暫く行ってモフモフのみんなを見つければ
何だかんだでみんな、やっぱり結構強いわけで、粗方のケリは付いていて。


それで結局、なんでみんなが此処にいるんだとが問えば
向こう側から逃げ帰ってくる同盟軍の兵士たち。


は?なんですか?


とか思えば、ドスン、ドスンと地響きと。


ああ何でしょうね、このとてつもない嫌な予感は。


とか軽い遠い目をしてれば、向こう側から現れたドラゴン。


ああ、こういう予感は本当によく当たります事で。










白いエリカの彩る夜に
動乱の大地14














「俺たち・・・勝ったのか・・・?」



折角休んだって、こんなんじゃ流石に息だって上がる。

どうにかドラゴンを倒したものの、一同は既に疲れていて、
セネルの問いと言うか呟きと言うかには「多分・・・かろうじて?」とか
とりあえず軽口は叩いたけれども。


ヴァーツラフめ、何てものを用意してるんだ、本気で。



「キューーーーー!!」


それでも、ようやく一同息をついたところで
またしてもモフモフの叫び声。

今度はどうした!?とか思えばキュッポとポッポが
四方を敵兵に囲まれている。


「敵に囲まれちゃってるよ!!」

「っブレスじゃ間に合わない!!」

「ド畜生ォ!!」


鉄扇を構えてが走り出そうとするも
幾らなんでも場が離れすぎている。


それでも、約束したじゃないか、前に。


ジェイの大切な物を傷つけないって。


自分の目の前で彼等を失うなら、自分が傷つけたのと同じだ・・・!


!?」


2人に間合いを詰める敵兵にが堪らず走り出した。

ウィルが制止の声を掛けるのも聞かずに、
間に合わないのも知っていながら駆ける。



「っキュッポ君!!ポッポ君!!!」


「キュキューーーーーー!!!」


が叫びをあげると、その声に気づいたのか敵兵に隙が出来て。


稲妻が4つ、敵兵の頭上に落下した。


瞬間仰け反った敵兵に、好機とばかりにが鉄扇を振り下ろす。


バタバタと倒れた4人の兵。


死んではいない。・・・・多分。


鉄扇を開く暇もなかったから、後頭部殴打程度の攻撃。

脳震盪が関の山。



が肩で息をしながら、呆然としていた。


今、何が起きた?


