白いエリカの彩る夜に
打ち捨てられた地で7















そうしてモニュメントを進む先、更に二つの光のオブジェに出会った。

その光のオブジェは、触れるたびに映像を残して消えていく。


映像は一連していて、全てあの、四角く白い物体だった。


けれども唯一の違いは―・・・


二番目の映像では、先の四角い物体の各所に土が盛られ、
三番目では、四角い物体は完璧に土に覆われていた。

そして、にだけ聞こえるあの歌は―・・・



「もしかしたら間違ってるかもしれないけど、ごめんね」

・・?」


暑すぎてもう駄目だ、と座り込んだノーマに同意して
道と道とを繋いでいる小さな小部屋の様な場所で休息を取っていた一同は、
の唐突なその声に、僅かに驚いたように振り返った。


は、ゆっくりと記憶を手繰りながら歌を口ずさむ。


ウィルが怪訝そう名を呼ぶが、は複雑な顔をして
その歌を小さくリズムを取りながら口にした。



「逢いたさ見たさに 怖さを忘れ 暗い夜道を ただ一人
 逢いに来たのに なぜ出て逢わぬ 僕の呼ぶ声 忘れたか
 貴郎の呼ぶ声 忘れはせぬが 出るに出られぬ 籠の鳥」



「それは―・・・・」


「歌・・・もしかして、先程の映像と共に聞こえたという?」


「・・・・多分」


は、答えた。


流石に3回聞いただけでは旋律は完璧には覚えられない。

けれどもそれは、日本の古い歌の様に聞こえた。

所々音の飛ぶ壊れかけた旋律で流れたあの、酷く哀しい歌声。

けれども何故この歌が、あの映像と共に・・・?


「・・・・困りましたね。」

「え?」

「歌が判明したのは分かったんですが
 僕達には、言葉が分からないんですよ。」


ジェイが、少々困ったように言った。

が、「ああ、」と、少し困ったように言う。


「そう言えば、何で歌の歌詞はわかんないんだろうね?
 私、普段喋ってるのと、特に言葉を変えてるつもりは無いんだよ?」


「そうなんか?」


「うん。普通に歌ってるだけ。」


この世界に来た時から疑問だった事。

自分はただ普通に歌っているだけだったと言うのに、
この世界の人々は、『誰も知らない異国の言葉で歌を歌う』と評価した。

それは物珍しさと言う点において少なからず、
自分がこの世界で歌をやっていく事の手助けとなったわけだが、
それにしても、自分はこの世界で意図して言語を変えようとした覚えはない。

この世界に来た時には、自分はこの世界で通じる言葉を話していて。


「確か世界は、大きな木の様なもの、と言う話だったな?」

は、そう聞いたと言ってましたけど・・・」

「ふむ・・・。」


ウィルが考え込むように顎に手を当てて、それから
確信は無いのだが・・・と続けた。


が喋っている言葉と俺たちが話している言葉は
 実際はこうしている間も、全く別の物なのではないか?」


「けど、現に会話は成り立っているぞ・・・?」


「何か大きな力・・・例えば、例の『蒼我』や、
 その『大きな木の世界』の何かしらの力が作用している・・・
 と言うのは、突飛過ぎる話か?」


「まあ、そもそもその『大きな木の世界』自体が
 僕達にとっては突飛な物ですからね」


解釈しようと思えば、出来ない事でもないかもしれませんよ、と
ジェイが肩を竦めながら答えた。


「まあ、それはそうとして、
 な〜んで歌だけはあたし等にわかんなくなっちゃうわけ?」


「・・・歌には、不思議な力が込められている。
 俺たちブレス系も、上級ブレスを使う際には詠唱を唱えるだろう。
 古くは、神に祈りを捧げる際に用いられる場合もある。
 『歌』は、その何かしらの力の影響を受ける事が出来ない、とも
 考えられん事ではないな。」


