白いエリカの彩る夜に
打ち捨てられた地で18



















「いったあぁぁ・・・・」



は、強かに打ち付けた腰を抑えて、思わず声を上げた。


「っ大丈夫ですか!?」


思いがけず切羽詰った声は、ジェイのものだ。


ヒラヒラと、手を振って平気であることを告げるけれども、
その顔は、何とも険しい。


3つめのキューブに触れ、すぐ傍の坂を駆け抜けた所で、
思いがけず、魔物に出会った。


敵自体は何とも簡単な相手で、苦戦なんてものは無かったのだが・・・


うっかり、敵の攻撃を受けて、ジェイが吹き飛ばされた。


そして、その吹き飛ばされた先にあったのが、
なんとも厄介なことに、このモニュメントの其処此処に敷かれているトラップで
ジェイにぶち当たったトラップは、大爆発。


吹き飛ばされるジェイを見たが、
思わず彼の腕を引っ掴んで巻き添えを食ってしまったもので、
しかも、入り口まで飛ばされ気が付いてみれば、完全に下敷きにしてしまっている有様だ。


「〜〜〜っ馬鹿ですか貴女は!!」

「ってちょっとー、体張って自分庇った女の子に対して
 それはちょっと酷いんじゃないー?」

「っだから、怒ってるんでしょう!!」


ムスくれて返したところ、思いがけない返答を貰ってしまい、
は驚いたようにジェイを見る。


さんは、仮にも女性なんですよ!
 男の僕を庇って、しかも怪我をするような馬鹿な真似はしないで下さい!!」

「ご、ごめん・・・・」


ジェイのあまりの怒りようと、その内容に
咄嗟に謝罪を入れれば、ジェイも、まだ怒りは収まらないようだったが
それ以上言い募ろうともしなかった。


思いもかけなかった内容で、それもジェイから怒られて、
はしばらく呆然とする。


『怒られた』のだ。


あのジェイに。


普段、嫌味の一つや二つ貰ったりはするけれども、
まさか、怒られたとしか表現できないような怒られ方を
彼にされるとは、思ってもみなかった。



しかも、自分の事をちゃんと『女性』だと認識してるとは・・・


意外なところばっかりで、なんかもう、素直に謝る以外に
言葉が出てこなかった。



「ジェージェー!!!大丈夫!!?」



遥か向こうの方で、ノーマの声がする。


3つめのキューブに触れるまで、敵も出ずに順調だったせいで
恐らくみんな、多少の油断があったのだろう。


その結果が、すっ飛ばされたジェイとであり、
その他の皆も、やはり驚いたようだった。


ジェイは、チラリと、座ったままのを見やる。


それから息を吐くと、ノーマ達に届くように、声を張った。


「すみませんが、其方に戻るまでに時間が掛かりそうです!
 先の小部屋に進んで待っていて下さい!!」

「ええ!!?ジェージェー達、2人でヘーキ!?」

「何とかなると思います!」


そのジェイの返答に、微かに間が空いた。


向こうの方で聞こえる声からして、
ノーマ達も、色々と相談しているのだろう。


やがての答えは、ウィルが返してきた。


「了解した!だが、くれぐれも無理はしてくれるなよ!」

「わかりました!」


ウィルに返答したジェイに、しばらくの後、
遠ざかる足音が聞こえてきて。

さて、と、ジェイがの足元に、同じようにして座り込んだ。


「え、ジェイ、どうかした・・・・?」

「どうかした?じゃないですよ。言ったでしょう、
 男の僕を庇って怪我するような馬鹿な真似はするなと。」


それから、呆れたようにの足に触れる。


「い"っ!?」と、低く呻いたに、やっぱり、と息を吐いた。


「足、捻挫してますね、」

「うわ、バレてる・・・・」


目敏いなぁ・・・と、諦めたように笑ったを、チラリと半眼で見やる。


と、ジェイはその頬を思いっきり引っ張った。


「い!!?い、いふぁいいふぁい!!
 ちょっ何すんの!!」

「色々と腹が立ちましたので!」

「え、ええぇ!!?」


何で、何に!!?と

色々ですよ!とジェイ。


何か、軽くストレス解消の域に差し掛かってる気がしてならない。


ジェイはポケットから、愛用している短刀を取り出すと、
自分の持っていた道具用のアイテム袋からブルーリボンを手にする。


何だろう?と首を傾げて見せれば、
取り出したブルーリボンの結びを解き短刀に巻きつけた後
の足に添えた。


その上から、ハンカチで足を固定する。


「って、ちょっと!
 武器固定に使ったら、戦闘の時どうすんの!」

「幸い、さんに今朝、ボトル類を補充してもらいましたからね。
 ホーリィボトルを使って行きますよ。」

「ええ!?2人だけなのにボトルの無駄遣い!!」

「何言ってんですか。2人だからこそ、使うんでしょう。」


多勢に無勢の不利な状況になったらどうする気ですか、とジェイが言うのに
そりゃそうだけど・・・と言葉を詰まらせるのはで、
ごもっともなだけに、どうにも言い返せない。


「グミ類の袋を持っていたのは、ウィルさんでしたか・・・」

「う、うん。そう・・・・」

「なら、向こうに行けば、回復は図れますね。」


ともすれば、とにかく向かいましょう、と立ち上がったジェイに
倣おうとした次の瞬間、頭が真っ白になった。


足が、ふわりと地面から離れる。


背中と膝裏に、人の温もり。


反応が遅れて、が盛大に叫んだ。


その声に驚いたのか、思わずジェイが取り落としそうになって
慌ててしがみ付いて返したけれども、なんとも迷惑そうな顔をされた。


「何なんです?耳元で叫ばないで下さいよ・・・・」

「だ、だって・・・!ジェイが・・・!!」


お、お姫様だっことか、いきなりかますから・・・!

訴えるに、けれどもジェイは、呆れたように息を吐く。


「少しは僕の立場も考えてくださいよ、さん」

「え、って・・・・え??」

「女性の貴女に庇われた挙句に怪我までさせて、
 それだって言うのに応急処置だけで
 歩かせて皆に追いついた・・・なんてなったら・・・」

「あー・・・人でなし呼ばわりされそうね、ノーマ辺りに・・・」

「そういうワケですので、今回ばかりは大人しくしてて下さい。」

「・・・・・・はい・・・・・・」


結局は、やはり言い返せなくなる自分はなんとも弱い。


赤面とかガラじゃない顔をして、俯くように返事をした
ジェイはやれやれと息を吐いて、歩き始めた。