ベースキャンプとは、昇降機を挟んで反対側にある海岸

自分の記憶しているゲームのマップ上では
『ジオグリフエリア』と名づけられていた其処が、光の発生源だった。


詳細には、そこに敷かれた、不思議な絵の描かれる石の床。


光は、自分達がそこへ辿り着くと同時に収束してしまったが
その石の床に欠ける4つの穴を調べる内、
今までモニュメントで集めてきた碑版を当て嵌めるのではないか、
という結論に至った。


問題はそこから。


どの順序で碑版を当て嵌めるべきなのか、
その事で皆が揉めるのを、はなんとも遠巻きに眺めていた。


ノーマが、「勘に頼っても結構何とかなるって〜」とか
適当なことを言っているのが聞こえる。

彼女、こういう謎解きは専門なんじゃないのか・・・とか
思ってしまうわけだけれども。


こういうのは苦手で、と早めに白旗を挙げたクロエも
同じくして、一同が揉めるのを遠く眺めている状況ではあるが、
なにぶん、はお手上げを宣言していない。


嬢も、ボーッと突っ立っちょらんで
 何か良い案がないか出さんかい!!」


いい加減適当なことを言いすぎたのか
モーゼスが半ば八つ当たるようにを引っ張り出す。


って言うかさ・・・と、自身、驚いたような声で、言った。



「時系列に並べるのって、一番妥当だと思わない?」



何でその案が誰からも出てこないかなぁ・・・・

思わず呟いたに、
一同の動きが、それなりに長い時間停止する。


しばらくして、ウィルが何とも気まずそうに咳払いをした。






白いエリカの彩る夜に
打ち捨てられた地で23













のある意味冷静なツッコミを受けて並べたそれは
まるでそれが正解だとでも言うように、再び眩い光を放ち

蒼我の意図していた事が、
自分達に本当の歴史を伝える事だったのだと知れる。


今まで自分達の見てきた映像

こうして一つに繋がれた碑版の事を
改めて整理するように、ジェイは再び皆の前に立ち、
話の進行役を買って出た。


「白くて四角い船が
 空から降りてきたとき、全てが始まりました。」



人類と煌髪人の出会い


それが、全ての始まり。


出会った2つの種族は、けれども手を取り合うことが出来ず
長きに渡る戦いの道を歩む事となってしまった。


「勝ったのは人類、ワイらのご先祖だったわけじゃな。」


モーゼスの言葉を受けて、ジェイは説明を続ける。


「敗れた煌髪人は、船の上に新天地を求めました。」



そうして生まれたのが、元創王国。


この巨大な船に数多く残る、遺跡の数々だ。


けれども、煌髪人はその後今に渡るまでずっと
人類に対する恨みを積み立て、保ち続けていた。



そうして起こされた大沈下は、

今また再び、忘れられた歴史を経て尚、引き起こされようとしている――



そう、まとめたジェイの言葉に答えるように海が光を放つのと
が、ハっとしたように顔を上げるのとが、ほぼ同時だった。



人々が都合の良い様にか、自然にか、長らく
忘れ去られていた歴史の正体


それが今、再び此処に蘇った事を蒼我は伝えていた。



そして――・・・・・



「これって、蒼我ちんがあたし等に、語りかけてんの?」



ノーマの問い。


視線は自然と、へと向けられる。


は、静かに光る海を見つめ、それから再び
そこにいる仲間へと、視線を移した。



「回答を・・・・って」

「回答?」

「今まで見せてきた歴史に対して、
 私達はどうしたいのか・・・・聞いてる」


ここ静かの大地に足を下ろしてから、
蒼我はずっと、無条件に自分達に回答を与えてきた。


その回答を聞いた今、今度は蒼我が問いかけているのだ。


自分達の、これからの事――それぞれ個人の意思を



「決意表明をしろって・・・・事ですか」




確認するように尋ねたジェイに、は緩く頷いた。



その時、ウィルの爪が唐突に光り輝く。

ノーマが、その事に対して首を傾げるが
