白いエリカの彩る夜に
動乱の大地19









メラニィを倒して、一同は二階へ。

其処には、目の前に堂々と次の階へ行くための扉が聳え立つが、
肝心のその扉は、封印されていた。


「はい、みんな集合。扉に手ぇ当てて〜」


ノーマの指示で、それぞれが扉に近づこうとしたその時。


「そんな事をしてもムダだ。」


唐突に、の背後から声が聞こえてきて、
驚いて前につんのめった。


瞬間、先ほどが居たすぐ背後に当たる位置に
煙幕が立ち上り、カッシェルが現われる。


「な、な、なんっでわざわざ私のすぐ後ろなのよ!!!」


もうちょっと離れた位置で現われてくれたって良いじゃないの!

何故背後!何故近く!?


皆が驚きに目を剥く中で、一人別の所に驚き突っ込むに、
カッシェルが喉の奥を震わせて笑う。


・・・こいつ、実はすっごいド変態趣味だったり・・・?


フと、カッシェルの手の内で、キラリと何か、カードが光る。

怪訝そうに見つめると、カッシェルは悠然と笑った。


「其処の扉を開けられるのは、俺が持っているこのカードだけだ。
 俺が何を言いたいか、わかるな?」

「ワレを倒しゃあ万事解決、っちゅう事じゃろが。」


モーゼスが、怒りに震える肩で問う。

カッシェルは相変わらず、鼻につく笑いで自分たちを見ていた。


「貴様等に行き場はない、と言う事だ。
 森に居たチンピラ共と、同じ目に遭わせてやる。」


言うと、モーゼスの目の色が明らかに変わった。

怒り耐え切れんと言った風に、奥歯をかみ締める。


「こんのォ・・・!!」


「モーゼス落ち着け。
 カッシェルはお前を挑発しているんだ。」


セネルが止めるのも虚しく、「奴等が無様に命乞いする姿を見せてやりたかった」と
尚も言い募るカッシェルに、モーゼスの肩がわなわなと震える。


「待つんだ、モーゼス!!」


・・・・このヤロ、またピコハンの刑か。


「グラアアアァァァッ!!」と、モーゼスが上げた雄叫びに、
獲物が喰らい付いたとカッシェルが悦び、このヤロ、また我を見失ったかと、
が思わずピコハン詠唱を始める。

けれども、構えたその槍は、そっと静かに下ろされた。


「なーんての。」


言ったモーゼス。

その頭にピコっと、ピコハンが落下した。

モーゼスが頭を抱えて悶絶する。


「っ何さらすんじゃ嬢!!!」

「ああごめん、また止めなくちゃかと思って。
 ・・・ちょっと名残が。」

「〜〜〜〜大丈夫じゃ!!帰らずの森ン時と、今のワイは違う!」


まさか思いとどまるとも思わなかったのだもの。

ごめんごめんと謝れば、モーゼスがいきむ様にそう言った。

ウィルとセネルが「おお!」と感嘆の声。

カッシェルが、思いもよらぬその反応に、苦々しげな顔をする。


「・・・怒りで彷彿しそうなんは確かじゃが、闇雲に吠えても仕方ないんじゃ。
 確実にコイツを仕留めるにゃどうするか、ソイツを考えんとのう!」


言ったモーゼスは、メラニィ撃破で多少の自信が付いていたのかもしれない。


「その通りだ、モーゼス!」

「成長したじゃん。」


思わず微笑んで言えば、モーゼスは「当然じゃ!」と返して。


「これでわかっただろう。
 今の私達を、前と同じだと思うな!」


そのモーゼスの思いがけない成長ぶりに、クロエが勢いづいて言った。

けれどもカッシェルは、唐突に鼻で笑って、この状況でもあくまで冷静に言い放つ。


「ならば俺も、少し本気を出すとするか。」


瞬間、カッシェルの姿が消え、次の瞬間には
幾人ものカッシェルが、悠然と自分たちを取り囲んでいた。


「俺の通り名は『幽幻』。
 何者も、俺の姿を捉える事は出来ん。」


「げぇ・・・カッシェルがいっぱい・・・」


気付けば陰険そうな姿に囲まれているから、
