打ち捨てられた地で2 |
「水の民との戦争!?」 思わずが上げた声に、ジェイがシーっと、口元に指を寄せる。 慌てて口元を押さえたに、呆れた息を吐き出す。 ジェイに呼び出されたは、今は噴水広場まで来ていて・・・・ 確かに、こんな所で無駄に混乱を招いては危険だ。 「早急に準備を進めるようにとの指示が出ました。」 「指示って・・・そんな、こっちは爪術だって使えないのに・・・」 勝ち目があるとは思えない。 言うに、ジェイも同じようにして頷いた。 「けれども、手をこまねいている訳にもいかないのは事実です。」 「そりゃ・・そうだけど・・・・」 「それに、現に街の外では、カカシ部隊が集結を始めています。」 「カカシ部隊って・・・ワルター!?」 を街に逃がしておいて、何て真似をするんだ、アイツは・・・ けれども、同時にハッとする。 ワルターが街の外を囲っているなら、と約束した 『海が光る時』まで、街が襲われることは無い。 思わず唇を噛みしめると、ジェイが落ち着かせるように言う。 「今はまだ、彼等は手を出して来れないと思います。 ・・・導きの森の魔物達が、街の外の守りを固めてくれているんです。」 「!みんなが・・・・?」 「ええ。 ・・・・確か、ワルターさんが導きの森の番人と、呼んでいたそうですが・・・」 「・・・うん。なんなんだろうね・・・一体。」 訳のわからないことが多すぎる。 問題提起は幾つだってされているのに、どの問題に手をつけても まるで解ける気がしてこない。 「・・・さん。」 「ん?」 「・・・・恐らく、これから僕達はシャーリィさん達と戦う事になります。」 「・・・うん。」 「セネルさんがなんと言おうと、それは変わりません。 アチラがその気なんですから、こちらがどんな行動に出ても それを変える事は、なかなか難しい。」 「・・・だね。」 「さん。」 「はい?」 「貴女は、それで本当に、大丈夫ですか?」 ジェイのその言葉の意味を図りかねて、が怪訝そうな顔をする。 「貴女はつい先日まで、人を殺める事すら知らなかった。 それに今回は・・・貴女と言葉を交わした事もある相手を・・・殺める事になります。 それはおそらく、貴女が考えて居るよりもずっと重い。」 「うん。」 「・・・今回は、以前の様な参加の強要はしません。 もし、嫌だと言うのなら・・・」 「・・・無駄だよ、ジェイ。」 ジェイの言葉は最期まで続かなかったけれども、は首を横に振った。 そして、肩を竦めて、言う。 「水の民は、人類全体を滅ぼそうとしてるんだし、 何処に逃げたって、それは無駄だよ。」 「・・・・・。」 「それに、私はまだ、爪術が使える。まだ、戦える力を持ってる。 ・・・・私、ジェイに止められたって着いてくよ?絶対に、着いてく。 今回は、流されて決めた事じゃない、私が決めた事なの。」 前回の戦争の様に、何と無くその場の流れで、とは違う。 「・・・・ステラさんは、命を張って、この世界を守った。 今あるがままのこの世界を、守ったの。 ステラさんはシャーリィの力を『みんなを幸せにするための力』って言った。 皆って、水の民だけ?・・・・きっと、違うよね。だったらきっと 自分の命を全て使って、蒼我砲を止めたりなんかしない。」 「・・・・・・。」 「・・・・私、正直言ってちょっと許せない。 自分のお姉さんが、命を賭してまで守ったこの世界を シャーリィは簡単に壊そうとしてる。 自分の愛する人が居るこの世界を、シャーリィは壊そうとしてる。 お姉さんが希望を託してくれた力を使って。」 それって、哀しいよ、すごく。 「・・・きっと、私達はさ、まだやれる事を最期までやりきってない。 水の民の事も、自分自身の事も。だから、こんな事になって納得が行かないんだよ。 ・・・だったら私、納得が行くまでやるよ。私だって死にたくないし、 この世界に死んで欲しくない人も出来た。 これってさ、きっと自分たちの手で決着を付けないといけないんだと思う。 他人任せで、流されるだけで・・・・もう、何も出来ないのは・・・嫌なんだ、私・・・・」 ステラを失い、フェニモールを失った。 自分の目の前で、何も出来ずに。 それが、そんな不甲斐ない自分が、許せない。 「・・・・だから、私も行くね。 最期まで、みんなと一緒に戦いたい。」 「・・・・言い出したら聞きませんね、貴女も。」 「うん、結構強情っぱりだよ、私。」 「まったく、途中で音を上げないで下さいよ?」 言ったジェイは、ほんの少しだけ、笑った。 も、同じく笑い返す。 「・・・ともかく、僕達はこれから、爪術が使えなくても戦わなくてはなりません。」 「だね。私一人だけじゃ、出来ることにも限界が―・・・・」 ジェイの言葉に、頷いた瞬間だった。 ―――・・・・・。 「「!」」 ジェイとが同時に目を見開いた。 ――― ・・・・・・・。 「っ声・・・・が・・・・」 声が、する。 今まで、嘘みたいに静かだった声が。 けれども、今度のコレは、まるで別物の様な―・・・・ ――― 灯台へ・・・・ 「灯、台・・・・・・」 「!灯台が、どうしました?」 「う、うん。えっと・・・いつもの声が・・・灯台に行けって。」 急きこむ様に聞かれて、が戸惑いつつも言う。 すると、ジェイが顎に手を当てて、「奇遇ですね・・・」と。 「え?」 「・・・僕も、灯台に行かなければと思ったものですから。」 「・・・・・・・。」 「行って見ますか?」 「ですね。」 が頷いて、満足そうにジェイが笑った。 灯台の元に行けば、そこにはただ、ぽっかりと開いている灯台があって。 「!信じられない・・・灯台が開いてる・・・!?」 ジェイが驚いたように駆け寄る。 「えーっと・・・そんな驚く事・・・なの?」 「そりゃそうですよ・・・! 貴女、この世界の事知ってるんじゃなかったんですか!?」 「いや、知ってるんだけどさ・・・・」 この辺りって結構色々な事があったから、あんま覚えてないのよね。 あはは・・・と頭を掻けば、ジェイは呆れたような顔をした。 「お前たち、何をしているんだ?」 フと、背後から声を掛けられる。 驚いたように振り替えれば、ウィルが立っていて、 同じように、灯台の扉が開いている事に驚いていた。 「っていうか、ウィルさんはなんでまた?」 「うむ。何と言っていいのかわからんのだが 何故か、此処に来なくてはならん気がしてな。」 「ウィルさんも・・・ですか。」 「という事は・・・」 「ええ、まあ。」 ジェイが肩を竦め、肯定する。 「おや、ウィルっちにジェージェー、まで。 何やってんの?」 その時背後から声がして振り返る。 ノーマにセネル、クロエにグリューネが立っていて、 こちらに歩み寄ってきた。 「それが・・・」 「何故か、此処に来なくてはいけないと、思ったもので。」 その言葉にクロエ達が顔を見合わせて、「お前たちもか?」と 意外そうな声音で尋ねてきた。 「ってー事は、やっぱクロエ達も?」 が問えば、セネルが「ああ」と頷いた。 ウィルが驚いた顔をすれば、ノーマが更に驚いた顔で走り出す。 「あれ・・?うそ!灯台の入り口が開いてるよ!!?」 「・・・ちょうどジェイ達と、それについて話していたところだ。」 「僕達がここに来た時は、既に入り口は開いていました。」 信じらんない・・・とノーマ。 そんなに驚く事なのかとセネルが不思議そうに言えば ノーマがビックリだよ!大ビックリ!!と、両手をバタバタさせた。 「・・・灯台の入り口は、今まで誰も開けた事が無かったんですよ。」 