だって、だってコレって・・・


前に噴水広場で、ジェイがチンピラから助けてくれた時の―・・・



「ちょっと、向こうから来るのって・・・!」



ノーマの声でハッと振り返る。


ああ、そうだ。


ドラゴン騒ぎとかで頭ン中、また整理が付いてなかったんだ。


此処は、此処では―・・・・




「ジェイ!!」




の叫びがヤケに響いた。

向こうから、2人が無事なことに安堵した様子で
見慣れた姿が歩み寄ってきて。


背後からも、同じくして驚きの声が上がっていた。


「2人とも、怪我はないかい?」


うーん、予想はしてたけど私の存在軽くスルー。



兎にも角にも、一先ず話をしなければどうにもならない。

現在、状況は色々と変わってしまったみたいなのだから。













セネル達が背後に並ぶ中、とジェイがキュッポとポッポの前に立ち
事情を聞く状況になる。


「どうしてモフモフ族のみんなが、こんな所にいるの!!」


ジェイが怒ったような口調で言う。

背後でノーマが「あんたもね」とか言ってるがジェイは軽くスルーで。

は背後を振り返ってシーっと人差し指を口に当てた。
そして、頭の辺りで鬼の角のジェスチャー。

ジェイ君、相当怒ってますから、荒波立てないで〜と。


「避難しろって、あれほど言ったじゃないか!」


「ジェイやセネルさん達が戦っているのに
 キュッポ達だけ隠れているのは嫌だキュ!!」


「ポッポ達も一緒に行くキュ!!」


「でもキュッポ君、ポッポ君。
 さっきみたいに、此処は危ない事が多すぎるよ。」


その姿形のせいか敵を翻弄するには良いんだろうが、
前線で戦うには流石に危ないし、心許ない。


さっきみたいに囲まれてしまったら、それこそ怪我処じゃすまない。


けれども、2人はイヤイヤと首を横に振る。


「それでもさんたちは戦ってるキュ!」

「命だって惜しくないキュ!ジェイ達と一緒に頑張るキュ!!」

「っ命って、そんな2人とも―・・・」

「ふざけるなっ!!!」


の言葉を遮って、ジェイが声を張った。


がハッとしてみれば、先ほどとは明らかに目の色の変わったジェイにすぐに気付いた。

それがキュッポ達なりの決意表明なのはわかる。

けれども、彼らが一番、ジェイの事を分かってるはずじゃないか―・・・


それほど真剣だって言うのはわかるけど、でも・・・


いつものおねだりダンスを打ち切って、隣に立つですらも驚く。

いつもの、感情を押し込めるようなジェイじゃない。


明らかに怒りと取れる、けれども焦りでもあり不安でもあり、
ただ暗鬱な影を映す表情で、ジェイが目の前の二人を怒鳴った。


「命が惜しくないなんて、冗談でも口にするな!!
 ぼくがそう言うの大嫌いだって、キュッポ達は知ってるハズだろ!?」


その言葉を聞いて、キュッポがハッとして、ごめんなさいだキュ・・と謝る。

ジェイのその言葉が、今はすごく重たかった。

自分の手の平を見つめる。

もうこの手は汚れていて、日本に帰ったら犯罪者だ。


殺したのは、たった、一人。


それだけで、泣き喚きたくなるくらいの衝動なのに・・・


ジェイは一体、どれだけの間を、一人で暗鬱な中に閉じ込められてたんだろう。


・・・いや、多分今も、閉じ込められたままなんだ。


みんなと一緒でも、心の深いところは、ずっと一人で置いてけぼりを喰らってる。



「えっと・・・とりあえず、ジェイ落ち着いて。キュッポ君たちも。
 とにかく、ちょっと冷静に話しようよ。
 此処で感情に任せてたってどうしようもないでしょ?」

「っさんは、黙っていてください。」


出来るだけ戸惑いを抑えて言うけれども、ソレを否定するようにジェイに睨まれた。

思わず、肩を震わせる。


――― こんな目で睨まれたのなんか、久しぶりだ。


『何も知らないくせに口を出すな』とでも言いたそうな目で、
初めて会った時と同じような、拒絶の目。


・・・・何傷付いてんだ、自分。


此処最近、こんな目で睨まれた事なかったから、
最初の内は覚悟してたけれども、今更こんな風に睨まれるなんて、思っても見なかった。


が押し黙ると、ジェイがフイと顔を背ける。



「僕と一緒にここを離脱しよう。いいね?」



ジェイのその言葉に驚いたようにがジェイを見る。


「ちょ、ちょっとジェイ!
 参謀が戦場ほっぽり出してどうする気よ!?」


「仕方ないでしょう。キュッポ達をいつまでもこんな所に
 置いておくわけにはいかない。」


「だ、だけど・・・」


それは幾らなんでも無責任だ。

けれどもジェイは有無も言わさずセネルたちの方を返り
キュッポ達が助かったのは皆のお陰だと酷く形式的な礼だけを述べて。

一刻も早く、此処を離れようとでも言うように・・・


「僕達も戦場を離れますが、どうかこの先も―・・・」


「ジェイ!!」


ジェイの言葉を切って、キュッポが声を上げた。

ハッとした様に、ジェイが振り返る。

視線の先で、キュッポとポッポは必死な表情でジェイに訴えた。


「キュッポ、やっぱりセネルさん達と一緒に行きたいキュ!」

「キュ。」


ポッポも同意するように頷けば、ジェイが目を見張る。


「どうしてそんな我がまま言うんだよ!?」

「わがままじゃないキュ!」


言い切るキュッポに、苛立ちを隠そうともせずに
「だったら!」とジェイが続けて、けれども、キュッポは
頑なに首を横に振った。


「遺跡船は、キュッポ達の家だキュ!!」

「みんなの遺跡船だからこそ、みんなの力で守りたいんだキュ!!」

「あ・・・・。」


2人の言葉に、ハっとした。


ジェイも、そこでようやく冷静な部分を取り戻したらしい。


眉根を寄せて、どこか傷付いたような顔さえもする。


が、言葉を選ぶようにしてそっと、口を開いた。



「・・・ねえ、ジェイ。
 ジェイがモフモフの皆を大事に思うのと同じように
 モフモフの皆も、遺跡船が好きで、ジェイの事も大好きで・・・
 すごく心配なんじゃないのかな。」


