打ち捨てられた地で30 |
ベースキャンプへと戻る途中 そう言えば、 たちの前に海が光ったのは何だったのか、と言う話になり セネルが聖爪術を手に入れたと言う話を聞いた。 それは同時に、セネルが自らの力を受け入れ、 そして、ステラへの思いを断ち切ったという事で。 心の底から、良かったと思った。 ジェイに言われても、 やはりセネルへの罪悪感は残っていたから。 だから、本当に良かったと思った。 ―― それなのに、笑みは上手く、浮かべられただろうか なんだか酷く、疲れたような気持ちだった。 「・・・ずっと、疑問だったんだけどさぁ・・・」 「何じゃ、シャボン娘。」 ベースキャンプに戻り 揺れる火を囲みながら、ノーマがそう切り出した。 それに対して、は力なく火を見つめるだけで その疑問に返事を返したのは、結局モーゼスだけだった。 ノーマは、眉根を寄せながら、口元に手を添えた。 「四角い船――要は、この遺跡船だけど、 どっか違う星から来たのって、この船なんだよね?」 「?今まで蒼我が見せてきた映像を見る限りは、そうなのだろうな」 「でしょ? んで、その船に乗ってきたのは、水の民・・・って、話だったじゃん?」 「ああ・・・・それが、どうしたんだ?」 どうにも要領を得ない質問の繰り返しに セネルとウィルが怪訝そうに首を傾げる。 ノーマは、其処まで言っても分かってくれない一同に 逆にもどかしさを感じたようで、手をバタつかせた。 「だーかーらぁ!つまり・・・・」 「先ほどの映像だと話が食い違う、という事ですね。」 「そう!それよ、ジェージェー!!」 「どういう・・・事だ?」 クロエが、やはりまだよく分かっていない声音で問いかける。 ジェイが、腕を組みながら、目線だけでを捉えた。 は、力なく笑みを返して ジェイの視線にこめられたその疑問を、静かに肯定する。 その肯定を受けてか、ジェイは再び一同に視線を向きかえると ゆっくりと、説明を始めた。 「始め蒼我から貰った情報で、僕たちは 光跡翼は、大地を消滅させるもの、という認識でいました。 けれどもそれは、光跡翼という装置の、機能の一つでしかない。 しかも恐らくは、その消滅という機能は、後から追加されたものなんでしょう」 「あん?なんでそがあな事が言えるんじゃ。」 「映像の中で、ジャンティが言っていたじゃないですか。 『この世界の大地は、この船で作り上げた。 自分たちなら、その逆にする事も、可能だ』とね。」 先程見たのは、単なるへの返答ではない。 自分たちの導き出した答えに対する矛盾を教えるように 幾つもヒントが隠されていた。 「その後の彼の発言から察するに、 この星には元々、陸地はなかったんでしょう。」 ノーマが、自分達は陸がなくては生きていけないと発言した あの時の、あの表情。 恐らくジェイは、ずっとそれが引っ掛かっていたのだろう。 この星には、元々大陸なんてものはなかった。 水の民は水棲の生き物で、大陸などなくても生きていけるからだ。 それなのに、陸地にこだわる、水の民。 そこでまず、あの映像に矛盾が生じる。 「それは・・・つまり・・・・」 「ええ。この船を元々所有していたのは陸の民、という事になります。 そして、別の星からやって来て、この星のあるべき姿を変えてしまった・・・ ・・・・この星に侵略してきたのは僕たち、陸の民だったんですよ。」 ジェイの言葉に、その事実を考えもしなかったのだろう ノーマとジェイ以外の皆は、ショックを受けたような表情をした。 そんな中、は一人、ぼんやりと考える。 確か、この事実はここでは知られないはずだったと。 これで良かったのか、分からない。 それでも―――それでも・・・・・・ 「そんな・・・・それじゃあ・・・・」 「ワイ等が・・・ワイ等が来んかったら、何も起こらんかった、ちゅうんか・・・?」 俯き、呆然と呟くクロエとモーゼスに ジェイもまた、同じようにして地面へと視線を落とす。 