は確かに、海の声を聞く。



「ウィルさんの意思が、聞きたいそうですよ」

「俺の?」



ウィルが、一度戸惑うように仲間の姿を捉えた。

力強く頷き返してくれる仲間の姿に、どこか安堵したように
ウィルは波打ち際まで歩みを進める。


ゆっくりと、閉鎖された空を見上げた。


「俺は、大陸を追放された身だ。
 今となっては、それほど思い入れはない。」


言葉を考えるように、ウィルはそう紡ぎ始める。


ハリエットもいる事だしな、と、微かな声で付け足された言葉。

それは本人に言ってあげた方が喜ぶのにな、と思う。

ウィルは、海を真っ直ぐ見つめる。

言いたいことは、彼の中で纏まったようだった。


「だからと言って、大沈下が起こるのを、見過ごすことは出来ん。
 平穏な人々の暮らしを一方的に奪うなど、許されるはずがない。
 例えそこに、どんな理由があろうと。大沈下は絶対に阻止する」



「これは義務だ。真実を知った、俺の義務だ。」と
そう締めくくったウィルの言葉は、なんとも彼らしくて


海が、一際強い輝きを放った。


同時に、ウィルの爪も応える様に輝きを増し
光は、鮮やかなオレンジの色を持った。



「レイナードの爪の輝きが増している!?」

「さては、聖爪術か!?」


ハっとしたようにモーゼスが。

ウィルは、光を増し色を纏った自らの爪の光を
信じがたいような瞳で見つめていた。


「これは・・・・・!
 全身に、とてつもない力が、流れ込んでくる!」


蒼我の思いに応えるように、天高く拳を振り上げる。

その答えを受け取ったように、
その爪もまた、輝きをゆっくりと収めた。


「俺は強大な力を手に入れた。
 それをはっきりと、実感できる。」


力強く呟いたウィルに
モーゼスが、聖爪術はやはりあったのだと喜ぶ。


そのモーゼスの爪が、今度は光を放った。


「次はワイの番じゃな!?」と、確認のようにに向き合い
は、そんな彼の様子に苦笑しながら頷いた。



モーゼスは、自分の爪を見せ付けるかのように
天高くその手を掲げながら、声を張った。



「ワイは、マウリッツとワの字を倒しゃあ、
 嬢ちゃんが元に戻る信じちょる!
 大沈下なぞ、絶対起こさせんわ!安心せえ!!」



そう、一気に言い放ったモーゼスは
けれども、聖爪術が欲しいからとか、そんな理由じゃなく
きっと心の其処から、嘘偽りなく紡がれた言葉。


モーゼスの爪が、赤を帯びた光へと変わる。

晴れやかな顔が、彼の表情を彩った。



「これじゃ・・・・!これが聖爪術じゃ!」



「とうとう手に入れたぞォ!!」と、喚起の雄たけびに続いて
モーゼスは高々と拳を突き上げた。


光は、吸い込まれるように消えていく。



「ヒョオオオオッ!!全身の細胞に力が漲るわ!!
 これで爪が虹色に輝きゃあ、完璧に言い伝え通りじゃったんじゃが
 まあ、細かいことは抜きじゃな。」


後半はぼやきの様な独り言ではあったが、
ちょうどその言葉尻に合わせる様にして、今度はノーマの爪が輝く。


あ、あたし?と、困ったような視線で仰がれて、
やはり困ったような笑顔で、は答える。


いや〜まいったね・・・なんて、頭を掻きながら
ノーマは海と向かい合った。

「あたしは、ほら、エバーライトを見つけたいだけだから。
 大それたことは、やりたくないんだよね。
 そんなの、あたしのガラでもないし。」

そんな、照れ隠しのような言葉を、最初に言っておいて
それでも、大沈下が起こるのは困るかな、なんて続くのが
なんだかノーマらしいと思ってしまう。


「家出中とは言え、向こうには親もいるし。
 このまま死なれたんじゃ、後味悪すぎ。」


「って、ノーマ家出中だったの?」


「え?あーまぁー・・・・と、とにかく、
 あたしはこれからも、楽しくエバーライト探しを続けたいの!
 そのために大沈下を止めなきゃってんなら、
 仕方ない、やるかって感じ!」



