打ち捨てられた地で13 |
最後の光のオブジェに触れ、 見せられた映像の先は、戦争だった。 は、息を呑む。 噎せるような血の匂いが立ち込める大地。 足元に無数に転がる死体が、余りにも無惨な傷を負っていて そしてそれが、余りにもリアルな光景で 無意識の内に、ジェイの手を取ると、ジェイは驚いた顔をしたが すぐに、まるで安心させてくれるかのように握り返してくれた。 「戦場!?」 「戦いが、始まってしまったのか!?」 モーゼスとクロエが戸惑うような声を上げる。 しかし、そうではないだろうと、セネルが答えた。 遺跡船ではなく、大陸の何処かだろうと。 「俺たちは過去の光景を目の当たりにしているのか?」 「そうだと思います。」 ウィルの問いに、ジェイはあくまでも冷静に分析して、そう答えた。 まだ遠くでは、争う剣の交わる音や、叫び声が聞こえてくる。 自分は、この世界で初めて、戦争を経験した。 けれども、この光景が明らかにおかしい事くらい―― 残虐で無惨な事くらい、分かった。 「女の人や・・・子供まで・・・・」 は、足元に倒れる小さな少女を見下ろす。 恐怖に見開いた目は、もう暗鬱で何も写していない。 自分の経験した戦争は――確かに悲惨な光景ではあったけれど こんなでは、無かった。 明らかに民間人である彼女たちが、戦場で倒れるなんて そんな事はあり得ない、あくまでもそれは了解された戦争だった けれどもこれは、なんて無差別に―― 「―――っ」 触れたくてしゃがみ込んだけれど、 それは幻の様にすり抜けてしまう。 これは過去の事で、もう変えられない事実なのだ この水の民の少女は、既に昔、息絶えたのだ こんな、無惨なやり方で・・・ 「どれ程昔かは分からないが、とにかく、 人類と煌髪人との間に、大きな戦いがあった、という事だな」 そう、ウィルが冷静に言いながら、肩を小さく叩く。 ひどく無気力感に襲われながら、は小さなその少女を見つめて やがてそっと、立ち上がった。 「シャーリィ、いるのか!!?」 セネルが、大声で叫ぶ。 空気を張り詰めるように叫んだその声は虚しく響いて やがて土の山の前に、蒼く輝く髪をした少女を見つけた。 駆け寄るセネルが、シャーリィを覗き込み、 目を見開いて一歩後ずさった。 信じられないものを見たように、何処か傷付いたような、そんな瞳で その明らかに可笑しいセネルの様子を見て、 一同は顔を見合わせてセネルに駆け寄る。 「クーリッジ、どうしたんだ!?」 クロエがそう問いかけ、皆がそのシャーリィを取り囲んだその瞬間 シャーリィは一瞬にして消えてしまった。 「嬢ちゃんが消えよった!?」と驚くモーゼスの声に 皆が同じようにして辺りを見回す。 その時フと、上のほうでヒラリと靡く何かを見つけて は咄嗟に、土で出来たその山の上を指差した。 「あそこ!上だよ!!」 「追いかけるんじゃっ!!」 その声に弾かれるように、一同は山を駆け上った。 一人――様子の可笑しいセネルだけが遅れて、 それを不審に思ったクロエが名前を呼びかけると、 セネルはハッとした様に顔を上げて、戸惑ったように謝り 「俺たちも行こう」と、皆から一足遅れて、駆け上って来た。 駆け上り、シャーリィの姿のその先――― 水の民が、集うようにしたその中心 「見てみぃ、嬢ちゃんと同じ格好した奴がおる。」 「メルネスってこと?」 ノーマが、不思議そうに問いかけて フと、そのメルネスが、何かに気付いたように此方を見た。 それは、自分たちではなく、何か、こちら側に 気を引くべきものがあってこそ向いたのだろうが その瞬間、は息を呑んだ。 見れば他の皆も、同じように目を見開いて、 そのメルネスの姿を見ている。 「ちょっ・・・と・・・・」 呆然と、が呟く。 「なんで・・・私と同じ顔・・・してんの・・・?」 皆が感じた疑問は、彼女自身がそう、口にした。 髪の色も、目の色も違う。 着ている服だって違うし、恐らく年齢すら違うだろう。 メルネスは、二十の半ば辺りの様に見えるし それらの共通点は、とは一切無いのだ。 けれどもそれにしては――― 目の前の女性は、あまりにもに似すぎていた。 が何事か言おうと口を開いたその瞬間 シャーリィの姿が、消えた。 ハッとした様にシャーリィの姿を目で探そうとした時には 目の前に集っていた水の民たちも姿を消し そしてやがて、 自分たちがいたその空間すら、闇の中に飲まれてしまっていた―― 『殺せ』 ―― いや・・・ 『煌髪人共を殺せ・・・!』 ―― やめて 『化物共を、海へ追い落とせ・・・!!』 ―― そんな事言わないで、化物なんかじゃ・・・・っ 『陸の民共め、よくも・・!貴様たちさえ来なければ・・・!!』 『メルネスだけは、何としてもお守りしろ!!』 船が、離れる 陸地から、離れていく 穢れた大地、でも――― 「水の民よ。今こそ皆を、箱舟に乗せて送り出そう」 あれ? 何言ってるんだ、自分 これは、自分の声だ でも、あれ・・・? こんな事、なんで自分が言ってるんだ・・・? 「幾万の同胞の血を吸った、忌まわしき大地と決別するのだ」 可笑しいじゃないか、そんなの こんなの、どうして、また―― 「陸の民のくびきを逃れ、今こそ新たなる始まりを」 また、あの歌が聞こえてくるのに、どうして――― どうして、自分があの歌を歌ってるんだ どうして、自分の声があの歌を、こんな事を どうして。どうして――― 視界が白く飲み込まれていく 押し付けるように、疲れが身体に圧力を掛け始める それでも疑問は繰り返し繰り返し、頭の中で響いていて やがて意識も白く飲み込まれる中で、また 誰かが微笑んで、誰かの名前を呼んでいる気がした |