「ち〜す、フェモちゃん。がんばってる〜?」


救護テントに付くと、出迎えてくれた見慣れた姿に
ノーマは軽く片手を挙げて声を掛けた。

フェニモールは僅かに微笑んで其れに返すと
「ケガはありませんか?」と逆に気遣ってくれた。


「あ、ケガの手当てなら私も手伝うよ!
 私、さほど怪我酷くないし。」


「な〜に言ってんの。
 は、人一倍傷に気を使わなくちゃいけないの!」


「ノーマの言うとおりだ。
 にはレイナード達のブレスが効かないんだからな。」


手を上げて名乗りを上げたら、ノーマとクロエに諭されてしまう。

うっ・・・そこを突かれると言い返せない・・・・。


「むしろ、が一番に手当てを受ける必要が有りそうだな。」


「げっ、それはヤダー。
 セネルの方が怪我酷いじゃん!手当てしてもらいなよ!」


「ほんなら、嬢が先に手当て受けてから、
 ワイ等の手当てを手伝ったらええんとちゃうか?」


「まあ、モーゼスさんにしては正論ですね。」


「あう・・・」


結局、自分が先に手当てを受ける必要があるらしい。


こういうのって、何だっけ・・・


ヤブヘビ?










白いエリカの彩る夜に
動乱の大地16











「フェニ嬢ちゃんが此処におってくれると、心強いのう。」


一通り手当てを終えると、出入り口傍にあったテーブルに一同は座らされて。
モーゼスが言うと、フェニモールは慌てた様子で弁解した。


「ご、誤解しないで下さい。
 あたしはあくまで・・・」


「俺たちに何かあったら、シャーリィが悲しむ。
 だから、心配してくれてるんだよな?」


「え、ええ。そう・・・です。」


答えたフェニモールは、釈然としない答えだった。


「ねーモーゼス。セネルのアレは
 フェニモールのツンデレっぷりを分かって言ってるんだと思う?」


「どーなんかのう・・・セの字もにっぶいからの。」


隣に居たモーゼスにコソコソと話しかける。

モーゼスもコソコソ返してきて、セネルが振り返って
不思議そうにその背中を見ていた。


そこにノーマが「そ〜言えば、」と声を挟んで。


「グー姉さんは?一緒じゃないの?」


「あ、そういえば。
 の姿も見ないけど・・・・」


さんは、人形兵士の整備に当たってます。」


「あー、アイツ、手先器用だもんねえ。
 機械にも相当強いし。」


言えば、ジェイが意外そうな声を上げた。


「そうなんですか?」


「うん。の父親がそういうの専門の仕事に就いててさ。
 も昔っから機械弄り得意でね〜」


それで、グリューネさんは?


会話が途切れてから、再びフェニモールに尋ねたら
困ったように僅かに俯いて・・・


「それが・・・。
 お使いを頼んだら、それっきり・・・・」


その言葉に、思わず一同で目を見合わせた。

図らずとも、全員が全員、引き攣った顔をしている。

それについて、勘違いをしたらしいフェニモールは
「戦場とは反対の方向だから、戦いには巻き込まれていない」と
慌てて説明をしたけれども・・・。


「いやあ・・・私達が心配してるのはそっちじゃなくて・・・」


迷子になったな・・・あの人。

絶対トンチンカンな方向に向かったに違いない。

もしかしたら、お使いの目的自体を忘れちゃってたりして・・・・



「ふ、深くは考えないようにしよう、うん。」


「それが懸命だろうな」


「お腹が空けば戻ってくる・・・かな?」



自己暗示にウィルが頷き、ノーマが頭をかきながらハハハっと笑った。

完全にペットの域だと思うよ、ソレ。


話の分かっていないフェニモールは、首を傾げるばかりだったが・・・。



やがて、充分に休憩をとって息をつくと、艦橋に向かう為に一同は立ち上がった。
あまりゆっくりとしているわけにも行かない。


刻一刻と、自分たちの残り僅かな時間は削られている。


「それじゃ、行って来る。」


支度を整え入り口付近に立ち、改めてフェニモールと相向かうと、
セネルはそう言って、それを、フェニモールは引き止めた。


なんだろう?と首を傾げれば、フェニモールは胸の前で両手を組んで、
そっと呟くように、穏やかな声で言う。


「海の導きのあらんことを。」


それから、すっと瞳を開いて一同をゆっくりと捉えると微笑んでみせた。


「あたしの誠名はゼルヘス、『祝福』です。
 皆さんの無事を、祈っておきました。」


「セネセネ、『まことな』って?」


「その人の本質を示すもう一つの名・・・だったか?」


聴き慣れない言葉に尋ねたノーマに答えたセネルも
フェニモールに確認を取るような形で尋ねた。

フェニモールは、僅かに頷いてみせる。


「水の民は、全員持ってるんですよ。」


「そっか・・・んじゃ、フェニモールに祈ってもらったんだもん
 私達、ぜーったいに戦争に勝たなくちゃね!」


「オウ!」


「負けるわけには、いかないな。」


「って言うか、負ける気もないんだけどね〜」


手を叩いて言ったの言葉に受ける様にモーゼスは頷き
クロエが賛同して、ノーマが笑う。


一同は顔を見合わせて、もう一度、その決意を固めて・・・。


「ありがとう、フェニモール」


言ったセネルに「いえ・・」と返したフェニモールは
一瞬何かを躊躇うように視線を彷徨わせた。


「どうしたの?フェニモール?」


「・・・あの、お兄さん!!お願い、シャーリィを助けてあげて!
 あの子、絶対お兄さんが来てくれるって、信じてるはずだから!」



フェニモールの声音は、懇願に似ていた。

僅かに涙目になる彼女に、セネルは力強く頷く。


「ああ、任せておけ!」


その答えに、フェニモールは安堵するように微笑んだ。


「ほらほらフェニモール泣かないの。」

「な、泣いてません・・・」

「そう?」

「そうです。」

「あはは、その調子なら大丈夫そうだね」


言って微笑うに、フェニモールは不服そうではあったけれども、
結局は言い返す言葉はなかったらしい。


「・・・ありがとうフェニモール。」

「え?」

「シャーリィとセネルの気持ちを、大事にしてくれて。」


その言葉に、今度こそ一瞬、その瞳が泣きそうに歪んだけれども・・・・


彼女の金の髪を僅かに撫でてから、は振り返った。


「ヨウシ、そんじゃとりあえず、艦橋目指そう!!」