思わず突っ込んだに、ノーマは顔を顰めて

結局、蒼我へ訴えかける事で、話を無理やり逸らした。


微かに蒼我の笑むような気配を感じて
ノーマの爪が黄色く輝く。


その爪を不思議そうに眺めながら
ノーマは、蒼我との距離が縮まった感じがすると呟いた。


それから、先の2人と同じように拳を高々と挙げれば、
爪の光は収まり、ノーマはやはり頭を掻きながら照れ笑いで戻ってきた。


「あたし、選ばれた戦士ってこと?
 似合わねえ〜!はっずかし〜〜!!」

「っていうかノーマの言い方が恥ずかしい・・・・」

「なんだとう〜〜!!?」


だって選ばれた戦士って何さーと
からかう様に言えば、だって要はそ〜ゆ〜事っしょ!?だそうで

まあ多分、間違ってはいない。

言い方が物凄く恥ずかしいだけで。


「次は僕ですか。」


示す様に輝く爪に、ジェイは割りと冷静に答えた。

皆のように確認の意味でではなく、ジェイと視線が合う。

そして、何か考えるようにして見つめられる事に
不思議そうに首を傾げるとジェイは
暫く考える時間を置いた後に、蒼我と向き合った。


「僕が遺跡船に来て、大分経ちます。
 遺跡船こそが、僕の故郷なんです。
 だから、大陸がどうなろうと、別に知ったことじゃありません。」



そこまで言った所で、ワレな・・・と
モーゼスの呆れたような声が入ったが
ジェイは気にした様子もない。


「でも」と反語の後に続けられる言葉は
やっぱり彼らしくて、少し心地よかった。


「大沈下を起こした煌髪人が、
 遺跡船をこのままにするとは思えません。
 だから僕は、大沈下を止めて見せます。
 ――僕にとって大切な遺跡船を、守るために。」


最後の言葉は、とても力強かった。

その言葉に答えるようにして緑色に光る爪を
ジェイは喜ぶでもなく驚くでもなく


冷静に分析する辺りが、どこまでも彼だと思うわけで


「なるほど。
 これだけの力があれば、地上でも爪術が使えそうですね。」


目的を遂行するには、十分だな。


そう続けられた言葉に、眉を潜めるに気付いたのか
ジェイはスっと視線を逸らして、空に高く手を掲げた。


「蒼我との距離が縮まった感じ、
 僕にも分かる気がします。」

「でしょでしょ〜?」

「爪術の本質は、
 蒼我と通じ合う為の手段なのかもしれませんね」


ジェイの分析に、なるほど・・・とウィル。


「その究極が、メルネスと言うわけか。」と、確認なのか呟きだったのか
ジェイは静かにそれを肯定して見せた。


「ささ!次は誰?」


ノーマの声に答える様に、今度はグリューネの爪が輝くわけだが、
グリューネは自らの爪を見つめて、不思議そうな顔をする。


「あら?
 どうしてわたくしの爪、光ってるのかしら?」

「今までの流れ、見てなかったのかあ!!」

「海に向かって何か言うんじゃ!姉さん!!」

「あっちょっとモーゼス、
 何かって、具体的に示さないと多分―――・・・・・」

「こんにちは、蒼我ちゃん」

「挨拶かよ!!」

「ホラ見ろ〜!素っ頓狂な事言う〜〜・・・・」


海に向かって穏やかな挨拶を交わしたグリューネに
思わずは脱力する。


しかも蒼我がうっかり挨拶を返しちゃってる辺りに
この海の存在を軽く疑いたい気分になってしまったり。


「まあ、爪がピカピカして、と〜っても綺麗ねえ。」


グリューネの言葉を気にした様子もなく
蒼我はグリューネに聖爪術を渡す。


純白の光を放つ自分の爪に、
グリューネはご機嫌な様子だった。



「ノーマちゃん、モーゼスちゃん、ちゃんも
 これで良かったのかしら?」

「・・・・何で挨拶しただけで、聖爪術を託されるんじゃ?」

「もー、これは何と言うか
 グリューネさんだからとしか言い様がないって言うか・・・・」


って言うかもうグリューネさんだからと言えば
全てが事済まされる様な気がしてきた。


そんな、どうにも突っ込みどころ満載なやり取りの後で
今度はクロエの爪が輝く。

私の番か・・・と呟いたクロエは海の前に立ち、
私は・・・・と口を開くも、次の言葉まで、暫く時間があった。



「私は、人類と煌髪人の和平を、諦めるつもりはない。
 シャーリィを倒すためでしかない力など、欲しくはない。
 甘い理想主義と笑われるかもしれないが、
 私に言わせれば、理想がなくてどうする、だ。」


