の身体は、ただ白い空間を漂っていた。 ――何があったんだっけ。 意識の端で考える。 あの燃え盛るゲートを倒して・・・それで? 『メルネス!どうして自分の命を犠牲に?』 声が聞こえる。 誰の物とも知れない声だった。 『全ては陸の民のせい・・・。 あいつ等さえ居なければ、こんなことには・・・!』 『光跡翼は忌まわしき存在。 だが、今の私達にはどうしても必要なもの』 『私達には、メルネスのお仕事を見守る事しかできないのか』 幾人かの男の声と、 その中で一つ、怒りを噛みしめるように震える女の声。 瞬間、何も無い白い空間に色が燈った。 一つ目の光のオブジェに触れたときに見えた、あの海に浮かぶ白い物体。 その物体の中央から、花が咲くように蒼い光が広がった。 蒼い光は、やがては滲むようにして色を変え、禍々しいまでの紅になる。 紅い光は広くに渡って滲んで波打ち、やがて徐々に光を鎮め、 その光が完全に消える頃。 白い物体は、完全に土に覆われていた。 『水の民よ・・・私の命はここで尽きる。後は、次代のメルネスに託すとしよう。 皆の力を合わせ、どうか新たな光を。元創の歴史は、今日より紡がれん。』 女の声は祈るように言ってか細く消える。 その時フと、また、あの歌が聞こえた気がした。 |
打ち捨てられた地で9 |
一同は、再び海岸への道を戻っていた。 あの謎の声のする白い空間から弾き出されて、気付けば、自分たちは 炎のモニュメントの入り口へと強制的に戻されていた。 同時に襲う疲労感。 身体に泥が詰まっているように重くなり、関節のあちこちが痛んだ。 皆が皆そんな症状で戸惑っていると現れたモフモフ3兄弟は、 どうやら、灯台の方に消えて行った自分たちを追って、此処まで来たらしい。 そして、海岸に張ったキャンプで休むと良いと、進言してくれた。 有り難い申し出だ。 突如として現れた巨大な碑版もきちんと持って、 重い体を引きずり、どうにか歩く。 「この目でゲートを見ることが出来るとは。 もっとしっかり観察しておきたかった・・・!」 「ワイに聖爪術をくれるハズなんじゃがの・・・」 「出来れば、また会いたいものだ・・・」 「今度こそ聖爪術を!!」 「あんた等、何気に元気じゃないのよ・・・」 そんな元気があるなら もうちょっとキビキビと戦闘してちょうだい。 が呆れた様に息を吐いた。 「あたし、アレ強いからもう会いたくない・・・」 「そしてノーマに同感です。」 でも会うんだよね。 現状で少なくともあと3回は。 ははははは・・・・・ 「!」 「・・・・うおう!?さんっ!!?」 そんなこんなでどうにか海岸に着けば、 驚いた事にがキャンプで待っていて・・・ 「な、何で・・・・」 「彼等が皆さんの情報を街で集めてたから話聞けば、 たちの知り合いだって言うでしょ? ・・・上だとこの格好で目立つし、私も、何かしらしたくて・・・」 「・・・うん、話は分かったし何かしたかったのは分かった。 わかった・・・けどね、」 確かにの立場からすれば、その『何かしたかった』ってのもわかるんだ。 そして更に、水の民の格好をしてる彼女が目立つのも分かる。 分かる・・・けれどもさ が、額を押さえた。 「食材を無駄に使うのは、止めようね。」 「・・・う〜ん、可笑しいなぁ・・・」 可笑しいのは貴女の手元だと思うよお嬢さん。 多分、皆の為になんか作っときたかったんだと思うのだけれど、 彼女がお玉を使って掻き混ぜているお鍋の中身は、 明らかに人が食してはいけない色だった。 何これ、きっとハティも真っ青だよちょっと。 「話してるトコ悪いんだけど・・・ も〜〜・・・あたし限界・・・」 ノーマが、何だか力の籠もらない声で言う。 同時に、みんな倒れるようにして砂浜に座り込み、 其々が其々、服に砂が付くとか何て気にせずに、横になって寝入ってしまった。 「キュキュ〜〜〜!!?」 モフモフの皆が、慌てたように声を出す。 みんな、泥が詰まったように眠った中で、 だけが、両足を踏ん張って耐えていた。 「・・・きっと皆、戦い詰めだったし疲れたんだね。」 「さんは、平気だキュ?」 「私は―――」 久々に会ったモフモフの皆が、愛らしく小首を傾げる中で は少し困った後に、からお玉を取り上げた。 「まずは、みんなのご飯を作らなくちゃいけないしね。」 そう言って、苦笑した。 