さん・・・」



ジェイのその表情が、なんだか凄く苦しくて。

今度は、感情に任せて睨まれる事も無かった。

傷付いたような瞳の色は変わらないけれども、ジェイはゆっくりと、目を伏せた。


「こりゃ、ジェージェーの負けだね。」


ノーマが肩を竦めて言って笑い、モーゼスも頷く。


「ほうじゃの。3人の方が、道理をようわかっちょる。」


いやー・・私は何ていうか、そう言うのとは違う気がするんだけど・・

口には出さないけれども、今の理由は、ちょっと不純だった気が・・・


・・・・・。


まあ、アレだ。

こういうのは、面倒だ。

あんまり深くは考えないようにしよう。



「ジェイ、お前がモフモフ族を大事にしたい気持ちはよく分かる。
 だがな、モフモフ族の遺跡船に対する思いも、それと同じくらい強いのだ。」



止め様としても止められるものではない。
お前だからこそ分かるはずだ、とウィルが静かに言って、ジェイがそっと目を見開いた。


ゆっくりと、キュッポ達のほうを見る。


「ジェイ」

「ジェイ」


「「ジェイ」」


2人は、声を合わせてジェイに言った。


こうなってしまったら、もうジェイに勝ち目なんかある訳がない。

思案するよう瞳を伏せ、今度はいつものジェイの瞳で
まっすぐと前を見やって凛と言った。


「やっぱり、モフモフ族の戦闘参加を、認めるワケにはいきません。」


咎めるように、クロエとセネルが名を呼ぶ。

けれども、は微笑んだ。

もう、大丈夫だろう。

だって、今自分の隣に居るジェイは、いつものジェイだ。


自分の知ってる、小生意気で頼りになる、冷静な―・・・


ジェイは皆の方を振り返り、真っ直ぐに言葉を紡ぐ。

決意を固めたかのように、強い響きを持って。


「だから代わりに、ぼくが皆さんと一緒に行きます」


皆が一様に目を見開く。

ジェイが不適に笑って見せて、
きっと、この状況で落ち着き払っているのは、自分たちだけだ。


「先ほどさんが言っていた通りですよ。
 此処は危険が多すぎます。モフモフの皆じゃ、幾らなんでも
 前線に立つには心許ない。」


そして、チラリと自分のほうを見やったジェイは―・・・


ほんの少しだけ、泣きそうな顔をしていた。



「モフモフ族の皆には、後方支援を担当してもらいます。
 その方が、戦術的効果は高いですから。」


それでいいね?とジェイが確認を取れば、キュッポ達は顔を見合わせて
胸を叩いて承知した。


「後方支援も充分に大切な役割だもんね。
 みんなも、怪我しない程度に頑張って!」


「もちろんだキュ!頑張るキュ!!」



の言葉に答えを聞くとジェイは微笑んで、そして、スタスタと一人
向こうの方へと向かってしまった。


「あ・・・・」


さん、」


引き止めようかと手を伸ばしかけて、キュッポに名を呼ばれる。

首を傾げて振り返れば、


「髪飾り、付けてくれて嬉しいキュ!」


「あ、そうだごめん、お礼言うの遅くなっちゃった!
 本当に有難う、今度こそ、大事にするから!!」


「なんの、さんがいつもしてくれている事のお礼だキュ!」


・・・だから自分、あんまり君たちに何かしてあげてないと思うんだけどね。


苦笑して言うと、「そんな事ないキュ!」とのお答えで。


さん。」


もう一度呼ばれた名は、真っ直ぐと自分に向かっていて、
キュッポは、そのキラキラしたガラス玉みたいな目で、言った。


「ジェイをお願いしたいキュ」


その言葉に一瞬は何の事かと理解しかねて、
けれども、すぐにハッとして頷き、ジェイの後を追いかけた。



そんな背中を見送って、ノーマが頭を掻く。


「な〜んか、完璧に取り残されちゃってるね・・・」

「そ、そうだな・・・・」


相槌を打ったクロエが「しかし・・・」と続けて


「あの2人も、不器用なものだな。」

「だよねえ〜。
 結局、あの2人ってど〜いう関係なんだろ?」


わっかんないなあ・・・と困った顔をしたノーマに
ほんの一瞬、戦場の事を忘れて、一同が同意した。