動乱の大地20 |
先に進めば、薄暗い部屋。 次の道を探すために辺りを見渡せば、此処よりも高い所から見下ろす スティングルの姿に気が付いた。 「・・・スティングル!!」 「・・・何故スポット?」 セネルとクロエが叫ぶのと、の疑問が丁度同時で、 ジェイに少し睨まれた。 そんな目をされても、一筋スティングルの事を照らしているスポットライトが どうしても気になったんだから仕方ない。 けれどもスティングルは、黙って此方を見下ろすだけで。 スッと、静かに手を上げる。 スティングルの後方に4つの光が落ち、 背後に控える兵を照らし出した。 「・・・ねえノーマ。 やっぱり何処かにスタッフの皆さんが控えてるのかな・・・?」 「・・・わかりましたからさん、ちょっと黙っててください。」 ノーマに言ったのに、何故かジェイから答えが返る。 でも、だって気になるじゃないっスか、あんなタイミングよく落ちて来るサススポット。 足元には、立ち位置をふった場ミリが張ってあるに違いない。 そして、絶対何処かにスタッフ用の控え室が・・・ が思わず背後を見やった時に、スティングルはあくまでも静かに、口を開いた。 「・・・奥で待つ。」 ただそれだけを残して。 「待て!!!」 クロエの声が反響する。 しかし、スティングルは踵を返しただけで、背後に控えていた兵も そのスティングルの後を追って消えて言った。 手を握り締めて俯くクロエにセネルが気付き、少し迷った後、 「クロエ、ちょっと」と、隅の方にクロエを呼び出した。 「・・・愛の告白?」 「違う!!」 思わず言ったら、セネルに怒鳴られた。 「全く・・貴女も本当に場の空気が読めない人ですね。」 「やっだ、そんなの今に始まった事じゃないじゃない。」 「ジェージェー違う違う。 は、場の空気呼んでても口挟む奴なんだって」 「ノーマ、それなんか私がすっごい達悪い人みたいに聞こえるんだけど・・・」 「仕方ないだろう、達が悪いのだからな。」 「うっわ、ウィルさんに言われると傷付く!!」 「事実じゃろうが、嬢。」 「・・・なんかモーゼスに言われると別の意味でへこむ・・・」 「まあ、それについては心中お察ししますが・・・・」 「どういう意味じゃ!!」 残された5人で、仕方ないから会話に盛り上がる。 セネルとクロエは、二人で話し込んでいて・・・ 「あー・・・申し訳ないんだけどさ、」 「ん?」 「これしか離れてないから、会話が筒抜けって言うの、 教えてあげた方がいいんだと思う?」 「いやー、これはこれで面白いし、良いっしょ。」 デバガメ根性ですね、ノーマさん。 そうこうしてる内にも、「お前の傍にはいつだって俺たちが〜」とか、 なんかこっちが赤面しそうな会話がなされていて・・・ ごめん、聞いてるこっちが恥ずかしい・・・ クロエが何か、頷く動作をしたときに、ようやく2人が、こちらに気付いた。 「「あ。」」 全員、無言だ。 まあ、全部聞こえちゃってましたしね。 結構、隅から隅まで。 馬鹿なお話してても、結構。 「こ、これはだな・・・」 慌てたように言い繕おうとするクロエに、 ノーマが「だいじょ〜ぶ!」と明るい声を掛けた。 「あたしら此処まで、連戦連勝だもん! あんな仮面オヤジ、よゆ〜よゆ〜♪」 「まあ、セネルのくっさい台詞はどうかと思うけど。 平気だって!背後はバーッチリ、私が守ってあげっからさ!」 も、続くように言って、ガッツポーズを作る。 クロエは、一瞬呆けたようだったが、すぐに微笑んだ。 「・・・そうだな!」 それから、此方に近づいてくるセネルとクロエ。 クロエの事はまあ見送って、ノーマがセネルに近づく。 「・・・なんだよ。」 罰が悪そうに、セネル。 「やるね、男の子!」 「は?」 セネルは全くわかっていないようだったけれども。 