「何じゃ、けったいな話じゃのう。」


ワイにはよう理解出来んわ。

モーゼスが頭を掻きながらつまらなそうに言った。


が少し困ったように笑う。


自分の事ながら、自分にだってよく分かってないんだから
それは仕方の無い事かもしれない、と。


「まあともかくです。
 さん、一体どういった意味の歌詞なんですか?」


「え?えーっと・・・・要約してしまえば、
 奥ゆかしい恋の歌・・・だと思うんですが・・・・」
 

「恋の歌ァ!?なんでまたそがあなもんが
 あんな場面で流れるんじゃい」


「わ、私に聞かないでよそんなの・・!!」


むしろコッチが聞きたいですよそんなの!

がうー・・・っと頭を抱える。


「何だろう・・もしかして歌詞聞き間違えたのかなぁ・・・」


「・・いや、それはないだろ。」


「随分言い切るんだな、クーリッジ。」


「仮にも、街では歌姫として通ってるんだろ?
 なら、音楽の面では信用できるんじゃないか?」


「そう全面的に信用されても、プロってワケじゃないしなぁ・・・」


「しかし、この3回でそれだけ歌える位には音を覚えたわけですし・・・
 そう言った面では評価と信用に値するかもしれませんね。」


ジェイに言われて、は反応に困る。

だから、別にプロじゃないし音楽に精通してたわけでもないんだから
そんなに全面的な信用を置かれても困るんだってば。


思えば思うほど、自信はなくなってくる。

そこで、ノーマが明るい声で遮った。


「ま〜でもさっ!
 もう終わっちゃったもんだし、考えてたってしょ〜がないじゃん!
 唯一聞いたがそうだって言うんだしさ、今んとこは
 それでい〜んじゃん?」


「・・・そうれもそうだな。
 それに、奥に行けばまた手掛かりがあるかもしれない。
 の歌だけが手掛かりじゃないんだ、もし間違えてたとしても
 きっと、どうとでもなるはずだ。」


ノーマに続いて、クロエが頷いて言う。

が、呆けたように2人を見た。


「・・・どうした?―・・・」


そんなにセネルが問うが早いか、
は立ち上がると、唐突に、ノーマとクロエにぎゅうっと抱きついた。


男陣がぎょっとした様にを見る。

クロエも唐突な事に目を見開いて固まっていて、
ノーマでさえも、流石に抱きつかれて驚いたのか「?」と
名前を呼ぶ声が多少上ずっていた。


しかしは気にせずに、ぎゅっとより力を強くする。


「も〜〜っ!本っ当に私、2人が友達でよかった!!
 ッて言うか2人とも素敵過ぎ!!」


「ちょ、ちょっと、一体どうし・・・」


「素敵ってちょっと、やっぱ変なもん食べたんでしょ?!」


「食べてません!思ったままを口にしたの!」


の言葉に尚の事驚く2人。

その後ろで、グリューネの「あらあら」と言う穏やかな声。


「まあ、みんな、仲良しさんねぇ。
 お姉さんも、混ぜて欲しいわぁ」


言って、更にが抱きつく上から、グリューネがぎゅうっと抱きしめた。

真っ赤になるクロエに、とノーマが「きゃあ」と
嬉しそうな悲鳴を上げる。


ノーマが手を伸ばして、の体ごとグリューネに抱き付き返した。


・・・本人達は楽しいけれども、見てる側からすれば結構カオスで。


「・・・・のお、前から思っちょったんじゃが・・」


「・・・なんだ?」


嬢も、姉さんに負けんと抱きつくの好きじゃな。」


「クセ・・・・なのだろうな、恐らく。」


「本人気にしていない以前にまず気付いていなさそうですがね。」


達が悪いですよ、非常に。

ジェイが言って、何となく吐いた一同の息は、
呆れと疲れと、そしてほんの少しだけの羨望とが入り混じる
なんとも言えない音を孕んでいた。