ジェイの話によると、爪術が使えるのは地下空間の中だけ、という見解のようだ。

砂浜で腰を落ち着けた一同は、それでもまだ、全く使えないよりはマシだ、と
口を揃えて言った。

爪術士にとって、爪術の力が己の拠り所の様な面があるのだという。


誰にでも出来るものではなく、自分が自分である証。


ノーマは、そんな風に言っていた。


そんな話をしていた最中に、また、声が聞こえた。


曰く、『火のモニュメントにて、』と。



「火の、モニュメント・・・」


「え?」


「火がどうしたって?」


「えっと・・例の声が・・・」



が呟くと、驚きと僅かに確信を孕むような声音で
セネルが問い返してきて、正直に答える。

ノーマが、言い難そうに視線を彷徨わせながら僅かに呻いて
少し手を上げて「ねえ」と、声を掛けた。


「こんな事言うと変って思われるかもだけど、
 あたし、その場所に心当たりある気がする。」


「ノーマもか?」


「『もか』って・・・セネセネも?」


ノーマが尋ねれば、一同は軽く顔を見合わせた。

その表情からは、其々が其々、同じである事を示していた。


「全員が、同じ光景を頭に思い浮かべていたと言うのか・・・?」


「信じられない・・・どうなっているんだ・・・?」


クロエが呟いた呟きに、皆が同意の意思を示して。


「・・・言い合っていても仕方ありませんね。
 一先ず、この地下空間を少し調べてみませんか?」


ジェイが提案する。

異議を唱える者は、いなかった。








白いエリカの彩る夜に
打ち捨てられた地で4












「姉さん、事件です。」

「誰ですか、何ですか唐突に。」


地下空間を探索し始めて、約数分。

が唐突に発した言葉に、ジェイは真っ先に突っ込んだ。

突っ込んだけれども、すぐに、溜め息をつく。


「まあ、大体の察しは付きますけれどね。」

「うーん・・・ど〜しちゃったんだろ〜ね、ってば本当に・・・」

「あは、あはははは・・・・」

「・・・・・爪術・・・使えないのか?」

「・・・・・・・うん。」


セネルに率直に聞かれて、は素直に答えるしかなかった。


地下空間を探索し始めて、約数分。


約数分で判明した事。


自分、此処では爪術が使えません。


「何でだあぁ!!!!」


思わず、が両手を空に突き上げて叫んだ。

余りの勢いにモーゼスが驚くが、気にしちゃいられない。


「なんで!!?上では使えたのに・・・!!
 こんな大事な時になんでこうなんだよ〜!!!」


「わ、分かったから嬢、ガキみたいに駄々こねんのはやめぇ。」


「うわああぁん!!!」


「・・・、最近色々あったしね・・・。
 きっとパニック状態なんだよ・・・。」


「あらあら、ちゃん、泣いたら駄目よぉ。」


「うえぇ・・グリューネさあぁん・・・」


「・・・・とにかく落ち着かんか、。」


もうどうにも無くなってしゃがみ込みそうになったら、
ウィルが米神に手を当てながら、そう諭した。


ちょっと本気で泣きそうだけれども、そうもいかない。


ウィルの言葉に従って、足を突っ張って深呼吸をする。


じわりと、少しだけ涙が滲んで、少し乱暴に拭った。



「けど、なんで急に使えなくなったんだ・・・?」


「俺たちは、爪術を使える様になったのに・・・」


「・・・それかも・・しれませんね。」



クロエとセネルが困惑したように言うと、ジェイが顎に手を当てて
呟くようにそう言った。

モーゼスが怪訝な顔をする。


「ぁあん?どういうこっちゃい、ジェー坊。」


「・・・僕達はシャーリィさんに『蒼我の恩恵を返してもらう』と言われ、
 その直後に、爪術が使えなくなりました。しかしさんだけは、
 変わらずに爪術を使うことが出来た・・・。」


