白いエリカの彩る夜に
打ち捨てられた地で28















次に気が付いた時、其処は無機質な白で作られた
機械が犇く部屋の前だった。


雪花の遺跡や艦橋なんかと同じ作りのそれは
元々この船に備え付けられた設備なのだろう。


辺りを見回すと、白い壁にベットリと、血が付いている。


引き攣った声が漏れそうになってフと
声が出ないことに気付いた。


よくよく見れば
体が其処にある感じはするのに、その存在が目に見えない。


この空間において、自分は確実に、
傍観者である事を義務付けられているようだった。



「ふざけた事を言うな・・・・!!」



鋭い声がして、ハっとそちらに顔を向ける。


水の民が、大勢集まっていた。


その手には、それぞれが何かしらの武器を持っている。


そして、その大勢の水の民に取り囲まれているのは、
どうも、陸の民らしかった。


は気付く。


先ほど声を上げたのは、先代のメルネス。


そして、取り囲まれた陸の民の先頭に立っている男は
茶の髪に、翡翠色の瞳――ジャンティだった



「ふざけてなんていない!何度でも言うさ
 俺たちは、この船を作った技術者だ
 俺たちは、貴女達に協力をしたいんだ・・・・!」


「っそれをふざけていると言わずになんだと言うんだ?
 命乞いなら、もっとまともにしてみせろ!!」



メルネスの持つ剣の柄が、ジャンティの頬にぶち当たる。

ゴッ!と硬い音に、思わず肩を竦めた。


これは―――そうか、水の民が
遺跡船を奪還した、その時の映像だ。


とすると、此処はやはり艦橋なのだろうか

奪還の際に制圧するべき場所なんか、そこ位だ。


ジャンティは、フラリとよろめき
後ろに立つ他の陸の民に支えられる。


「命乞いなんかじゃない・・・・」


震えるような声で、ジャンティは言う。

唇の端から伝う血を、乱暴に拭って顔を上げた。


翡翠色の瞳が、鋭く光っていた。


「貴女達は、この船を奪還して、どうするつもりなんだ?
 舵をどうやってとるのかも、わからないだろう」


その言葉に、メルネスの顔が苦渋に染まる。


今まで、水の民はこんな装置に触れる事はなかったのだろう。

その扱いが分からないのは、当然だった。


「・・・私達に協力して、どうするつもりだ」

「この船を、作り返る。」

「作り返る?」



怪訝に問うたのは、水の民の一人の男だった。

ジャンティは、静かに頷く。


「この世界の大地は、この船で作り上げた。
 俺たちなら、その逆にする事も、可能だ」

「ハッ。それで一体どうするつもりだ?
 お前達陸の民は、大地がなければ生きていけない。
 だから作り変えたんだろう!!あるべき姿を、好き勝手に変えて・・・!!」

「ああそうだ!
 だからこの星を、あるべき姿に返したいんだ!」


強く言いきったジャンティに、メルネスが息を詰める。

「何・・・?」と信じがたい声で問いかけるのに
ジャンティもまた、多少気持ちを落ち着けるように息を吐いてから
先を続けた。


「この星を、貴方達に返します」

「・・・・・お前、自分の言っている事が分かってるのか?」


メルネスの声は、今までになく静かだった。


この大地を消すと言うことは、
自分の同族――陸の民の消滅だ。


ジャンティは、笑った。

微かに、自嘲を含むような笑みで。


「滅べばいいんだ、
 俺たちは、あの星で滅ぶべきだった。
 貴方達の星を、汚すべきじゃなかったんだ」

「・・・・・・・・。」

「大地を消滅させる装置を作ります。
 その装置で陸の民を――俺たちを、消し去って下さい。
 それで、この星はあなた方にお返しします」


ジャンティの瞳は、真っ直ぐだった。

メルネスは、その瞳を見つめ返す。


クルリと、背を向けた。



「良いだろう」

「っメルネス様・・・!?」

「その手で、お前達の罪の始末を付けてみろ。」


この星を、汚した罪を


カツンと、メルネスの剣が床を突き
シン・・・と静まり返るそこで、メルネスはゆっくりと息を吸う。


「水の民よ。今こそ皆を、箱舟に乗せて送り出そう・・・・!
 幾万の同胞の血を吸った、忌まわしき大地と決別するのだ」



陸の民のくびきを逃れ、今こそ新たなる始まりを・・・・!


