―― 何かが


確実に食い違って


ハラリ、ハラリと、落ちていく


掴もうと手を伸ばしても


先が暗闇で、見えなくて


いっそ、体ごと全部、落ちれば良いのにと、思った。








白いエリカの彩る夜に
打ち捨てられた地で25














「みんな、どうだった?」



ノーマにモーゼス、ジェイが、昇降機から降りてくる。


その3人に問いかけたクロエに、
ノーマは元気にグーサインを送って見せた。


「ばっちり。地上でも爪術、使えたよ」

「これで怖いもんなしじゃ!」


その報告に、はガッツポーズを決める。

そっちはど〜だった?とノーマ。


クロエと顔を見合わせて、は笑った。



「こっちもオッケ。
 今までここじゃ使えなかった爪術、全部使えるようになったよ」


好きなブレス好きなようにぶちかませるのって楽ね〜と
が言うのに対して、その発言はどうかと思うぞ・・・と
ウィルが渋い顔をした。


ブーと唇を尖らせるに、場を見計らって
ジェイが話し合いを始めようと持ちかける。


は、ひたすらに笑顔を作った。


何も考えなくて良いように、出来るだけ明るい表情を作った。




昇降機前の芝生に腰をかける。


このメンバーで集まっているのに
たった一人足りないだけで、こんなに寂しいと感じる。



このメンバーでいる事が、随分と長かったせいだろうか
どうしても違和感が拭い切れなかった。



「セネセネ、どうして蒼我ちんに、意地悪されたのかな?」

「嬢ちゃんを説得するっちゅうて、
 あんなに張り切っちょったにのう。」


ノーマとモーゼスが、しょぼくれた声を出す。

きっと彼らも、自分が感じているような違和感を
同じように感じているのだろう。


けれども、ウィルは
セネルを心配するような2人の意見を、バサリと切って捨てた。


「セネルが蒼我に拒まれた理由を、あれこれ考えても仕方ない。」

「こうやって集まったのは、どうしてセネルが聖爪術を貰えなかったのか、
 話すためじゃないんだもんね。」


そのウィルの言葉に同意を示した
素直に頷いてくれたのはノーマだけで、クロエとモーゼスは
微かに目を見開いていた。


「こ〜やって話している瞬間にも、光跡翼が復活するかもしれないしね」

「・・・・・・・。
 でも、クーリッジ抜きで、シャーリィを説得できるだろうか?」


弱気の発言になったクロエに、は難しい顔をする。


「まあ、やるだけやるしかない・・・・よね。」


語尾には、やはり弱気が混じる。

既に決別宣言されているセネルだが、
縁が一番深いのも、やはりセネルなのだ。



「もちろん、出来る限りの努力はする。」


頷いたウィルの言葉には「だが・・・・」と続く。


その後を引き取ったのは、ジェイだった。



「いざという時の覚悟は、決めておかないといけませんね」



サラリと、言い放ったジェイにクロエとモーゼスが目を見開く。


は、思わず地面に視線を落とした。


先ほど宣言された言葉が、じくじくと痛い。


ジェイの声は冷静すぎて逆に不自然なのに


そして、それに気付いているのは、どうやら自分だけのようなのに


自分は、その背中に寄り添うことを、拒否されたのだ。



「それは、シャーリィを討つということか!?」

「ご心配なく。そうなった時は、僕が一人でやります。」



その場の人間が、息を飲む気配。


どうして、何で気付かないんだ。


ジェイは嫌味な奴だけど


平気でそんな事出来る奴じゃないのに



メラニィを倒す時に見せた、あの表情



また彼は、あんな顔をするんだろうか



自分はもう、見ているだけしか出来ないのだろうか



ジェイのあんな表情、もう見たくないのに――・・・・



「情に流されやすい人に、大役は任せられませんから。」

「ようそがあに、淡々と言えるの。ワレは何とも思わんのか。」

「別に。やると決まったら、やるだけですよ。」

「ワレの体にゃ、血の代わりに氷水でも流れとるんじゃの。」

