ちょっとばかりの御愛嬌 正直な所、結構自分は地元っ子だったりする。 田舎臭い所だけれども、昔から馴染んできた町並みだ。 挙句、自分は結構ドン臭い。 都会に出るよりは、この田舎のまったり具合の方が 性にあっている、とも思う。 ・・・・けれども、困った所もやっぱりあって。 「・・・一時間も電車に揺られるのは、ねえ・・・」 「・・・・マスター、顔青いですけど平気ですか?」 「平気・・・・これでも毎朝電車通学してるんだ、一応・・・」 困った所の一つ、良い物を求めたい時に 地元では手に入りにくい事が多い。 今回はカイトの物を『多く』求めなくてはならないから 主婦の見方、し●むらとかでも良いのだけれども、その他の 日用品なんかも全て揃える、となると、少し足を伸ばしたほうが 安くて良いものが手に入りやすかったりもする。 と、すれば電車に揺られて一時間ほどの所に行くのが この辺りだと一番良い。 ついでに言うと大学の近くでもある。 けれども・・・・・・ 自分は、電車に弱い。 「・・・今のマスターを見てると、とても 毎朝電車通学している人には見えませんよ・・・」 「しょうがないじゃないのー。車走らせても良かったけど 今の時代、ガソリン代だって馬鹿になんないのよー?それに車で行く場合、 駐車場探したりしなくちゃだし、駐車場だって結構高いんだから。」 車の方が強いのかと言ったらそうでも無いのだが、 最近では自分が運転している分、多少はマシになってきた。 けれども先に言ったように、それをした場合のお金の心配がある。 それでなくても、今日は恐らく大量に買い込む事になるのだ。 少しでも金銭面での余裕を作りたい。 それだったら、毎朝使っている月極め駐車場に停めて 自分は定期を、カイトにだけ切符を買って電車に乗った方が、全体的に安くすむ。 ・・・・・因みに帰りは、兄が荷物だけ回収してくれるらしい。 荷物だけじゃなく自分たちも乗せていけと文句を垂れたら 恐らくシートが一杯で乗るスペースがないが、お前達がトランクに乗るか?だそうで。 バンド仲間と何かしらあるらしく、荷物だけ回収、と言うのも 兄なりの精一杯の協力なのだそうだ。 「あー、ダメダメ、酔って来た時には、それこそ別の楽しい会話をするのよ。 そして酔いを忘れるのが一番なのよ。うん。」 「そうなんですか?」 「これでも20年間の知恵よ、ふふふ・・・って なに?そんな驚いたような顔して。」 「・・・・え、あ、いや。」 楽しく会話ーとか思っていたら、カイトは驚いたような顔をしていて 首を傾げて見せたら、カイトは何かシドロモドロと手を振る。 ・・・・・・何となく、分かったぞー 「見えなくて悪かったわね、これでも二十歳よ。 お酒も煙草も解禁してるわよ、くそう。」 煙草は吸うつもり一切ないけどね! 悪かったわねどうせ見えないわよ 未だにコンビニでビールとか買おうとすると、 不審そうな目で見られるわよ。 ・・・・・これでも160センチ以上身長あるのに、なんで幼く見えちゃうかなぁ・・・・・ 「す、すみません・・・・」 「いいよ、慣れてるもん。 ・・・・ねえ、そんなに二十に見えないかな、私。」 「えっと・・・そんな事はないんですが・・・」 そんな事ないのに、じゃあどうして驚いたんだお前・・・ ジト目で見ると、カイトはあわあわ手を振って。 「そ、そうじゃないんですけど、ふ、雰囲気が!」 「雰囲気?」 「なんか、ふわふわしてるって言うか・・・」 「・・・・カイト、一回眼科も行っておこうか。」 昨日からの私を見ていて、ふわふわしてるとのたもうたか、コイツは。 絶対目の病気だ、病院行こう病院。 「へ、平気ですよ!俺視力両目1.5ですよ!!?」 