白いエリカの彩る夜に
動乱の大地17











「ほおぉ・・・」

「モーゼスさん、馬鹿みたいに大口開けてないで下さいよ。」


改めて近くで仰ぐその艦橋の姿に、モーゼスが思わずあげた
感嘆とも取れる声は、ジェイの呆れた声に消される。

再び喧嘩になりそうな二人を、「まあまあ」と
が宥める役を買って出る事でどうにか収めて。


「シャーリィがいるのは、一番上か・・・」

「・・・・。」


ウィルの呟きに、セネルが強く手を握り締める。

その時、背後から幾つかの足音がして、ハッと
身構えるように振り返った。


主戦場を切り抜けた同盟軍が、セネルたちの横を通り抜け
艦橋内へと走りこんでいく。


「ワイ等も早う、中に入るぞ」

「待て。その前に、お前たちに言っておく事がある。」


急きこむ様に言ったモーゼスに、一同が頷きかけた時、
ウィルが唐突に待ったを掛けるから、一同は何事か、と
少々顔を顰めながらも振り返り、ウィルを見やった。


「・・・俺たちは、決して一枚岩ではない。
 戦いに挑む理由は、各々違う。」


妹を助けたいと思うセネル。

祖国の危機を救おうとするクロエ。

仲間の敵を討ちたいモーゼス。

友の意思を引き継いだジェイ。


「そしてオレの願いは、遺跡船の平和を取り戻す事だ。
 ・・・このように、思いはバラバラだが・・・・。」

「ちょちょちょおっと!!?ウィルさん!!」

「ウィルっち!あたし等あたし等!!!」


そこで纏めに入るウィルに、慌てて待ったを入れるとノーマ。

怪訝そうに、ウィルが顎に当てて不思議そうな顔をする。



「・・・お前等の目的は何だったか?」


「忘れるなあ!!リッちゃんを助ける事よ!!」


「セネルと一緒か。意外だな。」


「なんでじゃ〜!!」


言うノーマに、セネルが背後から
「正確には、シャーリィのブローチが目当てらしい」と付け足して。


「なるほど。それならわかる。」


「・・・物欲か・・・。」


「むき〜〜!!
 だったらはど〜なのよ!!!」


「私?」


唐突に振られて、が自らを指差す。

そう!とノーマが力いっぱい頷いて。


「私の目的かぁ・・・」


困ったように頭を掻いた。

目的って言われると、少し困ってしまう。


「まあ、言っちゃえば
 最初はウィルさん達に頼まれたから・・なんだけど。」


「・・・それだけか?」


「まあ大体は。あとは成り行き任せって言うか・・・」


言って、あはは・・と笑って頭を掻く。

いや、あははじゃなくて。


なんてやる気概のない・・・



「うん、でもさ、最初は目的があって
 参加する事になったモンじゃないんだけどさ。」


おずおずと頭から手を離して、言葉を選ぶようにして

そんなを、皆が見つめている。



「今は・・もちろん、シャーリィ達を助ける事もそうだけど・・・
 少しでも・・・ああ、勿論みんなを含めてだよ?
 傷付いたり哀しんだりする人を減らせるようにする事が目的・・・かな。」