「・・・・そうだとしたら・・・僕たちのしてきた事は・・・・」 「・・・・・・無駄でも、横暴でも・・・ないよ。」 呟くように言ったその声に、皆が俯いていた視線を、上げた。 先ほどまで力なく座っていたが、立ち上がる。 その瞳に、強い光を携えて。 「・・・さん・・・・?」 「陸の民が後悔するのは、この星にやって来た事じゃない。 この星に来て、話し合いをしなかった事だよ。」 真っ直ぐに見据える瞳が、炎に揺らめく 思わず目を奪われるような、不思議な色。 そしてそれは、心の中の暗く暗鬱だった部分を 強く掴んで立ち上がらせるような、そんな凛とした真っ直ぐな色だった。 「数千年前の人達がやろうとしなかった話し合いを 長いときを経た今、私達がしようとしてるんだよ。」 「・・・・・・・・・・。」 「何千、何万・・・ううん、もっと。もっとたくさんの命を、私達は背負ってる。 何億といるこの世界の人達が、今生きてる事、私達は知ってるじゃん。 陸の民も水の民が変わりない生き物だって事も、私達は知ってるんだよ。」 「けど・・・・っ」 「なに、じゃあ皆、水の民に遠慮して、殺されてあげるの?」 「そんなわけ・・・・っ!!」 「でしょ?私だってヤダよ。死にたくないもん。 でも、私達が膝を着いたら、そういう事になっちゃう。 何億人もの今を生きる陸の民を、見殺しにすることになるんだから」 ほら、ちゃんと顔上げて! がパンっと手を叩く。 「私、先代メルネスの生まれ変わりなんでしょ?」 全員、弾かれるようにの表情を見た。 彼女の様子に、揺るぎはない。 凛と立つ、ただそれだけだ。 「・・・けど、それは・・・・」 「全然ショックなんかじゃない・・・・なんて言えば、嘘になるよ。 でもよーっく考えてもみてよね、これってチャンスじゃん。」 「え?」 状況を飲み込めない。 そんな声を出したのはノーマで は人差し指をひとつ立てて、微かに笑みを浮かべた。 「マウリッツが言ってたでしょ? シャーリィが駄目だったら、私を使うつもりだったって。 それってつまり、私にもまだ、力を使える可能性があるって事じゃない?」 「それって・・・つまり・・・・」 「シャーリィの状況にもよるけど、ね。 私にも、光跡翼の発動を止められるかもしれないって事。」 その瞬間、ノーマの表情がパッと輝いた。 「それって凄いじゃん!」と、明るい声を出して。 「あたし等・・・まだ、可能性が残ってんだ・・・・!」 「そーそ。それに、セネルの存在も忘れちゃ駄目でしょ? セネルも聖爪術を手に入れたって事は、シャーリィを説得できる唯一の人が 一緒に来る事が出来るようになったって事なんだし。」 自分達は、さっきよりもずっと正確に 静かの蒼我が教えてくれた歴史を知ることが出来た。 それはきっと――― 良かったのか、悪かったのかは解らないけれどそれでも 彼女を説得するに当たって、きっと、何か大きな意味を成してくれる。 勘違いしたままで話し合いに臨むよりは、きっと、ずっと。 だから――ほら、可能性がどんどん出てくるジャン。 そんな風に、笑みを向ける。 今見てきた映像で、悲観するべき部分なんて、ないのだ。 それから、「それで?」と小首を傾げる。 唐突な問いかけに、一同は顔を見合わせ は、「つまりー」と、砕けたような声音で言った。 「可能性、さっきより出てきたでしょ。 その可能性を、俯いて見ないふりして、棒に振る気?」 そんな、彼女の強気な笑みを、 どこか呆然としたような気持ちで見つめて ジェイは、何処か安堵にも似た表情を浮かべた。 「まったく・・・貴女は・・・・・」 「ん?」 「能天気な頭の作りの人ですね、本当に。」 「まーね。思考は全てポジティブシンキングするように作られてんの。」 なんてね。 は笑う。 先程まで力のなかった瞳が嘘みたいに。 そして、今まで沈んだ顔をしていた一同が、嘘みたいに。 皆が、微かに笑みを浮かべる。 セネルが、立ち上がった。 「オレは・・・やる。」 