「モーゼスさんにしては、凝った嫌味ですね。」



その声が微かに揺れているように聞こえたのは
自分だけの気のせいだったのだろうか。


一人立ち上がったジェイに、誰も違和感を感じない。


引き止めようなんて人もいない。


このメンバーの中で一番小さな背中が
あんなに一生懸命、大きく見せようと頑張ってるのに



誰も――誰も、気付かない



「話し合いは、終わりでいいですか?
 やることがあるんで、失礼します。」



去っていく、ジェイの足音。

顔を上げた時、ジェイはもう、
茂る木に丁度隠れて、見えなくなってしまっていた。


どうして、一人で行かせてしまうんだろう、自分は


消えた背中が、泣いている様な気がした



「ジェー坊・・・あがあな冷たい奴じゃったとはの。」



見損のうたわ。


冷たく続いたモーゼスの声に、
張り詰めていたの糸が、プツンと儚く音を立てた。


思わずその場に立ち上がる。


全員の視線を受けながら、
は、自分の頬を涙が伝うのを感じていた。


「モーゼスの、バカ・・・・・!!」

「なっ・・・・・!?」


の泣きながらの第一声に、モーゼスは言葉を失う。

色々な事を、一気に溜め込みすぎた。

グチャグチャになる頭の中で、それだけは冷静に理解していた。

けれども、感情にまで押さえが到達できなかった。


「人の命奪うのに、
 あのジェイが、何も感じないわけないじゃない!」


ヒステリックになるのなんか、馬鹿みたいだ、止めろ。

必死にストップを掛けるのに、全然抑制が効かない。


「今までずっと、ジェイは私達が言いにくかったこと
 全部代弁してくれてたんだよ!?
 みんなはお人好しで、絶対に言えないからって、
 恨み役全部買ってくれてたんだよ!」


言葉が、ポロポロと溢れ出る。


どうやったら止められるのか、教えて欲しいくらいだ。


感情のドロドロした部分が、全部出てこようとする。


押し込めるのに、その一部がどうしても、
口から転がり落ちて止まらない。



「誰がやっても嫌な事なら、自分がやるって・・・・
 ジェイは、そう言ってんのに・・・・・っ
 何で誰も・・・・ジェイの事に気付かないんだよ!
 憎まれ口一身に受けて、何で誰も可笑しいって思わないんだよ!!
 私、は・・・・・もう・・・・・・・っ」



自分は、もう



大事な時



彼の隣にいる事が出来ないと



彼自身から、言われてしまったのに・・・・・・・・




嬢、ワレ・・・・・・・」




結局、それが悔しくて、八つ当たりだ


大馬鹿だ、自分は


泣き散らかして、
もう子供って程子供でもいられないのに



彼らに当たって、どうしたいんだろう



きっとジェイは、彼らにその真意を感づかれることなんて
不本意に違いなかったのに


どうして自分は今、こんな事偉そうに叫んでるんだろう



―― 自分だって、彼に辛いこと全部、丸投げにしてたのに




何を、偉そうに・・・・・・




「――――――っ」



「あっ・・・・!!」




思わず、はその場から走り出した。


ジェイが向かった方向とは逆に


それだけは分かったけれども、何処に向かって走っているつもりなのか
自分でもわからなかった。


後ろで制止の声は聞こえてきたけれど


耳に入ってくるだけで、行動にまで及ばずに


はただひたすらに、何処へとも知らず駆けていた




後に残ったモーゼスは、呆然としていた。


ジェイがあえて恨み役を買っていたことなんて
これっぽっちだって、気付いていなかった。


傷ついているのは、セネルだけだと思ってた。


傷つけているのは、ジェイだと思っていた。



それなのに、どうだろう?



彼女の言うとおりだとするなら

傷ついていたのは、傷つけていたのは




そして、彼がやろうとしている事は―――・・・・・・



ちゃんも、ジェイちゃんも、と〜っても、優しい子ねぇ」



おっとりと、そう口にしたグリューネに

モーゼスは、何も言うことが出来なかった。