こんな戦いで、命を落とす人や傷付く人。

悲しみが生み出す連鎖の中に埋まる人を、少しでも減らせるように。

最初は成り行きでの、気の乗らない参加だったけれども

今は心から、そうであって欲しいと、願っている。

自分一人でどうにかなる訳じゃないし、偽善者みたいな理由だけども。


「・・・まあ結構まともな理由だな。」


「ムッカ・・!失礼だぞセネル!!!」


思わず地団駄を踏めば、それに反応を返さないうちに
ウィルが「ともかくだ、」と、話を遮った。


「思いはバラバラだが、それでも、ここまでやってきた。
 このまま最期まで、突っ走るぞ!!」


「了解!」「オウ!」「わかりました。」「うぃっす」


ウィルの言葉に、各々がてんでバラバラな反応で返すけれども。

一同の返事は、一つだった。


その中で、答えの返さない少女が一人。


セネルたちは早速中に突っ走って行ったけれども、
ノーマの事が気になって、はその場に残る。


・・・いえ、ぶっちゃけた話がここの2人のやり取りが好きなんですって言う
ちょっとばかし不純な理由もあるんですがね。


「ノーマ。」


同じくして残ったウィルが、ノーマを呼ぶ。


「何。」


おーおー、流石に怒ってるわ。

けれども、ウィルはその背後に近づいて、コソリと耳打ちをした。


「頼んだぞ。」


その言葉に、ノーマは目を剥いて振り返って。

やがて「ふ〜ん」と、意味ありげに顎に手を当てた。


「どうした?」

「・・・ちゃんとわかってんじゃん!
 おっけ、任されたよ!!」


そんな二人のやり取りに思わず微笑む
機嫌の直ったらしいノーマが振り返り、その手を取る。


「よ〜っし、そんじゃ、行っくぞおー!!」


「オッケ!
 一気に行ったろーぜぃ!」


ウィルも呼び急かす様に、皆の後を追って、艦橋内に走りこんだ。











艦橋内に足を踏み込んで。

途端に、血の臭いに噎せ返りそうになる。

けれども、其れさえも忘れるほどに、一同は目を見開いていた。


白く無機質な、艦橋内部。


ただそれを彩るように飛び散る血。

無数に転がる人の姿をした山が、内部を不自然に色付けしている。


魔物、水の民、レクサリア兵。


種族を何もかも無視した、奇怪な山だった。


その中に、先ほど自分たちの脇を通り抜けた同盟軍の姿を見かける。

・・既に息絶えている事が、遠目にだって分かった。


「お前達も来たのか。」


そんな幾つもの山の向こう。

高慢そうな女の声が響き、ハッとしたようにウィルが叫ぶ。


「メラニィかっ!」


死体の山の中央に、事も無げに立つメラニィ。

頬に、鎧に、血が飛び散っている。



「現在この艦橋は、我々トリプルカイツが
 階層ごとに守りを固めている。」


「・・・ヴァーツラフんとこ行きたけりゃ、
 全員ぶっ倒せっちゅう事じゃな。」


「その通り。だが貴様達が、他の二人を気にする必要はない。
 なぜなら、此処でくたばるからさ・・・!覚悟しな!!」


言って、メラニィが武器を構える。


十字路の両脇から現われる、幾人ものクルザンド兵。


は、ジェイの腕を少し引いた。


何だと問いたそうなジェイに、が小声で言う。


「ジェイ、あそこあそこ」


言われて追うの視線の先には、メラニィの向こう側の扉。

そして、その少し手前の、恐らく扉を操作するものであろう操作パネル。


「・・・なるほど。」


ジェイはすぐに、その意図を読み取った。


「皆さん、ちょっと。」


そして、すぐに小声で皆に指示を出す。

今は、何よりも急がなくてはならないのだから

こういう手も、仕方ない。


「行くぞ、メラニィ!!」


ウィルの言葉と共に、一同武器を構えて


メラニィに向けて走り出した。


しかし、メラニィのすぐ目の前に立った時、唐突に煙が立ち上る。


ジェイが放った煙幕だ。


その煙に乗じて、たちはメラニィのすぐ横を通り過ぎた。


扉を潜り、ジェイが操作パネルを操作する。


「くっ、貴様達・・・!!」


ハッとした様にメラニィが此方に向けて走り出す。


「ジェイ、早く!!」

「わかっています!」


此方に迫るメラニィと、扉の向こうでパネルを操作するジェイにヒヤッとして
思わず叫んだに、ジェイは言うと同時に、扉の内側に入り込んだ。


途端、ゴゴゴゴゴ・・と、重たい音と共に扉が閉まり、


「ライトニング!」

「くっ―・・・」


が、追い付いてしまいそうなメラニィに向ってブレスを放てば、
間一髪で、メラニィたちの姿は見えなくなる。


「おのれ・・・ここを開けろ!!」


向こう側から聞こえる声に「誰が開けるか!」とか、思わず返して。
ホっと、安堵の息をつく。


「これでよしと。メラニィに構っている間に、
 時間切れになったら困りますからね。」

「先を急ごう!」


ウィルの言葉に、一同が頷いた。


その先の扉を潜り抜ける瞬間、思わず「んべっ」と、
メラニィがいた向こう側の扉に向けて舌を出したら、ジェイに軽く怒られた。