「・・・・さん、ちょっと良いですか?」 「へ!?え、あ、ああ、う、うん・・・・・?」 夜が明けて、朝。 地のモニュメントに向かう為の準備をそれぞれが行っていた所に ジェイが唐突に話しかけてきて、パンの準備をしていたは、 必要以上に驚く。 「・・・・。」 「・・・・・・・・・・。」 そんなの反応に対してか、微妙な間が、空く。 居心地悪いその空気に、微かに身を捩るに、 ジェイは深く溜息を吐いた。 「昨日の戦闘でボトル類が切れています。 すみませんが、補給をお願いしますね。」 嫌味の一つでも言うのかと思ったら、ジェイが告げたのはそれだけで、 思わず顔を上げたも、ふとしてジェイと目が合えば、気まずそうに おずおずと視線を逸らしてみせるだけになる。 「わ、わかった・・・・・適当に揃えとくよ。」 「ええ、よろしくお願いします。」 端的にそれだけ告げたジェイは、用件だけで スタスタと踵を返し、そのままモフモフの皆の方へと向かってしまった。 は、重い溜息を吐く。 ―― 何ていうか、気まずい・・・・・・ |
打ち捨てられた地で16 |
緑の草を踏みしめて、は後ろを振り返る。 それぞれがそれぞれ、 戦闘になった時に得意な陣形に入りやすいポジションいながら、 てんでバラバラに歩を進めている。 「ああもう・・・・」 ふぅっと、溜息。 いつもの場所にジェイがいて、その数歩遅れる所に、セネルがいる。 2人とも、俯いたまま上の空気味だ。 「空気、重いなぁ・・・・」 「仕方ないだろう、昨日の今日だ。 2人が落ち込んでるのも無理はない」 思わずぼやいたに、声を掛けるのはウィルだ。 そうなんですけどね、とも自然、沈んだ声を漏らす。 「それに、もだ。」 「へ?」 「ジェイを避けていること、傍から見ていても分かる。」 「あー・・・やっぱりですかね?」 特に意識してるつもりはないんですけどね、と、 自身困ったような声を出した。 特に、意識しているわけではない。 セネルにはセネルの考え方があって、 もちろんジェイにも、ジェイなりの考えがあって。 そんな事は、当然分かっているのだ。 そうでなければ、昨日セネルに垂れた言葉はなんだったのか・・・・ けれどもそれは、意識の問題においてはやはり違っていて。 普段通りに接しようとはすれど、どうしても、ジェイの昨日の発言が頭を掠めてしまい 会話をするにも、何処かよそよそしい。 彼自身、それに気付かないほど鈍感ではないだろう。 ジェイの沈んだ顔には、おそらく、少なからず自分も要因として含まれている。 分かってはいる、のだ。 フと、前方に、明らかに人為的に作られた建物が見えてくる。 逆三角錐の形のその建物は、今まで見てきたものとやはり同じ形状で、 果たしてどうしてバランスを取って建っているのか、多少気になるところではある。 緑を主体とした建物の装飾と、近づくにつれ多くなる、花や木の数。 今では見慣れた、モニュメントの扉を開く為の装置の前に、皆集まりながら、 キョロキョロと辺りを見渡した。 「今までのトコと違って、えらく牧歌的ですな。」 真っ先に口を開いたのはノーマだった。 便乗するように、も口を開く。 「だね、なんかポカポカしてて気持ち良いかも。」 「ほんとほんと! グー姉さんじゃないけど、まるでピクニックに来たみたい。」 花と戯れるちょうちょを見つけて、やけに穏やかな気分になりながら、 呟いたに、ノーマは嬉しそうに同意する。 この道筋、会話らしい会話がなかったから、まあ無理もない。 セネセネもそ〜思うっしょ!?と、その勢いで話題を振ったノーマは けれども次には、「思わない」とか言う、端的なセネルの返答によって 一気に撃墜される。 グっと息を呑んだノーマ。 