操作盤の前に残る、がブレスを発動させた
赤い円の跡


『貴女にとって・・・爪術は、契約よ。―・・・』


フと、あの時のステラの言葉が、頭を過ぎった―・・・






白いエリカの彩る夜に
打ち捨てられた地で6












閉じた通路は、ノーマの蹴りで半強制的に起動させ、
一同が、改めてを見つめる。


「爪術を多少なりとも使えるようになったんだ
 付いてきても良いんじゃないか?」


「・・・・でもさ、此処に居る魔物、明らかに炎属性だよね・・・?」


同じ属性の攻撃なんかしたら、余計に足を引っ張るんじゃ・・・?


「・・・いえ、そうでもないですよ。」

「はい?」

「まだ、試してない事があるじゃないですか。」


ジェイが、ニッコリと笑った。










「驟雨魔神剣!」

「よし・・!」

「まっかせて!・・・・魔殺十文字!!」



クロエが畳み掛けた敵に、セネルの合図でが懐に飛び込み
2本の鉄扇が、魔物の身体に十字の傷を刻んだ。

の爪がゆっくりと輝きを消す。

同時に、魔物はドサァっと音を立てて倒れこんだ。


「・・・が前線で戦ってるのって・・・変。」

「変とか言うな失敬な。」

「いや、でも変だろ・・なんか。」

「変とか言うなあぁ!!!」


ノーマに言ってるのにセネルが尚言うから、が怒る。

けれども、実の所
本人が何よりも可笑しな感じがしているのだから、どうにもならない。


ジェイが言った『試していない事』とは、ブレスの様に属性に偏る物ではなく
アーツ系の無属性技ならどうか、という事で。


それはまあ、ものの見事に大当たり。


「最近ブレスしか使ってなかったからなー・・なんか変。」

「自分で認めてたら意味ないですよ、さん。」


肩を回しながら言ったに、ジェイが呆れた様に口を挟んだ。

それでも、久々な前線戦闘はどうにも可笑しな感じがして。

鈍っている訳ではないのだが、僅かに感覚が取り戻せていないのは事実だった。

それでも、セネルの指導の下に、どうにかこうにか進んでいる。


「けど、さん。」

「・・・・はい?」

「修行、サボってましたね?」

「・・・・・・・そうでも・・・ないんだけどね・・・?」



いや、サボってたワケでなく。

ちょっとぶっ倒れててみたり色々とあったんで、
なんかちょっと、体が可笑しな事になっちゃってるって言うか、あの・・・・



「ねえねえ、私もクロエとかセネルみたいに
 『魔神ケン!』って出来ないかなぁ!?」


ジェイの視線に耐えかねて、がグルンっと向きを変えた。

セネルが腕を組んで、呆れたような顔をする。


「・・・出来なくもないだろうが
 の武器じゃ、『ケン』にならないだろ・・」

「言う所、『魔神扇』か?」

「・・・なんか嫌。」


クロエに言われて、はガクリと項垂れた。

確かにそうなんだけど、なんか、それは嫌だった。


先ほどから、コロコロ表情の換わるを見て、
ジェイは少し呆れたような、それでいて安心したような気持ちで、息を吐く。

先程の彼女の顔と言ったらなかった。

自己嫌悪と苛立ちとが綯い交ぜになって、彼女らしからない
酷く沈んだ、キツイ顔付きをしていた。


「・・・ジェイも、安心したのではないか?」


そんなジェイに気付いてか、ウィルが声を掛ける。
ジェイは肩を竦めて「何の事やら」とあからさまに其れと分かるように
誤魔化して、ジェイとウィルは、少しだけ笑った。


ちゃん、嬉しそうねえ。にこにことーっても、笑顔だもの。
 お姉さんも、嬉しいわぁ」


穏やかに言ったグリューネ。

それを聞いたが、はにかむ様に頭を掻いた。


「モーすけは、と2人になれなくて残念だったんじゃないの〜?」

「じゃかしいわ!」

「最低ですね、モーゼスさん。」

「ワレな!!」

「・・・セネル、アレ、何の話?」

「気付いてないなら気付かないままでいいだろ・・・」

、気を付けた方が良いよ!
 モーすけってば野蛮だから!」

「くぉら!シャボン娘!!いい加減にせんか!」

「キャーッモーすけに襲われる〜っ」

「あはは・・ノーマとモーゼスは仲良いねぇ」

「貴女は相変わらず能天気ですね・・・」

「はい?」

「ある意味幸せだな、は・・・」

