動乱の大地23 |
シャーリィには、どうにか自分のブレスは掛かった。 けれどもステラには、本当に僅かにしか効いていない。 駆け出したセネルに、もその後に続き、更にその後ろを ジェイたちが続いた。 「ステラ・・・ステラ・・・!!」 セネルがステラの横に膝をつき何度も何度も呼びかける。 横たわる、2つの白い身体。 床に乱れる金の長い髪。 罪悪感との別れになったかつての想い人との再開に セネルは一体、何を思うんだろう。 「う、う・・ぅん・・・」 セネルの呼びかけに、最初に答えたのはシャーリィだった。 僅かに呻き、その瞳を虚ろに持ち上げる。 「シャーリィ、しっかりしろ!!」 ハッとした様にセネルがシャーリィの顔を覗きこむ。 シャーリィが、呟くかのように「お兄ちゃん・・・」と、その名を呼んだ。 ウィルが、ホッと息をつく。 「気が付いたか。」 セネルが少し泣きそうになりながら名前を呼ぶと、 シャーリィはほんの少しだけ、微笑んだ。 「お兄ちゃん・・・助けに、来てくれたの・・・?」 「ああ、もう大丈夫だ。悪夢は終わった。」 「お姉ちゃんは・・・?」 やがて意識もハッキリとしてきたのだろう。 ハッとした様に目を見開く。 「そばにいる。ちゃんと生きてる。」 「よかった・・・」 セネルの言葉に、目じりに涙を溜めながら、 シャーリィは息を付いた。 苦しかっただろう、この子も。 たった一人で、よく頑張った。 ステラさんも、辛かっただろう。 ずっと長い時間を、一人悪夢の中で生き抜いて―・・・ ―― ブォン!! ほっと、も息をついた時、唐突に背後の装置が再び稼動を始めた。 ハッとした様に振り替えれば、先ほどの様に機械音を放ちながら 禍々しい光を放っている。 「何でまだ装置が動いとるんじゃ!? ジェー坊・・・嬢でもええわ!何とかせえ!!」 「無茶言わないで下さいよ! 僕だって、どうすればいいのか・・・」 「っ何で・・・私、ちゃんと止めたよ!!?」 焦ったように途方に暮れたジェイ。 が、慌てたようにパネルに手を付く。 その時、その目の前にある操作パネルに再び一文字ずつ、文字が現われた。 「これは・・・文字、ですか・・・?でも、一体何の・・・・」 ジェイの言葉。 ノーマたちも首を傾げた。 ジェイが知らなくて、当然だ。 けれども自分は、あくまでもこの文字を、知っている。 自分と、そして同じ世界から来ただけが、知っている。 「愚か・・・なる・・・」 「読めるんか、嬢!!」 「ちょ、ちょっと待って。少し文字に特徴があって・・・えっと・・・」 ハッとした様にモーゼスに言われて、が慌てて答える。 パネルに表示される文字は少し崩したように独特な形をしていて 読み解くのに、時間が少し掛かった。 「愚か・・なる、人間・・・・に・・・制裁、を・・・・ 契約は・・・交わさ、れ、た・・・偽りの――影」 そう、読み上げた瞬間だった。 腕に、ひやりと何かが絡んだ。 「―――え・・・」 「さん!!」 それは物凄い力でを引き、同時に、頬に、肩に、足に。 水が、触れる。 パシャンっと、薄い水の膜を割る音が聞こえて。 「っちょ、ちょっと・・・!!」 気付けば、自分はその、卵の球体の中に居た。 驚いて内側から球体に触れるが、それは硬質なガラスの様な素材で 先ほどの様な柔らかな水の感触なんて、少しだって無い。 「さん!!」「!!」 「嬢!!」「・・・・!!!」 ジェイが、皆が、慌てて近寄る。 ガラスに触れて、焦るようにその球体を幾度も叩く。 ダン!ダン!!