が思わず顔を顰める。


「まやかしをっ!!」


「くっくっく・・・
 迷うがいい、惑うがいい。恐怖に震え、死ぬがいい!!」


「やっぱ変態だコイツ、絶対ドSだ。」


、んな事言ってる場合じゃないって!!!」


それぞれが四方の相手に武器を構え、確信めいてが言えば
焦るようにノーマ。

だってさぁ・・・

モーゼスが途方に暮れたような声を出す。


すると、取り囲まれた輪から少し外れた位置にいたジェイが
「此処はぼくに任せてください」と名乗り出た。

カッシェルが馬鹿にするように笑う。


「任せろだと?
 貴様の様なガキに、何が出来る!!」


瞬間、ジェイの目が鋭い光を帯びる。

そして自分のすぐ手前にいたカッシェルを、スっと指差した。


「そこ!!」


その先に、一筋の雷光が落ちる。


「何っ!?」


カッシェルが身構え、今まで自分を取り囲んでいたまやかしが全て消えた。


後には、先ほどジェイが指差したカッシェルのみが残る。


「分身が消えた?」

「ジェージェーすっご〜い!!」


ジェイが悠然と微笑む。

目の前で驚く男に対して、対等か、もしくは其れよりも上の位置から見下ろすかのような
そんな口調で語り掛ける。


「ぼくも、身のこなしには自信があるんですよ。
 自分と他人の得意な事が重なるのって、気になりますよね。」


「あーあ・・・また出た・・・・」


武器を構えつつも、思わず明後日の方向向いて溜め息をついてしまう。

けれどもジェイは気にした様子も無くて、
カッシェルはと言えば、むしろ、その言葉に興味を持ったようだった。


「どちらの実力が上なのか、確かめずにはいられない。
 そうじゃありませんか?」


「・・・面白い、ならば貴様の力、見せてもらおう!!」


瞬間、カッシェルは目にも留まらぬ速さで、その場から消え失せた。


「・・・・なんか、大口叩いて逃げてったみたいだよね。」

・・・」


思ったままを言ったつもりだったのだけど、セネルが、微妙に困った顔をしていた。










カッシェルとの鬼ごっこが始まって、ぐるりと階を一周する。

その実力は、確かに『幽幻』の名に恥じないものの、ジェイの方が
明らかに抜きん出た実力を持っていて・・・


・・ゲーム中も思ったんですが、この人、大分可哀相な役所だよね。

大口叩いて出てきた割にはジェイにことごとく見破られて。


プライドズタボロにされて、最終的には、結構呆気なく倒されてしまった。


嫌いじゃなかったんだけど、カッシェル。


多分ビジュアルだけ見れば、
トリプルカイツの中じゃ一番好きだったんじゃないかなーと思うんだけど。


特筆すべき点はこれと言ってないというのが、実際だった。


「これであいつ等も、少しは浮かばれるじゃろ。」


モーゼスが、カッシェルの身体を見下ろしながら呟き、
改めるようにしてジェイに向き直った。


「はい?」

「ワレはクソ生意気で腹立つ奴じゃが、仇を討てたんはワレのお陰じゃ。
 ワレがおらにゃあ、分身攻撃を見破れんかったろうしの。」

「・・・何です?この手。」


スっと差し出されたモーゼスの手を、ジェイが怪訝そうに見つめる。

いや、こうなったら普通握手でしょう、ジェイさん。


「ワレの仲間入り、認めちゃる。改めて、宜しく頼むわ。」


その言葉に、ジェイがゆっくりと手を差し出した。


「おお、二人の男が戦いを経てお互いを・・・!!」

「何で僕が、貴方なんかと握手しなくちゃならないんです?」


「「理解しあわなかったと」」


また、ノーマとハモった。


「こんの、クソガキ・・・!
 せっかくワイが感謝の意を示しとるっちゅうに!」


思わず、みんなの溜め息がそろった。

が呆れた様に息をついて、一歩前に進み出る。