「・・・あのー、なーんで私に向って言いますかね。」 「さあ?何ででしょうね?」 思い切り自分に言い聞かせるように言われて、不服そうに申し立てれば 悪戯っぽく笑われる。 ・・・・くそう。 「ししょーの記録にも、爪術の力じゃ開けられそうにないって・・・」 ノーマが呟きながら扉に近づく。 「それで?もう中に入った?」 「これからだ。」 「よおおし!早速みんなでゴ〜!!」 握り拳を突き上げたノーマに、クロエが「張り切ってるな・・・」と 呆気に取られた様な声を出して。 「でもアイツ、目的を見失ってないか・・・?」 「目的?」 「ん?ああ・・・」 が首を傾げれば、セネルが口早に説明をしてくれた。 わからない事を全て知る為に。 それが、彼等の目的。 「ギャヒーーーーーーーーー!!!!」 「・・・・は?」 その説明に納得しかけた時、更に騒々しい声が聞こえて。 思わず一同、振り返る。 血相変えて走って来たモーゼスが、自分の目の前で自分の足に躓いて・・・ 「ぎゃっ!!?」 を巻き込んでズッコケタ。 「あ〜あ。うるさい人がいなくて、折角快適だったのに・・・」 「重い〜! なんで私巻き込むのよバカモーゼス!!!」 ジェイも見てないでこの人退かして! 言うけども、ジェイは全くもって聞いてない。 クソゥとか思いながらモーゼスの下でジタバタすれば ようやく重たい障害物が退いてくれる。 「で、血相変えてどうしたのよ、」 が立ち上がって、砂を払いながらムスっと尋ねる。 ・・・折角新しい服なのに、汚れたじゃんか。 「どうもこうもないわ! 街の外に出た途端、カカシの大軍に出くわしてのう!」 「ッていうか、なんで外に出ようと思ったのやら・・・」 この状況で外に出たらどうなるか位、分かろうものに・・・ が呆れた様に言えば、 モーゼスはちょっと声を上ずらせながらスルーして。 「それで?」 「オ、オウ。ワイの大活躍、見せちゃりたかったわ。 寄ってくるカカシ共を、次から次へと千切っては投げ・・・」 「要するに、一方的にやられて、ほうほうの体で逃げてきたんですね?」 あっはっは、ジェイさんそれ要してないです全然。 モーゼスが固まって、「はい図星っと」とノーマに呆れられる。 「見え透いた嘘は時間の無駄です。 で、どうして此処へ来たんですか?」 ジェイが言うとモーゼスは少々言いにくそうにしながら 「此処へ来にゃあいけん気がしてのう。」と、今までの皆と同じような理由を述べた。 「やっぱ、その理由なんだね。」 言った。 ジェイに目配せすれば、ジェイは僅かに頷いて。 「あのさ、」 「ん?どうした?。」 「・・・うん・・・ 実はさ、私、この世界に来た時からずっと声が聞こえるんだけどね、」 「えー、頭大丈夫・・・?」 「大丈夫です!・・・んで、その声、シャーリィがメルネスになってから その声が聞こえなくなってたのよ。」 「ああ、あの時に何か話していたな。 もうに話しかける必要はなくなった・・・とか。」 「そうそうそれ。・・・ウィルさん、よく覚えてるね・・・。 ・・・で、さっき唐突に、いつもの声が聞こえて・・・」 「声は、何だと?」 「灯台の元に集まれって。」 その言葉に、一同が顔を見合わせた。 「・・・つまり、私達を呼んだのは・・・」 「私がいつも聞いてる声・・・・だと思う。」 「で、その声に呼ばれてきてみたら・・・・って事だね。」 ジェイとが、同時に頷く。 そして、セネル達の背後にある、灯台の入り口に目をやった。 いつも硬く閉ざされていた入り口。 今では、その先に繋がるように、黒くぽっかりと空いている。 「・・・とにかく、灯台の中に入ってみましょうか。」 ジェイが、言う。 一同が、顔を見合わせて、力強く頷いた。 |