「うむ。」


首を傾げたを見て、呆れたような一同に
尚の事よくわからない、とが首を傾けて。

けれどもフと、は気付く。

そして、一瞬の間の後笑い出した。

心底嬉しそうに、クスクスと。

それが余りに唐突だったから、一同は顔を見合わせて。


「・・・どうした?。」

「変なものでも食べた・・・んですかね。」

「またそんな、モーすけじゃないんだから。」

「本当に失礼だな、君等は。」


言われた言葉に、が口を尖らせた。

けれども、またすぐに嬉しそうに笑い出して。


「結局、何がそんなにおもしろいんですか?」

「ん〜?秘密!」


さっき失礼な事言ったからね!と付け加えて。

は、グリューネの腕に抱きついた。

女性らしい柔らかさの白い腕。

グリューネはにこにこと笑って受止めてくれた。


「グリューネさん」

「何かしらあ?」

「皆が自然に笑えてるのって、嬉しいですね」

「そうねえ。みんながとーっても笑顔だと、
 わたくしもとーっても嬉しいわよお」

「はい。」

ちゃんもとーっても笑顔だから
 きっと皆もとーっても嬉しくて、笑顔になるのねえ」

その言葉に、は驚いて顔を上げて。

穏やかに微笑む女性に、照れたように笑い返した。


「そう、ですね」







砂漠の様に蒸し暑い火のモニュメントを暫く進めば
唐突に、視界の中に今までとは明らかに異質な物が目に映る。

それは、光り輝くキュービックのようなものだった。


「あの光は何じゃ?」


「どうぞ、触ってみてください。」


「触っても平気なんか?」


モーゼスが恐る恐ると尋ねる。

ジェイはニッコリと笑った。


「だから、それを確かめてもらうんです。
 当たり前の事言わせないで下さいよ。」


「ワレな!!」


「う〜ん・・・完全に毒見係だねぇ、モーゼス。」


が困ったように笑って言った。


「でも、明らかに道塞いでるし、避けても通れないよ?」


続けて言うと、セネルが少し迷った後に、光のオブジェへと近づいた。
「不用意に近づいては」とクロエが止めようと、同じく光のオブジェに近づき


瞬間、オブジェから漏れ出るように光が溢れ出し、割れるように発光した。



――・・・・。


の頭の中に、唐突に青い海の映像が浮かび上がる。

その海の真ん中に四角く白い巨大な物が、ぽつんと浮かんでいた。


同時に、『声』が・・・


「また頭の中に、変な光景が・・・・」


クロエの言葉に、ハッと気付いた。


皆が、唐突な事に膝をついていた。


頭を振って、立ち上がる。


「今度は何が見えた?」


ノーマが尋ねる。
ウィルが、先程見たままの光景――白く四角い物体が海に浮かんでいるところだと答えた。


「皆はどうだった?」


確認するようにウィルが問い、一同はそれで間違いないと頷く。


「みんなお揃いだなんて、と〜っても素敵ねぇ」


「はははは・・・そーですねーグリューネさん。」


、もうグー姉さんの発言に諦めを感じちゃってるね。」


グリューネの相変わらずな発言に適当な相槌を打てば
ノーマが、少し引き攣った顔で言う。

だって、しょうがないじゃないのよ。
明後日の方向から湧いて出たようなこの発言。


そんなノーマとを横目に見ながら、クロエが考えるようにして言葉を紡ぐ。


「まるで昔の記憶を、思い返したかのようだった・・・・。
 でも私は、あんな四角い物体、知らない。」


「・・・は、どうだった?」


「え?」


「声は・・・聞こえたか?」


「えっと・・・」



セネルに聞かれて、は一瞬、言葉に詰まった。


「聞こえた・・・けど」


「けど?」


「いつもの声じゃ・・・なかった・・・
 それに、何を言ってるのかも、あんまりよく・・・」


「どういう事です?」


聞かれても、自身が困惑したように言葉を失くしてしまい、
それから、やがてぽつりと呟いた。


「・・・・うた。」


「え?」


「多分、歌だ、さっきの。」


「歌・・・ですか?」


が頷く。


接続の悪いラジオの様な音で、聞き取れなかったけれども
映像と共に聞こえた声は、確かに歌であったように思う。


セネルが、怪訝そうに眉を寄せた。


「何だったんだ・・・?」