「セネル・・・・・」 「みんな、俺にもう一度機会をくれ。シャーリィを説得する。」 セネルが拳を握り、ジェイを見つめた。 ――そういえば、セネルとジェイは意見の食い違いをしていたんだったか なんだか遠い事のように思われて フと思い出したように、思う。 「俺はシャーリィに、今まで言えなかったことを言う。」 「シャーリィさんなら、セネルさんの言葉に 耳を傾けるかもしれませんが・・・・」 「メルネスだったら、難しい・・・・かな。」 ジェイの言葉の後を引き継いだに、セネルはしばし考える。 けれどもそれは、既に決めてあった事を口にする勇気を 持つための時間であったように思った。 「もし・・・シャーリィがメルネスで、 説得が上手くいかなかったら・・・・・俺がこの手で、決着を付ける。」 そうして発せられたその一言の重みに一同が、目を見開いた。 ジェイは、ただ静かに窺うよう彼を見ていて、 クロエは、その隣で信じがたいように彼を見上げる。 「本気・・・・なのか?」 「蒼我に力を託されたことの意味。 ここにいる、みんなの思い。俺だって、分かってるつもりだ。」 セネルの言葉は静かで、そして、穏やかだった。 そのセネルの言葉で、皆どこかで決心が固まったようだった。 ―― 例え自分たちが異世界人であっても、自分達は、生きているのだと そんな単純な事を、まるで今知ったかのような顔で。 モーゼスが、感極まったかのように立ち上がり 「セの字ィイ!!」とか叫びながら、セネルに思い切り抱きついた。 「きっと嬢ちゃん説得しようや!ワイも手伝うちゃる!」 ギョッとした様子で口元に手を当てた女性陣を一切無視で モーゼスはセネルに抱きついたまま そして、セネルもセネルでモーゼスを放ったまま、ジェイに向かった。 どうだ、ジェイ?と、真摯にその瞳を見つめたセネルに ジェイは微かに肩の力を抜いたように、笑った。 「・・・・・・約束しましたよ。」 「ああ。」 力強く応えたセネルにジェイはその瞳を強く見つめ返して。 やがて、あーあ、とわざとらしい声を上げた。 「せっかくセネルさん抜きで作戦考えてたのに。 それにさんの力の事も、考慮に入れ直さなくちゃじゃないですか。 これでまた、一からやり直しですよ。」 「あーあー、そりゃあ悪ぅ御座いましたね!」 あからさまな憎まれ口に、 ベェっと舌を出しても答える。 戯れるようなやり取りが、酷く久しぶりな気がして、嬉しかった。 グリューネが、穏やかに頬に手を当てながら 「ジェイちゃん、良かったわね」なんて微笑むと、ジェイは照れたように口篭りながら 少し皆の元から離れて、背を向ける。 「ジェイ」 そんな背中に呼びかけて、掛けるようにして前に回りこんだセネルは ジェイにそっと、手を差し出した。 「色々心配かけてすまなかった。 これからも、よろしく頼む。」 「・・・・・遠慮はしませんからね」 この2人のこんなやり取りが久しぶりで、 そっと、ジェイから差し出し返された、手の平。 「おお・・・・男同士が確執を経て、和解の握手を・・・・・」 ノーマの実況が入り、そして―― 「うおおっ!!何て感動的な光景じゃあぁ!!」 「「邪魔されたと・・・・・」」 お決まりの如くに、お邪魔が入る、と。 ノーマとが、顔を見合わせる。 示し合わせたように、お互い噴出した。 「何ですか、あなた。お呼びじゃないんですけど。」 「まったくだ。」 刺々しい言葉で言うも、彼は気にしない。 彼の独特な笑い声で「照れんな!」と言う一言に 「照れてない!」 と言うセネルとジェイの言葉が重なって 一同が、思わずと言う風に笑いに包まれた ―― 大丈夫、立ち上がれる ステラが最後に残した言葉を、自分は忘れない。 けれども自分は、自分の為に、この世界で戦う。 大丈夫、何があっても、きっと立ち上がれる 久しぶりに声を上げて笑い合った一同を見つめながら、そんな事を思う。 少しでも、可能性があるのなら それを捨てない、彼らの強さが、好きだった。 |