黄金の光が、散る。 煌々と光る其れは砕けて、その断片が一枚一枚 羽根の様に、優しく降り注いでくる。 暗闇の中、そんな光景を見つめていた。 「・・・ステラ・・・さん・・・?」 この光は、ステラさんだ。 ステラさんの命、そのものだ―・・・ 「ごめん、なさい・・・」 私は、貴女を殺してしまった 知っていたのに、救い出す事もできなかった、 それどころか、私が、貴女を―・・・ 光が優しく、私を呼んだ。 優しく優しく私を呼んで 光の羽根が、そっと涙を拭うように舞う。 ―― あの2人を、助けてあげてね 祈るようなその声が、彼女のものだと気付いたのは 全ての羽根が散り終えた、その後だった。 |
覚醒1 |
全てが、終わった。 遺跡船と精神を同調させ、セネルとシャーリィを守ってきたと言った少女は、 蒼我砲を止める為にその力の全てを使い果たし、息絶えた。 妹と大切な人とを守り抜いたその人は、最期まで強い女性で。 その少女の死と共に、戦争は終わりを告げる。 メルネスの死守は、この戦争の一番の功績であった―・・・ 救えた少女と、救う事のできなかった少女と。 事は終わったはずなのに、疑問と後悔とが重なり、 何も解決していない様な気にすらなる。 「さん・・・」 艦橋から連れ出すためにジェイが抱き上げたその身体は、 比喩等ではなく氷の様に冷たくて。 指先すら極限まで仰け反らせていたためか、筋肉が少し強張っていた。 その身体を揺さぶり幾度も呼びかけるが返事は無く、 外に出た今でも、瞳は虚ろなままで、瞳孔が開ききっている。 背負われたその身体はグッタリと背中にも垂れていて 人形の様な姿に、本当に生きているのかさえも不安になる。 僅かに震える肩だけが、彼女の生存を教えてくれていた。 それから、二週間。 は未だ、目覚めない。 フェニモールの案内で、水の民の里に行く事になった。 身体的外傷も勿論だが、蒼我砲のエネルギーとして生命を奪われた為 精神的にも傷付いているは目覚める気配を見せず、 仕方ないので、せめて街を出る前に病院に寄って、 様子だけ見ていこうと言う事になった。 「・・・どうしちゃったんだろうね。」 病院に行く道中、ノーマがぼやく。 しかしそれは、その場にいた全員の代弁でもあった。 自分はその場にいなかったが、雪花の遺跡でも、同じような事があったらしい。 未だに変色したままの左腕は、その名残だそうだ。 メルネスや、水の民にしか動かす事の出来ない装置。 それを動かす、水の民ではない少女。 「・・・嬢が異世界から来たってのと、関係しちょるんかのう」 モーゼスの言葉も、イマイチ的を得ていない気がして、 謎の解決は、現段階では望めそうに無かった。 ボトルの刻印がなされる橋を渡り、病院の扉を開く。 病院内はひっそりと静まり返っていて、以外は その病院内に誰も居ないことが知れた。 「医者はいないのか?」 セネルが、あまりにも静まり返った院内に呟くが、 状態を知る者がいないのだから、現状見たとおりに捉えるしかない。 「おかしいですね、ピッポ達に さんの看病を頼んであるはずなんですが・・・」 ジェイが怪訝そうに眉を顰めると、 唐突にバターン!と二階の病室から扉の開く音が聞こえて。 静まり返っていた院内に油断していたセネル達は、思い切り肩を揺らした。 何事だ!?と言う暇もなく、二階から聞こえてくる声に、一同は顔を見合わせた。 「だ、駄目だキュさん!まだ寝てたほうが良いキュ!!」 「だいじょ〜ぶですって!」 「急にいなくなったら、お医者さんがビックリするキュ!!」 「患者が居るのに居なくなるのが悪い!」 いや、そりゃ確かにそうなんだけど・・ 階下でその声を聞きながら、何だか呆然と思ってしまう。 その声が聞こえてくるのが、あまりに当然のようで。 そして、その当然な声が、あまりに当然にいつも通りで。 少し、気抜けする。 「だああぁもう、なんでこんな体中ビキビキ言ってるかなぁ・・・!」 「当たり前でしょう、生命力を吸われたんですから。」 フっと階段の向こう側に見えたその姿に、思わず声を掛ける。 ハッとした様に、が自分達の方を見た。 本当に、いつもと何ら変わりなく。 ここに運ばれ入院するにあたって、クロエとノーマに服を着替えさせられて 黒のタンクトップにホットパンツという何ともラフな出で立ちだし、 髪だって下ろされたまま、まだ寝乱れているけれども。 その姿は、至って元気そうだった。 「あ、あれ、どうしたの、皆様お揃いで。」 