メルネスの声は高く、歌い上げるように叫んだ











フと、歌が聞こえて、ジャンティは作業の手を止めた。

この船が奪還されてから、しばらくの月日が過ぎた。

少しずつ、けれども確実に、人は滅びまでの道を縮めている。


それに気付いているのはきっと
ここで今、こうして船を作り変えている、自分達だけなのだろう。


―― 同族殺し


結構だ。


自分達の始末は、自分達の手で付ける。

例えそれが、独りよがりな決断だったとしても、だ。


ジャンティは、そっと歌の聞こえる方へと近づいてみる。


奏でる歌は、哀しそうな旋律だ。


歌っている主を見つけると、意外だ、と言うような顔をした。



「歌、上手いんだ・・・・」



声を掛けたのは、気まぐれか


掛けられた方は、大層驚いて振り向いた。


金の髪が、サラリと靡く


『メルネス』と、呼ばれていた女だった。


歳はそう変わらないだろうに、
まだ少し幼げの残る顔を、嫌そうにゆがめた。


「何をしている。
 さっさと作業に戻れ」

「やだなぁ、人使い荒いよ?
 朝からずーっと細かい作業をしているんだもの
 そろそろ休憩にしたって、罰は当たらないと思わない?」

「思わないな。
 お前達のしてきた事を思うなら、一日も早く作業を完了させろ」

「まあ、そう急かない急かない。
 気が急いたって、すぐに出来る代物じゃないんだよ。」


言うと、ジャンティは彼女の了承もなしに隣に腰掛ける。

瞬間、メルネスはその場から立ち上がった。

おや?と首を傾げるジャンティに冷たい視線を向けると
「5分したら作業に戻れ」と、そっけなく言う。


「じゃ、その間少し話しに付き合ってよ」

「断る。」

「少し、この船についても
 話さなくちゃならない事があるんだけど」


それでも駄目かな?と
ジャンティは気にした様子もなく言い募って


メルネスは暫くの間の後「用件だけ簡潔に言え」と。


「あ、その前にさー」

「っ人の話を聞いていたか・・・・?」


どうして用件のみを言えと言っているのに
早速横の道に入っていくんだ


拳を握るメルネスだが
ジャンティはニッコリとした笑みを向けているだけだ。


「俺はジャンティ。貴方は?」

「っ陸の民に名乗る名前などない・・・!」

「メルネスって、名前じゃないよね。」

「だから、人の話を聞いてるか!?」

「だって、教えてくれないと話しにくいだろ?
 じゃないと、勝手に呼んじゃうよ、メーちゃんとかネッシーとか」



ルネッサンスとか!とか
とんでもない呼び名をポンポンと出してくるジャンティに
折れたのはメルネスの方だった。

どうにか堪える拳を震わせて
「アルジェだ!」と乱暴に言い放った。

ジャンティはきょとんとした顔をした後に
表情を明るくする。


「へぇ、アルジェ。良い名前だ・・・・
 俺のいた星では『銀』って言う意味の言葉だよ」


意味があるのは偶然かな・・・?なんて
のんびり笑う男。

どうにもペースが分からなくて困る。

そうして見ると、
あの日、陸の民の先頭に立って自分を説得した男とは
別人物なのではないかと疑いたくなった。


けれども、スっと立ち上がったジャンティの表情から
突如として笑みが消える。

微かに俯ける表情は、影が掛かっていた。


「それでね、アルジェ。
 少し真面目な話をするよ」

「な、なんだ」


その唐突な変わりように、アルジェの反応が少し遅れた。

ジャンティは気にした様子もなく
「此処に来たときから解決しない問題なんだ」と呟く。


「この星にはね、この船を動かす動力になるものがないんだよ」

「動力が・・・・ない?」


怪訝そうに、アルジェは問う。


「だが実際、お前達はこの忌々しい大地を作り上げ
 我等の命を喰らう武器を作ったじゃないか・・・・!」

「そう、命なんだ。水の民の・・・・・」


声を荒げたアルジェに、ジャンティは頷く。


当初、この星に着いたとき、動力については揉めたんだ、と


その声は、メルネスに反して至って冷静だ。



「俺達の方でも、2極に分かれたんだよ。
 けれども結局、ほとんど強引と言ってもいい方法で
 この星独特のエネルギーである、蒼我の力を使う事になった。
 そして、そのエネルギーを使う為に、媒介として
 蒼我と意思を通じ合う水の民の命そのものが使われる事になったんだ。」



それが、この船が水の民の命を喰らい動く理由だと
ジャンティは言う。

不当な理由に声を荒げそうになったアルジェを
けれどもそれを、手で制した。

怒るのはもっともだ、
けれども最後まで話しを聞いてからにして欲しいと。


「未だに、この星で動力として利用できるものは
 蒼我以外に見つかっていないんだ。つまり・・・・・」

「・・・・媒介として、我等の命が必要になると、そういう事か?」


ジャンティは、静かに頷いた。

アルジェは、きつく唇を噛む。

こいつ等は、最後の最後まで
自分達に犠牲を要するのだと、怒りが湧いた。

けれども、すぐにフっと力を抜く。

出来る限りの笑みでも浮かべて、目の前の男を
睨むに近く見据えてやった。


「ならば、答えは簡単だ。」

「え・・・・・」

「最後の犠牲には、私がなろう。」


アルジェは言う。

クルリと背を向けて、話すことはもう無いとでも言うように
さっさと何処かへ行こうとしてしまう。

慌てたように引き止めたジャンティに
アルジェは、振り返りもせずに答えた。


「私は・・・メルネスだ。
 水の民の未来を導く義務がある。」


蒼我と意思を疎通させる事に、媒介としての意味があるなら
自分以上の適役は、恐らくこの水の民の中にはいない。


―― 自分は、メルネスなのだから。



「そのように事を進めろ。」


これ以上話す事はないと、
尚も言葉を続けようとしたジャンティに
アルジェは以後の会話の一切を切り捨てた。







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オリジナル展開+超捏造スミマセンlllorzlll
あともうちょいだけ捏造話に付き合ってくだせ・・・・