「あーもう、ホラホラジェイ!!」

「は?ちょ、さん何するんです―・・・!!」

「あい、モーゼスも仕切りなおし!」

「うおっ嬢!?」


少し乱暴にジェイの腕を引っつかんで、モーゼスの手も同じく。

ほぼ無理矢理の形で、握手をさせた。


「ハイ、仲良し!」

「何するんですか!!」

「いーじゃないのよ握手くらい。懐の狭い。」

「そういう問題じゃなくてですね・・・!」

「ワイはもうこんな奴とよろしくやるんはごめんじゃ!!」

「なーに言ってんのよ、さっき改めて宜しくって言ってたじゃない。」

「さっきはさっき、今は今じゃ!」

「んな子供じゃないんだから・・・!」

「こんな馬鹿山賊と握手なんて怖気が走りますね!」

「ほーぉいい度胸じゃこのクソガキ・・!ちょぉ表に出ろや・・・!」


最終的には、始まるジェイとモーゼスの喧嘩。

・・・ああ、もう良いや、こいつ等。


「ウィルっち、やったんさい。」

「うむ。」


ゴキン、ガキン!とウィルの鉄拳が唸った。


瞬間、ゴウン、ゴウンと、何か重苦しい音があたりに響く。


「何の音だ!?」


悶絶していたジェイも、ハっとしたように顔を上げて、
音のした方向に向かう。


「・・艦砲射撃ですね。
 多分、聖ガドリア王国の艦隊でしょう。」


その言葉に、一同がハッとした。


聖ガドリアの艦隊の音が、こんな近くで聞こえる―・・・

それは、つまり。


「そんだけ、ガドリアの傍まで来たって事?」

「でしょうね。」

「オレ達に残された時間が、おそらく、僅かしかないという事だな。

「メラニィは、階層ごとにトリプルカイツが構えてるって言ってたよね。
 って事は、どうあってもスティングルと鉢合わせるって事でしょ?
 大分ヤバイんじゃないの?」

「・・・ヴァーツラフは準備が出来次第、蒼我砲を撃とうとするはずです。
 とにかく、急ぎましょう。」


その言葉に、一同は深く頷き、カッシェルから奪い取ったカードキーで、先へと進んだ。


走り出したジェイの横に、が少しスピードを落として並ぶ。


「少し見直した・・・かな。ジェイの事。」


「なんでそんな偉そうな口調で言われなきゃならないんですか。」


その洞察力がどんな風に培われたかは知ってるんだけど、
それでもやっぱり


「うん、ちょっと凄かった。」

「ちょっとですか。」

「サービスしてとっても凄かったよ。」

「いちいち言い直さなくて良いですよ・・・」


呆れた様に言われたけれど、は苦笑して軽くその背を叩いた。


「冗談だーって。
 ほんと、冗談抜きで凄かったよ。」


言ったら、少しだけ満足そうに、ジェイは肩を竦めて見せた。


「あ。それとモーゼスも。」

「あん?」

「うん、よくカッシェルを前にしても落ち着いてられたね。」


言って、エライエライと背を伸ばして頭を撫でる。

モーゼスは「一応ワイのが年上なんじゃがのう」とか、ちょっと不服そうだ。


に怒られたのが効いたんじゃないのお〜?」

「くぉらシャボン娘!余計なことは言わんでええわ!!」

「あー、あの時か・・・
 ちょっと切羽詰ってたもんで口悪くてごめんねー。」

が謝る必要はない。
 あの時は、あれ位言ってやらんとモーゼスが静まらなかった。」

「モーすけ野性の獣ばりだもんね!」

「誰がじゃ!!」


言うモーゼスに、が未だ手を伸ばしている頭を、軽くポンポンと叩いて。


「まあホラ、野生の獣からは成長したよーって事でさ、良かったじゃん。」


「頭の中身には、成長が見られませんけどね。」


「ジェー坊はほんっと一言多いの!」


そんなやり取りの中で、は声を上げて笑った。

特筆すべき点のない戦闘でも、カッシェルは死んだ。

メラニィも。

その事実を、振り払うように、今は笑った。