心底不思議そうに、首を傾げるが、上からこちらを見下ろして。 「どうしたの・・じゃ、な〜いっ!!」 階段を駆け上がったノーマに、思いっきりタックルを喰らった。 「・・・・あれから二週間ですか!!?」 とにかく、どうにかこうにかに部屋に戻ってもらって。 って言うか何でそんな強行突破で病院出ようとしてたんだと尋ねたら 「いや、皆に置いていかれたのかと・・・」と、何か明後日な答えが返って来た。 そんな様子に半ば呆れ返りつつも、戦争が終結した事、この二週間の事、 色々な事話してやれば、彼女の第一声はそれだった。 当然と言えば当然だろう。 「そ、それは・・・ご心配をお掛けしまして・・」 「まったくじゃ!もう起きんのじゃないか冷や冷やじゃったわ!」 「う、ご、ごめんなさい・・・」 モーゼスに言われて縮こまる。 そんなに「でもまあ、元気そうで安心した」とセネルが言えば 少し困ったようにが笑い返して。 「身体は大丈夫なのか?」 クロエに聞かれると、大きく頷いてみせる。 「もう全然!ずっと寝てたせいか、ちょっと肩が凝ってるくらいで。」 言って首筋に手を当てて少し傾けると、バキ!と、大分小気味良い音がした。 うわっ、とノーマが少しその音に引いて、「失敬な」とが顔を顰める。 「あとは体中が少し筋肉痛かな。 二週間経ってるなら治っててもいいと思うんだけどねぇ。」 言いながら軽く伸びをして、「恐らくただの筋肉痛ではないからだろう」と ウィルに言われると、不思議そうに首を傾げた。 「・・・蒼我砲に捕らわれ生命力を吸われた事で 肉体が限界まで疲労したのだろう。その反動が体の痛みなら 治りが悪くても無理はない。」 「死ぬ間際だったのだからな。」 「・・・え、ちょっと何、私そんな危ない状況だったの?」 「「「 大分 」」」 素朴な疑問に全員から一斉に答えが返ってきて、 「うわ・・・」とか、顔を顰めた。 其れくらいの自覚はしておいて欲しい。 ジェイが溜め息をつくと、 が慌てて「ご、ごめんってば!」と謝って来た。 「そ、それであの、みんなはこれから、どうするの?」 「おうっ、ワイ等はこれから水の民の里に行くんじゃ。」 「・・・水の民の?」 あれ以来元気がないシャーリィに会いに来てやって欲しいと、フェニモールに頼まれ これから水の民の里まで出向く所だ、と説明すると、は身を乗り出した。 「私も行く!!」 「駄目だ」 「即答ッスか」 当たり前だろう、と呆れた様に言うセネルに 「なんで駄目なのよー」と口を尖らせる。 「あのな、お前本当に―・・・」 話聞いてたのか? そう問おうとしたら、唐突に病室の扉が開いて。 今度こそ何事だ!?と言って振り返れば、キュッポとピッポが、走りこんできた。 ジェイが待ってました、とばかりに2人に近づいて。 「おかえり、ピッポ、キュッポ。 それで、どうだった?」 「問題ないそうだキュ!」 「こっちは、頼まれてたものだキュ!」 「?・・何の話だ?」 キュッポに渡された小包を受取りながら、意味不明な3人の会話に クロエが首を傾げて問う。 振り返ったジェイは、ニッコリと笑って。 「さんの事です。」 「嬢の?」 「ええ。」 そして、まるでもったいぶるかのようにのベッドまで近づき 一拍置いてから、再び皆を見た。 「さんの事ですから、どうせそう言い出すだろうと思いまして。 キュッポ達に、さんが目覚めた事をこの病院の医者に知らせてもらいました。」 「!それで、どうだった?」 「大きな怪我があるわけではないですからね。 目が覚めて元気があるなら、退院して問題ないそうですよ。」 セネルに先を促されて答えたジェイの言葉に、モーゼスが握り拳を作る。 「よっしゃぁ!そんなら問題もないの!の、セの字!」 「・・・まあ、医者が良いって言うんなら、良いんじゃないか?」 「やったじゃん。 さっすがジェージェー、の事よっくわかってんじゃ〜ん!」 「ま、付き合いも短いとは言えなくなってきましたからね。」 肩を竦めて答えるジェイ。 なんか、呆然とした様子でジェイを眺めていたに、 ジェイが先ほどキュッポから受取った包みを投げて寄越す。 慌てて受け取ったそれは、妙に柔らかくて バフン!と、空気の弾ける音と共に手の中に納まる。 何これ?と目で訴えるに、「と、言うわけですので」と ジェイは普段通り、ポケットに手を突っ込んで何の気なさそうな様子で の質問に答えるよう、言った。 「とりあえずは、服を着替えて準備をして下さいよ、さん。」 |