「地上に存在する蒼我と、静かの大地に存在する蒼我。」 「どちらも同じ蒼我では、混乱しそうだな」 再び走り出した機関車の中、 呟いたセネルの声にウィルが反応した。 反響する機関車内は、独り言もよく聞こえてしまう。 セネルの言葉が聞こえたのは、 何もセネルの隣に座しているウィルだけではなくて う〜ん、と皆が唸った。 「言い方を変えてはどうだろう?」 クロエの的確な進言に、 パッと明るい表情で返すのはノーマだ。 曰く、「も〜決まってるよ。」だそうで。 「あたしらの味方してくれるのが、蒼我ちん。」 「・・・・・・もう片方は?」 「ん〜、蒼我ぽん?」 「それ、結局解りにくくない?」 顎に手を当て、難しそうに答えたノーマ。 蒼我の呼び名に、ソレが変わっているのは結局語尾だけだ。 そんな事ないって〜!とノーマは言うが・・・・・ 「では、『猛りの蒼我』と『静かの蒼我』で行こう。」 「『では』って何!?繋がってないじゃん!」 「はーい!ウィルさんに賛成!」 「あああ!の裏切り者ぉ!!」 機関車内はあくまでも賑やかに、そしていつも通り、過ぎていく。 |
打ち捨てられた地で33 |
「あ〜もうっややこしい!めんどくさーい!!」 早速根を上げたのはノーマだった。 それとなく予想もついていた事だが、気持ちは痛いほど良くわかる。 何だ、この場所は。 ゼェっと息を吐いて、辺りを見回した。 遺跡船独特の、深い紅。 そこに描かれる緩やかな曲線の文様。 水上に浮かぶ城壁のような其処には、至る所に 独特のフォルムを描くモニュメントが置かれていた。 不思議な光を放つソレは、 どうやらただのモニュメントではなかったらしい。 不思議に思って手を触れた瞬間、辺りの景色は一転した。 とは言え、変わらず独特の紅い遺跡ではあるのだが。 「わ、わーぷ?」 「そのようですね、こんなもの、 ただ置いてあるだけではないでしょう。」 恐らく、コレを駆使しないと、宮殿内には入れないでしょう。 言ったジェイの言葉はまさしくだった。 とはいえ、何処に飛ばされるかも解らないワープ装置だ。 さっきから、明後日の方向に飛ばされては戻ってを 繰り返しっぱなしである。 時にはゴールかと思い近づけば、 巨大なカカシ像が安置されている小部屋だったりもして ―― あれがただの像であった事が、本当に救いだったが。 あんな物が動き出したら、たまったものじゃない。 「・・・・・・姿は見えど、近づけず、か・・・・・」 セネルが溜息と共に呟くのは、ノーマが以前 この蜃気楼の宮殿に対して言っていた言葉だ。 彼女が言っていたのは、 あくまでも自然の地理が影響して踏み込めない、という話だったが 今現在、こうして歩いてみれば、言い得て妙だった。 「焦っても仕方ない。此処は慎重に進んでいこう」 「ええ、ワープした先が罠だったなんて事も、 有り得ない話ではありませんからね」 「うえ〜、それは勘弁してほしいな〜」 「なぁに、いざとなったらワイが何とかしちゃる!」 「そうですね、いざとなったらモーゼスさんを囮にしましょう、」 「ほほぉ、ジェー坊、え〜度胸じゃ」 気が急くセネルをウィルが諭し、それに同意するジェイに ノーマがげっそりと返す。 後の流れは、もう例に倣って、と言う所だ。 ゴス、ゴスっと重たい音が2つ、 彼らの頭に落ちるのも、もう慣れたもので・・・・ 「・・・・・?」 「・・・・・・・・・・・へ?」 そこで、クロエがフと気付いたように、名前を呼んだ。 はハっとして顔を上げる。 クロエが心配そうに覗き込んでいた。 「どうかしたのか?さっきから黙りっぱなしで・・・・」 どこか具合でも悪いのだろうか、 そんな表情をしている彼女に、盛大に首を横に振って否定した。 「ち、違うの、そうじゃなくて・・・・・」 「なんだ?