クロエの声は、凛と真っ直ぐに伸びる。


だからこそ、その強い意志も気持ちが良い。


何処までも真っ直ぐで、クロエの言葉は
やっぱりクロエらしかった。


「私が欲しいのは、大沈下を止めるための、
 和平の道を探るための力だ。
 こんな私でも構わないというのなら、蒼我よ、力を貸してくれ!」


どこか緊張にも似た表情で、クロエは海を――蒼我を見つめる。


けれども瞬間、クロエの爪が紫の光に包まれる。


クロエの表情が、パァっと明るいものに変わった。


「蒼我・・・・!私を認めてくれるのか!」


その意思に答えるようにして、振り上げられた拳は
何処か誇らしいものであるように、高く掲げられた。


「これが、蒼我に託された力か。
 確かに、今までとは充実感が違う。
 だが・・・・責任の重さも痛感するな。」


最後までクロエらしいその言い方に
思わず浮かぶ微笑に、けれども自分の爪が光りだす事で
とてもではないが、余裕をかましている場合ではなくなった。



「あ、わ、わ、私!?」

「何そんなに驚いてるんです?」

「いや、心の準備が出来てなかった・・・・」



そっか、自分にも順番が回ってくるのか・・・と
何となく肩を落としながら、は海に向かう。


さて、どうしようかな・・・と、しばらく思考を巡らせた。


何だか、皆が皆、それぞれの『らしい』事を言っているから
どんな事を言って良いのか、頭の中で纏まらない。


結局出てくる言葉は、自分の中で一つしかなくて、
ほんの少し、頭を掻いてみせた。


なんか、みんながカッコいい事言ってる中
そんな真面目な事も言えないんだけどさ。


最初に、そんな前置きを入れておく。



「正直、大陸がどうなっても、私はあんま構わないんだよね。
 異世界から来て、私がこの世界で見たのは、遺跡船だけだし
 大陸なんか、どんな様子になってるのかも知らないし。」



自分が見てきたのは、この巨大な
けれども世界の中どこまでも小さい船の上だけで
大陸のことは、地図で見ても理解は危うい。


それでも、と思うのは
此処にいる、仲間達の存在のお陰だろう。



「この世界で出来た大切な仲間が、大陸がなくなる事で哀しむなら
 私はその為にも戦いたいって思う。
 ちょっと視野が狭いけど、この世界の中で、私の世界って、この人達の事だから。
 それに、この世界の人たちもちゃんと生きてるんだって、今の私は分かってる。
 止める手がかりを私達は掴んだのに、それをしないで
 大勢の人が亡くなる所なんか・・・・やっぱ見たくないしさ」


この世界で、たくさんの人たちと、私はまだ生きたい。



静かに、けれども真っ直ぐに紡いだ言葉。



―― ありがとう



思いがけず掛けられた蒼我の言葉に、目を見開いた。


爪が、光り輝く。


体の中に、欠けていた物が注ぎ込まれる。

初めて、この世界で爪術を使った時のような――


今まで其処にあるべきだったのに足りていなかったものを、
そっと、受け渡されたような気がした。


「って、ちょ、うわ!!
 ジェ、ジェイどうしよう!!」

「何がです?騒がしい・・・・」

「爪術の色が桃色してる・・・!!」

「は?」


桃色だよ?

ピンクだよ!?

ピンクって言えば貴方ちょっと、ヒロイン色なんだよ!?と
よく分からない力説をするに、ジェイは微妙に押され気味で


「あの、さん、よく分からないんですけど・・・・」

「とにかく何か色々と申し訳ない気分なワケ!」


最終的に言ったジェイに、はやっぱり力強く言った。


自らの手を見下ろす。


桜色の淡い光が、優しく指の先から溢れている。


「おかえり・・・・」


小さく呟いて、はそっと、その手を空に翳した


光はゆっくりと巡るように、の中を満たして消えていった。



クルリと、は振り返る。



計らずとも、皆の視線がセネルへと向いていた。



「よし、最後の一人だね!」



の言葉に、ノーマが笑う。




「セネセネ!
 最後なんだから、ピシッと締めなくちゃダメよ!!」

「ああ!」



力強く答え、入れ替わるようにセネルは
波打ち際へと進み出た。



けれども――――