いプライド何て、今更持ち合わせても居ない自分が それでも、此処で戦うと決めたんだから・・・ 「深き地に宿りし灼熱の魔手よ 深紅の暇を―・・・」 「ちょっと、こっち来ないでよ〜!!」 がブレスを唱え始めた時、ノーマの焦ったような声。 ハッと気付くと、クロエとセネルの攻撃を振り切って、コチラ側に向かってくる 既に満身創痍となる敵兵。 捨て身の攻撃と言う風に奇声をあげて剣を構えてくる。 ノーマが放ったらしいグレイブが地面から岩を盛り上げたが 一歩遅く、敵兵の足元を僅かに崩したのみだった。 「うわああああぁぁあぁああぁぁああぁっ!!!」 後衛側で一番前の位置も悪かった。 けれども、真っ直ぐにのほうへと向かってくる敵兵に 嫌にスローモーションな映像が、現実味をなくさせた。 よく、アニメの技法なんかでもあった。 無音で、コマ送り的なスローモーションの光景。 あんなのただの技法だと思ってたけれども 実際は、頭混乱して真っ白になった部分と、それでも感じる スッと一本通った、冷静でその状況を見据える自分。 冷静な自分がスローモーションの世界の中で、鉄扇を開いた。 胴に体当たりも同然に剣を突き刺そうとした敵兵の腕を片の鉄扇で薙ぎ払い もう片方の鉄扇で―・・・ 修行中の身だった自分に、ジェイの言った言葉が過ぎる。 『確実に、急所を―・・・』 そしてはあくまでもその言葉に忠実に、喉元を、掻き切った。 途端に生暖かい飛沫が上がり、ぱたぱたと顔に降り落ちて 一歩二歩と退き、敵兵が地に伏した。 痩せた土が血を吸い取り濃い色へと変わっていく。 見れば、此れが此処の最期の敵兵だったらしい。 セネルたちが「次に行くぞ!」と言っている。 呆然と息絶えた敵兵を見下ろしていたが、ハッとした。 ・・・そうだ、此処ではコレが、成さなくてはならない事なんだ。 皆は既に、覚悟を決めて、他の人の命を手に掛けていた。 何度も、何度も、自分が戸惑っている間に、 何を怖いと言えば良いのかもわからないけど、 恐ろしくて、そうする事の出来なかった自分の変わりに――・・・ 今まで卑怯な事をしていたのは、自分だ。 この重さを、今までみんなに丸投げしてた。 本当に・・・卑怯だ。 「嬢、どがあしたんじゃ? セの字たちに置いてかれんぞ」 「あ、ごめん・・なんでも・・・」 「うわっ顔真っ青!ど〜したのよ、大丈夫!?」 「・・・・全っ然平気! よし、次行こう、次!!」 気の迷いは、不要だ。 みんなと同じ場所に立っただけ。 気を乱したら、駄目だ。 グっと、手の甲で顔に散った飛沫を拭う。 当然の事ながら真っ赤な色をして手の甲に色を映したそれを 見ない振りして、気付かないふりして、セネルたちの後を追った。 |