と、それは内側に振動するが 全くもって壊れる気配も、何も無い。 「ジェー坊、さっさと装置のフタ開けんか!!」 「っ無理ですよ、先ほどの文字が現れてから 装置は制御不能になってます!!」 「くっ・・・壊せないのか・・・!?」 クロエが顔を歪めて、剣を振りかぶる。 そして、叩きつけるように球体に刀身が当たるが その白銀の刃が触れた瞬間、球体が発光し、クロエの体が 見えない力によって吹き飛ばされた。 「きゃああぁっ!」 「クロエっ!!」 地面に伏せたクロエは、しかししっかりした様子で起き上がり ほっと息をついた瞬間に、彼女の握っていた剣が、高い音を立てて砕けた。 「え・・・?」 信じられない、そんな様子で、自らの剣を見つめるクロエ。 そこに居た誰もが、驚きに目を見開いていた。 「――――っぁ・・・・」 瞬間、が低く呻いた。 急激に、体の中が冷えていくのを感じた。 体の中に、ヌラリと何かが注ぎ込まれる。 そんな感覚に捕らわれる。 これは・・・ 雪花の遺跡の時と――――同じだ。 「あ、や、やだ・・・いや・・・」 ガクガクと、体が震える。 無意識の内に、未だ変色したままの左腕を押さえていた。 なんで? そんな思いが思考を占める。 雪花の遺跡の時だって、そうだ。 あれはメルネスであるシャーリィにしか動かせないはずだった。 けれども、装置が意思を持つかのようにを捉え、 から何かを奪うように、起動した。 今だって、同じだ。 水の民の命を以ってしてでしか エネルギーの充填をを行えないハズの、蒼我砲。 それがまるで、意思を持つようにを捕らえて―・・・ ―― 球体が一際に強い光を放った・・・ 「―――ぁ」 極限まで見開かれる瞳。 仰け反る身体の形が、奇怪だった。 「うあああアアぁあぁぁああァぁアあぁッ!!!」 ガクガクと、の体が痙攣した。 装置の機械音がより一層重く響き、ヴヴヴ・・・と、断続的な音に変わる。 身体に圧力が掛かり、痺れるかのような肌を刺す痛みが身体を上から押し付ける。 電撃の様に、体の内部を揺さぶり、ゴロリとした何かが幾つも 血管を伝い体の中を廻っているようだった。 頭が、心臓が、痛い。 脳髄を直接に掻き乱されるような、 心臓を鋭い爪で圧迫されるような感覚。 音が、聞こえない。 ジェイが、激しく球体を叩いて叫んでる。 自分の口から漏れる悲鳴が、耳障りだった。 喉が痛い。 断続的にあげる、自分の悲鳴のせいだ。 「や・・・・だ・・・・」 食いしばる奥歯から漏れたのは、まるで獣の呻く声のようで ――― 私に・・・・ 遠退きそうな意識を繋ぎ止めて、首を振る。 止めて・・・ やめてやめてやめてヤメテヤメテヤメテ・・・・!!! 「嫌だあああぁぁあぁァァ・・・・ッ!!!!!」 ――― 私に、ステラさんを殺させないで・・・・!!!! 瞬間、光の弾ける音を聞いた。 ブツンっと、何かが頭の中で、重たい音を立てて切れる。 の身体が、冷たい床の上に放り出された。 ![]() ・・・これで、ヴァーツラフの話は終わりになります; 尻切れトンボですごめんなさい;; 元々は前回のお話と一つに纏められていたのですが 流石に長すぎるので、二分割です^^; ステラさんのイベント・・・重要箇所だとは分かっているのですが 話の流れ的に省略という形になっていますllorzll 謎掛け的な伏線を張ったお話を作るのが好きで、 此処で新たな謎発覚、と言う風になっています。 本編終了時には解ける謎もあれば、連載終了間近まで解けない謎もあります。 宜しければ、お付き合い下されば嬉しいです^^; ![]() |