なんか、頑張ってるなぁ、なんて、彼女を見ながら思うわけで、 ノーマ一人に頑張らせる訳にもいかないだろ、とか 自らに言い聞かせることで、モチベーションを上げる。 皆の空気が重い時に、自分まで重くなっててどうするんだ。 例え一刀両断されてもめげないノーマが、 折角だし此処でお弁当にしよう!と提案するのに、が乗っかった。 「いいね〜。今日のパン、結構気合入れて作ってきたんだよ?」 「おっマジで!?さっすが!気っが利くぅ!!」 「どうせなら手伝いもして欲しかったけど! ってー事で、どうよ、ジェイ?」 思い切ってジェイに話題を振ってみる。 が、此処でまたしても撃墜される。 「そんな事してる場合じゃないでしょう。」 割と頑張って彼に話題を振ったのに、そっけない返事で 再びモチベーションは下降気味。 思わず肩を落としてノーマと顔を見合わせるのと 「シャボン娘、嬢!さっさとやらんかい!」何ていうモーゼスの言葉が飛ぶのとは ほぼ同時に近くて しかもその言葉を飛ばしたのがモーゼスだから、というのも、 まあ少なからず起因して、だろう。 ノーマの返答は、随分と投げやりだった。 「あ〜!はいはい!、先にやっちゃって!!」 「う、うっす・・・・」 ノーマ、ちょっと怖い・・・・・ 思いながら、やれ、どうも上手くいかないな・・・と 装置の前にしゃがみこむ。 これはやはり、自分も勿論ジェイに対して余所余所しいが 自分ばかりが原因で、彼に対して余所余所しいわけではないのだろうな、なんて。 先に言わずとも、他の皆は既に自主的にから距離を取っていて、 も、特に気を使う必要もなさそうに、その装置に刻まれる文字を読み上げる。 「乙女はその右の手を切り落とし 血は餓えた大地に緑を与えた 大地は新たな命を生み 乙女は神の言葉を聴いて其れを育んだ―――・・・・」 モニュメントの数から言って、恐らくこれが、この神話の最後だ。 けれども、やはりそれは、この場に刻まれるには意味の無いものの様で、 どうにも要領を得ない。 読み終えた文字に、は一度、皆を振り返る。 小さく頷き返すのはウィルで、は再び もう一行残された部分を、静かに読み上げた。 「地獄の亀裂より出でたる人喰い鬼 大いなる地の狭間に眠れ――ノーム!!」 瞬間、足元をクルリと描く緑の円と、そして、立ち上がるのは 硬い岩肌のような茶の壁。 天高く持ち上がり、やがて砕けての上へと落ちてくる。 礫となったそれは、肌を打ち痛いかと思いきや、ただ静かに、肌に落ちていくだけで 一瞬、ふわりと、身が軽くなるような感覚を覚えた。 やがてその感覚もなくなれば、いつも通りの皆の姿が、自分を取り囲んだ。 「今までから見ても、恐らくこれが最後の章だと思いますが・・・」 いまいち要領を得てませんね。 深く考えるようなジェイの呟きに、同意するように頷くウィル。 「やはり、今回の事とこの神話は関係ない事なのか?」 「そう・・・かもしれません。 しかし、この場所にこの神話が書かれていた事には、 何かしらの意味はあったはずです。」 「理由がありそうなもんが全部一つに結び付けられるわけじゃない・・・って事か。」 「まあ、そういう事でしょう。」 の呟きに同意したジェイは、兎も角、と言葉を続ける。 「この件に関しては、一先ず保留としましょう。 僕たちが此処に来たのは、この神話が何故こんな所に書かれているのかを 考えるためじゃありませんからね。」 それで構いませんね?と ジェイはあえてにではなく、全員に問いかける。 返答は各々、無言であったり、小さな頷きであったりして、 はそれに対して無言の形での返答を取った。 それでは、先に進みましょうか、と言うジェイの言葉に ノーマがツカツカと、先ほどが文字を読み取った装置に近づくと いつもよりも少々乱暴に、その装置のことを蹴飛ばした。 |