がクスクス笑えば、尚の事怪訝そうで。 「よお〜し、みんな、気合入れていこ〜!!」 「おうっ!!」 「・・・さん、ちゃんと歩いてくださいよ・・・」 ジェイが言って声を掛けるが、からの答えはない。 「あはは・・・本当に、高所恐怖症なんだねぇ・・・」 呆れた様に、ノーマが言う。 忘れてた・・忘れてたよ・・・!! 此処から先は、この下が筒抜けて見える網網の上を通らなくちゃならないなんて! 忘れてましたけど何か!!? 「・・・まさかとは思いますけど、此処から先ずっと ぼくにしがみ付いているつもりじゃないでしょうね?」 動きにくいんですが、とジェイ。 そ、そんな事を言われましても・・・!! 「そう言えば、前回はそれで、シャンドルが大変な目に遭っていたな。」 「な〜に言ってんのよ? 美味しい思いだってしてたじゃん〜。」 「だっ・・・あれは不可抗力じゃ!!」 プラマイゼロじゃん、とノーマが言うのに、モーゼスが弁明して、 何の事かと首を傾げればノーマがカラカラと笑う。 「巨大風穴ン時!ってば昇降機に乗れなくってさー。 最終的にモーすけに抱きついてたんだよね〜」 「その後も、が騒いで大変だった・・・」 「地面に足をつけたときは、本当に安堵したな。」 皆が口々に好き勝手言っている。 クソゥ、人が言い返せないと思って・・・! 「・・・何してるんですか、一体貴女は・・・」 呆れた様に言われて、言い返す言葉も無くジェイを見返す。 もう何を言い返す気力も無い。 「・・・いっちょ、ワイが担いでっちゃろうか。」 「あまり関心はせんが時間もない。そうした方が良いかも知れんな。」 「い、いいよ!それはいい!!」 流石にそんなとんでもない事はさせられなくて、必死に首を振った。 「時間がないんだ、諦めてもらうぞ。」 言って、セネルがジェイからを引き剥がし腕を引く。 「い、良いです良いです歩きますから!! ちょ、ちょっと腕貸してくれたりさえすれば頑張るから!!」 流石に担がれるのは勘弁!! 「・・・腕?」 怪訝そうなセネル。 「あーもー、いいや、うん。後が怖いけどセネルで良いよ、もう。」 あとでシャーリィとかクロエとか怖そうだけれども こんっな処でもう人と人の間の行き交いをしたくない。 は何処か慣れた手付きでセネルの腕に抱きつく。 一同がぎょっとするが、一々構っちゃいられない。 こんなトコで、自分のせいで時間食うわけには行かないのだ。 「戦闘になったら離れるから! こうすればまだ足元見なければ、少しは・・・」 行ける、と、思う。 「・・ええのうセの字。」 「は?」 「あー、モーすけの事はいいからいいから。」 「・・・本当に、それで平気か?。」 「えーっと・・・まあ、多分・・・・。」 歩けるとは思います。 が青い顔で頷くと、ウィルは僅かに顎を引いた。 「・・仕方ない、セネル、腕を貸してやれ。」 「なんでオレが・・・」 「その体勢でが定着しているからだ。 時間がない、行くぞ!」 言ってウィルがその会話を其処で打ち切り、 一同が、出来る限りで走ったりしながら進む。 最初はぎこちなく動いていたセネルも、それでも時折は 「大丈夫か?」とか「少しスピードを上げるぞ」とか、気を遣って 話しかけてきてくれた。 足元はどんどんと地面から離れるが、 そのお陰でほんの少しだけ、恐怖心が薄れたのは確かだった。 「・・・どうかしたか?ジェイ」 「・・・何がですか?」 「眉間に皺がよっているぞ。」 道中にウィルに話しかけられて、ジェイが怪訝そうな顔をする。 そして、眉間に手を当てて指摘されると、慌てて、その顔を隠した。 「・・・・馬鹿馬鹿しい。」 そう、誰にとも無く呟いて。 次に面を上げたときには、ジェイはいつも通りに変わりが無かった。 |