「うわっ無駄に良い・・・」 「むー・・・・」 「そのふくれっ面したいの、私の方だって。 あんまりそう言うの言われなれてないんだから、勘弁してよ・・・」 「そうなんですか?」 「そうなんですよ。」 「意外です。」 「・・・・・・・。」 「・・・・マスターは十分に可愛いですよ・・・・」 「・・・・あー!あー!!聞こえなーい聞こえない!!!」 「あっちょ、聞いて下さいって!」 「聞きません!勘弁しろって言ってんのに 尚言うかお前は、この鬼畜めっ」 「きち、く・・・・っ」 休日の若者が溢れ返るこの電車の中、 一際テンションが高い自分たち。 ・・・・・優先席とかの近くじゃなくて良かった。 それにしても、会話の中身は大分難だが。 酔いも少しずつ冷めて、ホッと息を付きながら 冷静にそんな事を思って。 フと、相向かいの席に座っていた若い女の子達――多分高校生くらいだろう――が チラチラと此方を見ている事に気付く。 ・・・・カイト、顔立ち整ってるからなぁ・・・・ 女子高生達にとっては、キャーキャー騒ぐ対象にもなるだろう。 あのコスプレ服も、朝の段階では大分慣れていたけれども 今こうやって普通の服装をしているカイトの隣を歩くのは 自分も少しばかり、ときめくし。 その場では、そんな風に思っていたのだが、 女の子と言うのはどうも、会話が盛り上がってくると、自然と 声も高く大きくなって、会話の中身が聞こえてくる位に耳障りな物になる。 会話の内容が聞き取れた瞬間、流石の自分も、ムっとした。 ・・・・・・こういう会話、大っ嫌いだ。 要は、嘲笑。 カイトの髪が青いから、それが珍しくて、目立つから。 それを話の種に笑い合っているのだ。 カイト自身も気付いたのか、 眉を下げて、自分を見下ろしている。 「マスター、俺、髪染めた方が良いですかね・・・」 少女達の耳には入らないよう、声の大きさを加減して、カイトは言う。 そんな気遣い、あんな子達に必要ないのに・・・っ とか、思ってしまう自分は、酷い奴なんだろうか。 それと同時に、あんな子達のせいで、 困ったような顔をして、哀しそうな目をしている、 その事が物凄く腹立たしくて。 昨日今日の付き合いだとか、そう言うのは関係ない 自分はカイトの事を、信じられるイイヤツだと思ったし、 それが見ず知らずの他人に嫌な意味を含めて笑われているのは、 どうしようもなく不愉快なのだ。 「・・・・・必要ないよ、カイト」 出来るだけ、声を抑えてカイトに返す。 カイトがした気遣いを、無駄にもしたくなかったから。 本当なら、あの子達に聞こえて気まずくなる位の声で 返してやりたいところだったけれども、 これでも二十歳、大人の余裕を見せろ、・・・・っ カイトの手に、そっと触れる。 人の物と全く変わらない、体温。 カイトと出会って、昨日今日。 カイトはどう見ても、人以外のものには見えない。 驚いた顔をしているカイトに、笑みを向ける。 「向こうに着いたら、まず帽子でも買おうか。 何もないより、多分マシでしょ?」 「でも・・・・・」 「だって、地毛でしょ?それ。 傷んでもないし、サラサラだし、綺麗なんだし・・・勿体無いじゃん。 何より、その色、すごくカイトに似合ってる。 人のいう事なんて、気にする事ないよ、カイト」 「・・・・・・・・。」 「はい、カイト君、お返事ー。」 「・・・・・・・・・はい、マスター」 うん、宜しい。 言った自分に、カイトもニコリと、いつもの笑みを返してくれた。 そうこうして着いた、目的地。 電車から降りるとき、 件の女の子達を、カイトには気付かれないようこっそりと 思い・・・・・・っきり睨みつけて軽く竦み上がらせた、なんてのは まあ、御愛嬌だろう。 |