先ほど、二つの仮説を立てましたね。

ジェイが指を二本立てて、言った。


「この地下空間には、シャーリィさんの力が及ばない、だから
 僕達は、爪術の力が使えるようになった。或いは―・・・」

「ここでだったら、蒼我の恩恵を受けられる・・・だったか?」


「ええ。僕達は爪術を使えるようになり、さんは爪術が使えなくなった。
 もしかしたら、地上で爪術が使える人は、
 此処では『蒼我の恩恵』を受ける事が出来ないのかも知れない。」


「『蒼我とは何か』の答えが分かれば、
 その答えも求まるのかもしれないな。」


ジェイの言葉に、クロエが顎に手を当てて呟いた。

ウィルが僅かに頷く。


「で、それは分かったけどさ、ど〜すんの?」


「どうする、とは?」


の事よ。
 爪術使えないんでしょ?危ないじゃん。」


それでも彼女を連れて行くのか、と、ノーマは言う。

置いていかれるのか、は身を硬くした。

そんなを見て、ジェイが難しい顔をする。


さんがブレス系とは知らずに、最初修行をしていましたからね。
 仮にブレスが使えなくなったとしても、一般の人より戦えるとは思いますが―・・」


流石に爪術の無い状態では・・・と。


「・・・どうする?
 こんな所に置いて行っても、魔物に襲われるだけだぞ。」


「・・・は、地上でなら爪術が使えるのだろう。
 なら、上に戻って街の人たちを守ってもらってはどうだ?」


「けど、爪術を使えるのは一人だ。余計な混乱を招くんじゃないか?」


セネルが問い、ウィルが提案し、クロエが不安そうに言う。

これじゃあ埒が明かないね、とノーマが言って、
は僅かに俯いた。


―― 完璧に、足手まといだ。


「連れてってやったらええんとちゃうか?」


その時フと、モーゼスが口を開いた。

が弾かれたように顔を上げ、皆も、驚いたように
モーゼスの事を見やった。

モーゼスは堂々と立っていて、腰に手を当てている。


「どうせ何処におっても危険なんじゃ。
 そんなら、まだ目の届くトコにおった方が安心じゃろ。
 なあに心配せんでも、危なくなったらワイが守ってやったらエエんじゃ!」


言って、クカカっと笑う。

が、感極まってモーゼスに抱きついた。

周りがギョッとするが、当の本人はお構いなしで。


「〜〜〜モーゼス!お前本っ当にイイヤツ・・・!!!」


「お、おうっ」


少し上ずった声で、微妙に噛み合わない返事をしたモーゼス。

ウィルが、少しわざとらしく咳払いをした。


「確かに、モーゼスの言う事にも一理あるが・・・」

「実際、そんなに簡単じゃありませんよ?」

「でもさ、やっぱこ〜ゆ〜のって、皆が揃って見つけてかないとね。
 一人だけ除け者って、なんか気分よくないじゃん?」

「そういう問題か・・・?」


軽く言ったノーマに、セネルが呆れて言う。



「・・とにかく、このままでは拉致が明きませんね。
 こう言ったやり方は不本意ですが、多数決としましょう。
 さんを連れて行くべきであると思う人は、挙手をお願いします。」


取りまとめて、ジェイが言う。

その言葉に、手が7本、上がった。

ジェイが、肩を竦める。


「だ、そうです。」


「全員一致だな。」


「なんだかんだ言っても、結局はそ〜なんじゃ〜ん。」


「危険性の定義だ、悪く思うなよ。」


「それにが居ないと、私達も落ち着かなくてな。」


「そうと決まれば、ワイ等がちゃんと守っちゃる!安心せい!」


全員が、それぞれに声を掛ける。

が何となく呆けて、最期に、グリューネが穏やかに言った。


「良かったわねぇ、ちゃん」


今度こそ、は本当に泣きそうになって。


けれども、頭を僅かに振り、は微笑った。


「・・・ありがとう。
 私も、精一杯付いていくよ。」