どこか怪我をしているのなら早めに言え、 お前は我々と違って、治癒術が効かないのだからな」 「え、えーと、怪我もしてないです。そうじゃなくて・・・・」 「なんじゃ、嬢、ハッキリせい!」 モーゼスに言われて、だからっ!と語尾を強く言う。 おっとりと口を挟んだのは、グリューネだった。 「ちゃん、元気なかったわねぇ」 ハッとした様に、皆が表情を硬くした。 言うのは、機関車で待っていると言って つい先程自分達を見送ってくれた、あの少女だ。 は「うん、」と、何処か覇気なく頷く。 「何か言いたそうだったなぁ・・・って、」 「は、この世界に来てからずっと 水の民んトコいたんだもんね・・・・・」 そりゃ複雑だよ・・・・とノーマ。 全く以ってその通りだ。 しかも彼女は、ワルターに惚れていたのだ。 否、過去形にするのはまだ早いだろう。 惚れている、が実際だ。 迷いが生まれて、当然だ。 「だが、今はそれを気にしている場合じゃないぞ。」 これから向かわないければならないのは、 それに気を取られてどうこう出来る相手の元ではないのだから。 はい、解ってます、とは頷く。 光り輝くモニュメントに触れて、辺りの景色は一瞬で移り変わる。 その速度に目眩を覚える程だ。 ゆっくりと、地に着いた両足を確認しながら、目を開く。 ―― 目の前にはもう、触れる事すら出来そうになかった蜃気楼の宮殿が、迫っていた。 「!みんな気をつけろ!何か近づいて来る!」 「何っ!?」 蜃気楼の宮殿へ足を踏み入れた瞬間だった。 セネルの鋭い声が飛び、全員が一斉に辺りへと気配を探らせる。 はハっと、一つの角に意識を向けた。 瞬間、そこから現れる黒い羽を持つ、魔物。 ――ガスト=ルシフェルが現れる。 「皆っあそこ!!!」 言うと同時に臨戦態勢に入ったに続き、 前衛のセネルが真っ先に拳を振りかざし、 怯んだ隙を狙って、クロエがその身体を深く切りつける。 「無光なる最果ての渦 永遠の安息へ導け ――ブラックホール!!」 その瞬間、打ち込んだのブレスに、敵が倒れる瞬間を縫うように、 ジェイが幻影走殺劇を打ち込んだ。 瞬間、完全にバランスを崩し倒れた敵の足をセネルが掴んだ。 「巨岩裂落撃!!!」 気合を入れるかのような怒号の後、ガスト=ルシフェルの身体を 思い切り、遺跡船の緋い地面へと叩きつける。 砕けた破片が、の横を過ぎ去るのを、寸前で避ける。 バラバラに――とまではいかない。 けれども、もう動けないであろう事が分かるほどに、 ガスト=ルシフェルの腕や翼は折れ曲がり、所々では罅が入っている。 隙のない連携に、完全に動きを奪われたガスト=ルシフェルは、 そのまま、もう動く事はなかった。 「ひ・・・・っうわあっ!!」 瞬間、ガスト=ルシフェルの現れた隅の角から、 水の民らしき衣装を纏う男が2人、足を縺れさせる様に逃げていく。 その様を、全員で見送った。 「今の人達が、あの魔物を操っていたのか?」 「そのようだな」 「今の人たち―――・・・・・」 「ん?どうした、。」 「あ、いや・・・・・。」 は、水の民の逃げていった方角をただ、見つめる。 あの人たちには、見覚えがあった。 確か、ヴァーツラフへの夜襲攻撃の時。 が、腕の怪我のせいで、救護班として動いていた時だ。 彼等は戦争に赴き、そして腕に怪我を負い、救護テントへ戻ってきた。 その後すぐ、のブレスを受けた後には、簡単な礼と共に、 また戦場へと走り向かってしまったけれど―― ああ、本当に―― 今自分たちは、水の民と敵同士なのだ。 今更のように、思ってしまうのだ。 「っとりあえず、アイツ等の後追ってみよう! シャーリィのところに行けるかもしれない!」 「ああ、急ごう!」 そんな、複雑な気持ちを振り切るように言ったに、 セネルが、力強く頷いた。 |