ジェイが薄っすらと目覚めると、まず視界に入って来たのは穏やかな海で、 さて、どうしたのだったかと考えて、思考がハッキリするまで時間が掛かった。 そして、粗方思考が回復してくると、フと疑問に思う。 自分は確か、砂浜でそのまま眠ってしまった様に思ったのだが・・・ 気付けば、頬に触れるのは、柔らかな布の感触だった。 ほんの少しだけ、潮の香りがする。 「・・・さん・・・?」 まだ重たい身体を持ち上げて目を擦ると、 座りながら、火にかかった鍋を掻き混ぜるが居て いつもよりも非常にゆっくりとした動作で、振り向いた。 「あー・・ジェイ、おはよう。目ぇ覚めた?」 「・・・多少は。」 尋ねられて、素直に答えた。 正直言って、まだ眠い。 鼻先を掠める良い匂いがして、少し身体を伸ばして鍋の中を除き見る。 眠る直前にもの凄い色をしていた中身が、グツグツと煮えながら おいしそうな・・・少なくともまともに人が食べられそうな物にはなっていた。 そこで、ジェイが気付く。 「・・・もしかして、寝ていないんですか?」 「・・・んー・・・うん、まあ。」 何やってんですか、と呆れて言うと、はやはり 非常にゆっくりした動作で頭を掻いて「別にぃ」と答えた。 「・・・僕達をこっちに運んだのも?」 「キュッポ君たちに手伝ってもらってねー。 ああ、3人は今上に調査に行ってくれてるよ。 は無駄にした食材の買い足しー」 まあ自業自得で。 がのんびりした口調で続けた。 「疲れてるでしょうに・・・」 「皆に比べたら・・・そんなに。」 「・・・・気にしてたんですか。」 ふと漏らしたの言葉に、ジェイは少し呆れたような、 しかし納得したような口調で言った。 は一瞬迷ったようだったが、結局、いつもの笑いで誤魔化した。 やれやれと、息を吐く。 「貴女を連れて行こうと決めたのは、みんなの意思ですよ。 それによって戦闘がやりにくくなるのも、承知済みです。」 「それでも・・・ね。」 やっぱり、気にするものは気にしてしまう。 この地下空間の中で、彼女は確かに足手まといであった。 アーツ系としてなら闘えると言っても、だ。 今までの彼女がブレス系として機能して戦闘に参加していたから、 皆、いまいち感覚を掴めていない。 今までは、回復の役をがほぼ買って出ていた節があるから その時の感覚のままで回復が遅れる事も多々あった。 それは、皆が言っていた「変な感じ」にも、戸惑いと同じようにして含まれていた。 は、そっと溜め息をつく。 「上手く行かない事がある度に、『今度こそ、次こそは』って思うんだけど やっぱり、なかなか思うようにはいかなくて・・・・いつだって、『今度こそ』だ。」 「・・・・。」 「それでも『今度こそ』 ちゃんとやろうって・・思ったんだよ?」 疲れのせいで、涙腺が緩んでるのか。 彼女の声は、ほんの少し揺れていた。 ジェイは、自分に掛けられていた簡素な毛布を手に取り立ち上がると の横に腰掛けて、彼女の肩に掛けた。 が、驚いたような顔をする。 「・・・それなら尚更ですよ。」 「へ?」 「皆さんに申し訳ないと思うなら、きちんと休息を取って下さい。 頑張り処を計り違えたら、余計にみんなに心配をかけます。」 「・・・・。」 肩に掛けられた毛布を、ぎゅうっと、が引き寄せる。 そんなの頭に、ジェイが触れた。 不思議そうな顔をして首を傾げた。 ジェイはぐいっと力を入れて、の頭を自分の肩の上に乗せた。 が一瞬遅れて目を見開き、口をパクパクとさせる。 「う、わ、ぁ・・・じぇ、ジェイ・・・!!?」 「ともかく、貴女はまず寝てください。 火の番なら、僕がしておきますから。」 「い、いや、っていうかあの・・・」 疲れと眠さと混乱とで、呂律が回って居ない彼女を、 ジェイは構わずスルーした。 は、しばらくモゾモゾと身体を動かしたり、 何か言おうと試みたりしていたけれども、やがては眠気に負けて ふと気付いたころにはどっぷりと眠りの底に沈んでいた。 ジェイは、やれやれと溜め息をつく。 「本当に、世話の焼ける人ですね。」 何だかんだで、自分も世話になっているのは事実だけれども それにしても、だ。 こういう変なところで、彼女は本当に世話が焼けて、目が離せなくて―・・・ 「こういうのって、持ちつ持たれつって・・言うんだっけ?」 間違っては居ないけれども、何かが違う気がするな・・・と 何となく、寄せては返す静かな海を見つめながら、ジェイは一人、ごちていた。 |